『進撃の巨人』が漫画史に残る傑作である理由 容赦なく“自由の犠牲者”を描く

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2021年01月23日 08:01  リアルサウンド

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『進撃の巨人』33巻

 諫山創の大人気漫画『進撃の巨人』(講談社)の第33巻が発売された。


 すでに4月9日に発売される別冊少年マガジン(2021年5月号)で最終回を迎えることが発表されており、6月に発売される第34巻が最終巻となる予定だ。


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 2009年に連載がスタートした『進撃の巨人』は、中世ヨーロッパを思わせる巨大な壁に囲まれた城郭都市を舞台にしたダークファンタジー。壁の外からやってくる巨人の群れと戦うエレンたち調査兵団は、やがて世界の秘密を知ることになる。人間を容赦なく食らう巨人たちと戦う人類の物語は、単行本発売と共に話題となり、2010年代を代表する少年漫画となった。


 アニメ版も好調で、現在は最終シリーズとなる『進撃の巨人The Final Season』がNHKの日曜の24時10分から放送中。2021年は『進撃の巨人』の年となりそうである。


※以下、ネタバレあり。


 「始祖の巨人」の力を手に入れたエレンは、壁の中に閉じ込められた無数の超大型巨人たちを開放し「地鳴らし」を決行。エレンを止めるために共闘した調査兵団のアルミン、ミカサ、ハンジ、リヴァイ、コニー、ジャン。マーレー国の戦士であるライナー、アニ、ピーク、マガト、そして戦士候補生のファルコとガビ、反マーレー派義勇兵のイェレナ、オニャンコポンは、まずはエレンに従うイェガー派の兵士に捕まっていたアズマビト家のキヨミを救出。彼女の協力でアズマビト家が所有する飛行艇でエレンを追うため、飛行艇の整備ができる格納庫があるマーレー海岸都市オディハへと向かう。


 マガト元帥の犠牲によって何とか出港できたアルミンたちはオディハに到着。そこでアニ、ファルコ、ガビは、チームから離脱し、残りのメンバーが飛行艇でエレンの元へ向かうことになる。しかし整備完了となる1時間前に、イェガー派の兵士・フロックが飛行艇を襲撃し燃料タンクに穴を開けてしまう。そこに「地鳴らし」をおこなう超大型巨人たちが現れる。ハンジはアルミンを第15代調査兵団団長に任命した後、時間を稼ぐために、一人で巨人たちに戦いを挑み、飛行艇が飛び立つのを見送った後、命を落とす。


 死の瞬間、ハンジは先に逝ったエルヴィンたち調査兵団の仲間たちと再会する。長年活躍したレギュラーキャラクターの退場場面は悲しいが、どこか安堵感があるのは、今までハンジが調査兵団団長としての重責に苦しむ姿を観てきたからだろう。


 飛び立った飛行艇の中で、アルミンたちは作戦を立てる。地ならしを止めるには「始祖の巨人」と化したエレンの元に近づきアルミンが持つ超大型巨人の爆発の力で吹き飛ばすしかない。そのためにはエレンの本体がいる場所を正確に見極めなければならない。一方、リヴァイは、エレンはジークを介して「始祖の巨人」を支配しているのだから、先にジークを倒せば「地鳴らし」は止まるのではないか? と指摘する。その後、エレンが始祖の巨人の力を用いて、アルミンたちと意識を接続する。


 「地鳴らし」を止めるためにエレンを説得するアルミンやミカサに対し、エレンは「オレを止めたいのなら」「オレの息の根を止めてみろ」「お前らは自由だ」という言葉を残して、意識の接続を解除する。


 一方、ヒィズル国へ向かう船に乗ったアニたちだったが、ファルコは、自分の中に宿る巨人の力を使えば「羽の生えた巨人」に変身して空を飛ぶことができるかもしれないと言う。おそらく最後の鍵は、ファルコたちが握っているのだろう。アルミンたちが飛行艇から「始祖の巨人」と化したエレンの元に降下して戦いを挑むところで次巻に続く。バトル漫画として、これ以上にない最高の引きである。


 対して、アルミンたちと平行して描かれるのは「地鳴らし」によって超大型巨人に踏み潰される人々の姿だ。特に印象に残るのが第131話「地鳴らし」。この回は「始祖の巨人」と化したエレンの視点で物語が描かれるのだが、かつてエレンが助けた少年が地ならしによって発生した瓦礫によって足と顔が潰され、巨人に踏まれる姿が容赦なく描かれている。


 物語冒頭のエレンの母親が巨人に食われる場面を筆頭に、『進撃の巨人』は「ここまで描くのか!」というシーンの連続だったが、エレンが手に入れた自由の犠牲になって殺される人々の姿も、本作は容赦なく描く。しかも大人ではなく子どもたちが死ぬ姿を描くのだ。


 何よりやりきれないのは、(巨人の力で)未来が見えるエレンは、過去にスリとして捕まった子どもたちを助けた時に、将来自分はこの子たちを殺すことになるということを知っていたこと。


 仲間を助けるためにエレンは世界を滅ぼす存在になってしまうのだが、その姿を諫山創は美化せず、その選択によってエレンが「子どもを含めた罪のない多くの人々を殺しているのだ」ということを、容赦なく描く。この姿勢は終始一貫しており、だからこそ少年漫画の歴史に残る作品となったのだろう。


 果たして諫山は、エレンにどのような結末を与えるのか? 泣いても笑っても残り1巻である。


(文=成馬零一)


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