『鬼滅の刃』名もなき鬼殺隊の「子どもたち」――彼らの献身は"特攻精神"と”自己犠牲”への賛美なのか

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2021年01月24日 13:05  AERA dot.

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写真脇役だが一部ファンからは人気がある「村田さん」(画像は公式Twitterアイコンより)
脇役だが一部ファンからは人気がある「村田さん」(画像は公式Twitterアイコンより)
『鬼滅の刃』は、週刊少年ジャンプに連載された「少年向け」の漫画であるが、年齢層を問わず、爆発的な人気を得た。ただ、国民的人気漫画となったゆえ、物議をかもした点もある。年端もいかない子どもたちが、あまりにもたくさん亡くなることだ。少年、少女たちが鬼殺隊の隊士として、自らの生命を他人にささげるストーリーは「特攻隊の美化」のように受け止める人もいた。はたして『鬼滅の刃』は、「危険な漫画」なのだろうか。(以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます)

【写真】「上弦の鬼」のなかで最も悲しい過去を持つ鬼はこちら

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■傷つき、倒れゆく「鬼殺隊」の隊士たち

 鬼殺隊の隊士たちの多くは、大切な人を鬼に殺害されている。主人公の竈門炭治郎(かまど・たんじろう)とその妹・禰豆子(ねずこ)は、母親と兄弟たちを亡くし、水柱・冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)は姉を、風柱・不死川実弥(しなずがわ・さねみ)兄弟は母を鬼にされ、ほかの兄弟たちを失っている。岩柱・悲鳴嶼行冥(ひめじま・ぎょうめい)は自分が親代わりとなって面倒を見ていた孤児たちを殺され、蟲柱・胡蝶しのぶ(こちょう・しのぶ)は父母と姉と弟子たちを、蛇柱・伊黒小芭内(いぐろ・おばない)は親族を、霞柱・時透無一郎(ときとう・むいちろう)も双子の兄を鬼に喰われている。名も無い隊士たちも、それぞれに大切な人を鬼に奪われている。

 鬼殺隊の主力メンバーたちの平均年齢は低く、10代の者も多い。主人公の炭治郎は15歳だ。「柱」ですら最年長が27歳の悲鳴嶼で、最年少の時透はなんと14歳である。隊士たちは、無力だった子ども時代に、親兄弟を失っているケースが多い。彼らの心は、大事な人を亡くしたその時、「子どもの頃」に一度死んでいる。時が過ぎ、肉体は成長し、強さを身につけてはいくものの、隊士たちは、あの「悲しかった子ども時代」から抜け出せないままに、鬼滅の刃をふるい続ける。それでも、鬼との戦闘のなかで、多くの隊士たちが志半ばで命を落としてしまうのである。

■鬼殺隊の構成員

<柱とは鬼殺隊の中で最も位の高い9名の剣士である 柱より下の階級の者たちは恐ろしい早さで殺されていくが 彼らは違う>(6巻・第46話「鬼殺隊柱合裁判」)

 これは、鬼殺隊構成員の死亡者の割合を端的に示す一文である。コミックス1巻には、鬼殺隊が「数百名」で構成されていると書かれており、柱を除いた、その数百名という膨大な数が、短期間で鬼との戦いのうちに命を落としていることがわかる。

<鬼殺隊は生身の体で鬼に立ち向かう 人であるから傷の治りも遅く 失った手足が元に戻ることもない それでも鬼に立ち向かう 人を守るために>(1巻・第4話「炭治郎日記・前編」)

 この説明に加えられている挿絵では、鬼殺隊の隊員と思しき人物が、おびただしい血を流しながらも、片手で「日輪刀」をかまえている場面が描かれている。

 鬼殺隊の構成員には、隊士になるための試験「最終選別」を受ける前の者たち、剣術に優れず鬼殺隊の後方支援を行う「隠」(かくし)という集団もいるが、これらの構成員のほぼ全てが、鬼に関連する事件によって、大きな被害に遭っている。

■「鬼殺」の動機・鬼殺隊の責務

『鬼滅の刃』は主人公の炭治郎と妹・禰豆子をはじめとし、隊士たちの平均年齢がきわめて若いこと、鬼との戦いの中で他者のために命をなげうつ者の数の多さから、「個人の命を軽んじすぎている」「戦時中の美化された特攻のような描写だ」と非難されたことがあった。

 しかし、『鬼滅の刃』で戦う者たちは、命令によって徴収された兵士ではなく、自らの志願によって隊士になった者だけである。この点が「戦時下」とは大きく違う。これには「特攻隊も自らの志願ではないか」との反論もあろうが、鬼殺隊の隊士は、本人に戦闘の意思がなくなれば、「いつでも」隊士を辞めることができる。自らの意思で前線を退くことができるのだ。

 そのような「自由な選択」ができるにもかかわらず、鬼殺隊には、自ら戦いに赴く者が数多く存在する。そんな鬼殺隊の隊士たちを、鬼の総領である鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)は「異常者の集まりだ」と吐き捨てる。

 下級の隊士である「村田」は、最高剣士の柱ですら瀕死の重傷を負う中で、無惨と対峙した際に「アイツが無惨…家族の仇…殺す…殺す!!」と日輪刀に手をかけようとしている。自分の実力不足を十分に認識しながらも、村田は、鬼舞辻に惨殺された仲間の死体を見てもなお、その闘志を失わない。村田以外の隊士たちも皆、仇のため、仲間を助けるため、残された家族や仲間を鬼に殺させないために、その身をささげている。

■戦う子どもたち、人柱になった子どもたち

 鬼殺隊の隊士たちは、その長・産屋敷耀哉(うぶやしき・かがや)に「子どもたち」と呼ばれている。産屋敷自身も23歳で、まだ若い当主であることから、一読しただけでは違和感もある。なぜ鬼殺隊は「子ども」と呼ばれるのか。

 まず、戦闘集団のトップと構成員の関係を「親―子」と表現することは珍しくない。卑近な例では、暴力団なども同様だ。だが、鬼殺隊では隊士たちがいずれも、親が殺されていたり、親がいなかったりとさまざまな境遇にあり、自らの子ども時代の思い出や心情にとらわれている人物が多いことが、その呼び名と関連している。

 鬼に親兄弟を殺害されなかった者たちも、鬼殺隊に志願した者は、隊士の勤めについて<いつ死ぬかわからないんだ>(我妻善逸/3巻・第19話「ずっと一緒にいる」)と認識しており、鬼殺隊とは<命をかけて鬼と戦い人を守るもの>(煉獄杏寿郎/8巻・第66話「黎明に散る」)と説明されている。自分の命をかえりみることなく、その身を悪鬼滅殺にささげる者たち、それが鬼殺隊である。

 彼らは損得感情や保身を捨てて、戦いの最前線に身を置く。まだ若く、別の人生という選択肢がありながらも、「他者の」死の運命に必死であらがおうとする。

「死ぬな!!俺より先に死ぬんじゃねえ!!」(不死川実弥/21巻・第179話「兄を想い弟を想い」)と子どものように泣き、神にかなわぬ祈りをささげるのは、柱だけでなく、他の隊士たちも同じである。人の願いも意思も踏みにじる「鬼」を消滅させるために、「鎮める」ために、隊士たちは「人柱」となって「他者のために」犠牲になり続ける。

■「名もなき」英雄たちとその救済

 鬼殺を支える一般人、「藤の家」に住む年配の女性は、炭治郎、善逸らを送り出す際に「どのような時も誇り高く生きて下さいませ」と、「生きるのびること」と、彼らの「美しい心が失われないこと」を願う。隊士の「育手(そだて)」である、鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ)は、「もう子供が死ぬのを見たくなかった」と炭治郎の頭をなでている。そんな大人たちの願いもむなしく、「子どもたち」の戦闘は激化していく。

 最終戦の鬼舞辻との戦いでは、「柱が来るまでに少しでも何か役に」と隊士たちが叫ぶ。鬼舞辻の攻撃から柱を守ろうとし「行けー!!進めー!!前に出ろ!!柱を守る肉の壁になれ!!」と己を鼓舞しながら、切り刻まれる隊士たちの顔や体つきは、いずれもまだ若く幼い。稽古で、炭治郎たちと訓練に励んだ「吉岡」「長倉」「島本」「野口」は生きているのか。結局、それもわからない。

<鬼狩りという組織が数珠繋ぎとなって それ自体がひとつの生き物のように私を絡め取らんとしている>(鬼舞辻無惨/22巻・第196話「私は」)

 とあるように、鬼舞辻を死のふちへと追い詰めたのは、最高剣士の柱たちや、炭治郎たちだけではない。名もなき隊士たちの尊い命と人生の重なりが、彼らの幸せだったころの思い出が、負けそうになった剣士たちに再び力を与え、炭治郎を「この世」に戻す原動力になった。その後の隊士たちが幸せな人生を送ることを、彼岸にいるかつての仲間たちはずっと見守り続けている。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』『はじまりが見える世界の神話』がある。

このニュースに関するつぶやき

  • さっき1巻から22巻まで一気に買ってきた。 その後、マックスバリュに行ったら、鬼滅の刃のフィギュアが売ってて↓
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  • AERAだから何かケチ付けるのかと思って全文読んだら感想文かい?
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