村上春樹、山中伸弥、山極壽一 初の生放送年越し「村上RADIO」裏話

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2021年01月24日 16:00  AERA dot.

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写真延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、村上春樹さん、山中伸弥さん、山極壽一さんと京都で一緒にした年越しについて。

【写真を見る】京都で生放送した「村上RADIO」

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 年末年始「ゆく年くる年」の特別枠はどの局も一番の出演者を立て企画を練る。

 2020年は「これまでに経験したことのない厳しい年」だった。それに相応(ふさわ)しい方にマイクに向かって欲しい。ならばこの人しかいない──。思い切って、村上春樹さんにパーソナリティをお願いした。「『村上RADIO』を特別な時間に、初めての《生放送》でやりませんか?」と。こうして『年越しスペシャル〜牛坂21〜』が立ち上がった(このタイトルは丑年生まれの春樹さん自身の命名)。

 サウンドハンティングに番組送出場所となった京都に向かった。下鴨神社で僕らを迎えてくれたのは「風」だった。イヤフォンで風の音を聴くと体が耳ごと京都の空に舞い上がっていく気持ちになった。「そうだ、番組冒頭にこの風の音を流し、春樹さんのデビュー小説『風の歌を聴け』の一節を朗読しよう」

 翌朝は東山の青蓮院門跡に。年またぎ部分で流す除夜の鐘の収録である。美しい庭に雪が舞い、許可を得て寺の鐘の前でマイクを構えた。強く弱く、ご〜んと鐘を撞(つ)く。そのたびにカラスが啼くのには参った。オンエアの時間にカラスはいない。同行していた編集者のTさんが「延江さんが鐘を撞くと、空気の振動で雪が揺れながら降っていきますね」と呟いた。それは鐘の音が「見えた」瞬間だった。そのTさんが最後に鐘を撞いたのだが、不思議なことにカラスが黙り、その音を放送に使うことにした。

 いよいよ大晦日になり、春樹さんが生のマイクに向かった。京都と東京をデジタル回線で結び、そこから北海道から沖縄まで全国に繋ぐ。前半は春樹さんのマラソン仲間でもある京大iPS細胞研究所所長の山中伸弥さん(ラジオネーム「AB型の伊勢海老」)とコロナの話題を中心に、年明けは世界的ゴリラ研究者、京大前総長にして日本学術会議前会長の山極壽一さん(ラジオネームは「ゴリラの背後霊」!)が昨年問答無用で(学術会議会員の)任命拒否をした現政権に対し「ゴリラを見習ったほうがいい!」と一喝した(詳しくは『村上RADIO』番組HPに抄録を掲載予定)。

 春樹さん、山中伸弥さん、山極壽一さんという世界的知性がリスナーに語りかけた一夜。Twitter画面に「村上RADIOで年越しできるなんて。人生の初のひとり年越しのお供には最高です」とリスナーが。「そうだよね。一人で聴いてくれた人がずいぶんいたんじゃないかな」と春樹さんが頷いた。新聞ラテ欄に「歴史的!初の生放送」と載り、一部始終を聴き漏らすまいというリスナーには新聞のコラムニストも。

「作家(村上春樹さん)は、自分の言葉を持たない政治家はブルースのコードが弾けないエリック・クラプトンのようだ、と語っていた。危機に指導者は、どんな言葉を発すべきなのか。新年早々、問われる局面だ」(日本経済新聞『春秋』2021年1月3日付)

 放送が終わり、おせちをつまみ、お祝いをした。山極さんが「新年だから、ゴリラ風にみんなで胸を叩きましょう。ゴリラのドラミングは威嚇じゃない。『さあ、みんなで前に進むぞ!』という掛け声なんです」

 春樹さんはもちろん、皆ディスタンスをとり、ポコポコポコと胸を叩いた。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

※週刊朝日  2021年1月29日号

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