写真 室井佑月・作家 |
作家・室井佑月氏は、菅首相の施政方針演説でコロナ対策の話が少なかったことに不満を漏らす。
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新型コロナウイルスなんてもう心配したって仕方ない、という人もいる。そういう人は、感染者であっても無症状な人がいる、という事実を無視して、むやみに動き回ったりする。
迷惑だな、と心の中で少し思う。が、自粛警察みたいな人が出てくるのもよろしくない。ギスギスした世の中は、誰にとっても生き辛い。
おなじ時代に生きて、未知のウイルス、コロナの恐怖も共有しているわけだもの、彼らがなぜそうなるのかを考えてみる。自分ではどうにもならないことに対し「もう、いいや」と思ってしまうのも理解できなくはない。
ただ、国のトップが、自分たちにとって聞こえのよい言葉を集め、それによって判断をくだしているように見えるのが、恐ろしい。
1月18日に国会で行われた菅首相の施政方針演説、新型コロナウイルス対策の話が少なかった。
話のほとんどが、今しなくてもいいんじゃないか、と思えるものだった。携帯電話値下げや不妊治療など、担当の大臣があとで話せばいいじゃん、といった細かい話ばかり。
観光立国の話も出たが、そんなのコロナが収束しないと話にもならない。
新型コロナウイルスで、この国は緊急事態なんじゃないの? なのに、ようやく国会が開かれたと思ったら、菅首相がどうでもいいことしかいわないので不安になった。
緊急時、国のトップの平時のような普通の演説は、奇妙に感じた。逆に人を不安にさせる力があるようだ。
あたしは今回こそ、菅首相はコロナ対策の方向転換を述べるのかと思っていた。現に、政府のコロナ対策は失敗ばかりで今がある。「Go To トラベル」をむりやり決行して感染を拡大させた疑いは晴れないし、なによりそのことは国民に誤ったメッセージを伝えることとなった。
あたしたちの頭の中には、「でも、この間まで政府は旅行しろっていってたしね」というのがある。2回目の緊急事態宣言で、人の出を前回ほど抑えられないのも仕方なかろう。
テレビ番組で「年末年始になったら陽性者は減ると思っていた」と述べた菅首相。18日の演説でははじめに、「政権を担って4カ月、直面する困難に立ち向かい、この国を前に進めるために、全力で駆け抜けてまいりました」と自画自賛した。どうしたら、そうなる? いやぁ、びっくりだ。まず正直に、今までの失敗をあげて、反省するところからはじめないとダメなんでは?
あたしたちは、コロナ対策、今までとは違ってちゃんとするという話が聞きたいのだ。その上で、ワクチンの安全性の話など、さらに深い話を聞きたいのだ。
室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中
※週刊朝日 2021年2月5日号