「児嶋だよ!」誕生秘話、芸人仲間の倏瓦雖瓩生んだキラーフレーズ アンジャッシュ・児嶋のブレーク前夜

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2021年01月28日 07:00  ウィズニュース

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写真アンジャッシュの児嶋一哉
アンジャッシュの児嶋一哉

間違った名前を振られ、「児嶋だよ!」の切り返しで知られるアンジャッシュ・児嶋一哉。ここ最近では、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)や『半沢直樹』(TBS系)に出演するなど、バラエティーだけでなく俳優としても活躍している。そんな児嶋にも長いトンネルがあった。タレントとして必要な個性を模索していた時、芸人仲間から導かれるように“イジられキャラ”をつかんでいく。児嶋が飛躍するまでの軌跡をたどる。(ライター・鈴木旭)

【画像】“児嶋イジり”の原点に居合わせた芸人、ラジオで親身なアドバイスをした同期

ネタ番組ブームで脚光浴びる
アンジャッシュは、2000年代にブームとなったネタ番組の常連として頭角を現した。

1999年から始まった『爆笑オンエアバトル』(NHK総合)では、面白い芸人の年間王者を決定する「チャンピオン大会」で第5回チャンピオンに輝き、その後も『エンタの神様』(日本テレビ系)、『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)など、数々のネタ番組で活躍。若手の注目株として脚光を浴びた。

彼らは、「すれ違いコント」と呼ばれるネタを得意とした。ワンシチュエーションでお互いが何らかの勘違いをしたまま会話が進行する。かみ合わないはずの言葉が、くしくもかみ合い続けてしまう滑稽さで見る者を笑わせた。

2018年4月22日に掲載された「文春オンライン」のインタビューによると、このスタイルはネプチューン・名倉潤の元コンビ「ジュンカッツ」が披露していた公衆電話のネタを見たのをきっかけに確立している。しかもそれは、自分たちコンビの“個性のなさ”に裏打ちされていたようだ。

どちらも「じゃない方芸人」
2020年2月11日放送の『白黒アンジャッシュ』(チバテレ)の中で、渡部建はこんなことを口にしている。

「人間性がなかったから、あれ(すれ違いコント)ができた。だからよく言うんだけど、AとBでコント全部作りあがって『どっちやる?』みたいな。ボケもツッコミもないから、ああいうネタって。どっちがどっちやってもいいんだけど、これだったら(と考えて)最後の最後に『じゃこっち児嶋でこっちオレだな』みたいな。本当に脚本ありきだから、個性がないことがよかったの。逆に言うとね」

“個性がない”は、タレントとして致命的だ。このことに渡部は危機感を抱いたのだろう。2007年からラジオ番組『PLATOn』(J-WAVE)のナビゲーターを務め、「恋愛心理学」を学び、ニッチな資格を取得するなどして自身のポジションを模索し始める。

一方の児嶋もプロ雀士の資格を持っており、2007年(および2013年)に『THEわれめDEポン』(フジテレビ系)で優勝するほどの実力の持ち主だ。しかし、これによってバラエティーの出演数が増えることはなかった。

通常、コンビやトリオのうち一人はキャラが立っているものだが、彼らはどちらにも特徴がなかった。極端に言えば、コンビともに「じゃない方芸人」だったのである。

同時代の「じゃない方芸人」たち
では、同時代の「じゃない方芸人」はどんな行動をとっていたのか。それをひもとくため、ネタ番組ブームと同時期に放送されていた『はねるのトびら』(フジテレビ系)の出演メンバーに焦点を当ててみる。

たとえば、アンジャッシュと同じ事務所のドランクドラゴン。同番組だけでなく、俳優としても活躍する塚地武雅の相方・鈴木拓は、「クズ」「ポンコツ」の扱いを受けていた。ギャラが折半だったこともあり、向上心を持つ必要性も感じなかったのだろう。

しかし、2011年に塚地は「このままでは鈴木がダメになってしまう」とギャラを個別に変更。これで火がついたのか、鈴木は積極的に番組で発言するようになっていく。2012年10月に放送された『run for money 逃走中』(フジテレビ系)では、鈴木らしい“ヒールキャラ”でよくも悪くも注目を浴びた。以降、鈴木の個性が知れ渡り、単独での活躍が目立つようになった。

『はねるのトびら』で人気を集めたロバートも同じことが言える。番組で秋山竜次が頭角を現す中、馬場裕之と山本博は目立たない存在だった。しかし、それぞれが得意分野を模索し始める。馬場はもともと興味のあった料理にハマって地方局で活躍、山本は30代中盤でプロボクサーのライセンスを取得して見る者を驚かせた。

つまり、「じゃない方芸人」と呼ばれた側は、ネタ以外の何らかの方法で注目を浴び、知名度を上げてコンビやトリオのバランスをとっている。アンジャッシュの場合、渡部がこれに近い行動をとったと言えるだろう。

“児嶋イジり”の原点はザキヤマだった
『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の「○○芸人」にスポットが当たった時代、渡部はグルメをはじめとする雑学を次々と吸収し、さらに活動の幅を広げていく。そんな相方を横目に、児嶋は2008年8月にソロコントライブ「タンピン」を敢行したが、バラエティーでの活躍につなげることはできなかった。

周囲の芸人も、そんな児嶋をどう生かせば面白くなるのか思案していたのかもしれない。そこで浮き上がってきたのが、2003年に行われた地方の営業ライブで“ザキヤマ”ことアンタッチャブル・山崎弘也ともめたエピソードだった。

ライブのエンディングで司会を担当した山崎は、児嶋に締めのコメントを求めた後、「からの〜?」「そして?」と約20分無茶ぶりを続けた。2010年4月に放送された『アンタッチャブルのシカゴマンゴ』(TBSラジオ)によると、このライブの少し前に渡部が「クールな児嶋」のイメージを崩そうと児嶋を追い詰めていたことがあったという。
これを見た山崎が、“児嶋バブルが起きた”と暴走したのだ。

しかし、そんなことを知る由もない児嶋は、舞台の幕が下りたのと同時に山崎に殴りかかった。

「まぁ営業で……これもね、そこだけじゃなくて。ずーっと(山崎については)いろいろあったから堪りにたまってっていうのはあんだけど。(中略)まぁまぁ殴りかかったところを柴田(英嗣)が止めたりっていうのがあって。アイツも一応、まさかオレがこんなに怒ると思ってなかったから、楽屋に震えながらちょっと謝りにきて。『すっ、すみませんでした』みたいに言ってんだけど、オレも殴ったことないから、(タバコを持つ手を震わせて)『気をつけろよ、お前』みたいな。2人とも震えてたっていう」(2021年1月19日深夜に放送された『あちこちオードリー〜春日の店あいてますよ?〜』(テレビ東京系)での発言より)

この話は、2006年〜2010年までにおぎやはぎやアンタッチャブルのラジオ番組でたびたび取り上げられている。今に通じる“児嶋イジり”の原点と言えるが、当時は児嶋の切り返しにパターンやキレがなかった。児嶋自身が、“イジられキャラ”を受け止め切れていなかったからだろう。

「児嶋だよ!」誕生の瞬間
とはいえ、そもそも舞台裏では旧知の仲であるバナナマン、おぎやはぎといった芸人にポンコツぶりをイジられていた児嶋。バラエティーで彼らと共演するうち、徐々に“児嶋イジり”が浸透していく。当初はまだプライドの高さが残っていたのか、児嶋の切り返しに笑いが起きないことも多々あった。そのため、視聴者からは好意的な目で見られていなかった記憶がある。

そんな空気を察してのことか、2011年10月に『アメトーーク!』で「児嶋あそび」なる企画が放送された。バナナマン・設楽統、アンタッチャブル・山崎、おぎやはぎ、有吉弘行、バカリズムが、「中央線の電車内で弁当を食べる」「味覚音痴で牛肉・豚肉・鶏肉の区別ができない」「ベッド横の壁に鼻毛をくっつける」といったエピソードを紹介し、改めて“イジられるべき存在”であることを謳った取り扱い説明書のような回だった。

以降、様々な共演者から児嶋はイジられるようになっていく。その中で定着したのが、間違った名前で呼ばれた後に「児嶋だよ!」と切り返すやり取りだ。2000年代の中盤に、ハリセンボン・近藤春菜が顔や体形の似た著名人・キャラクターの代表作などを振られて「○○じゃねぇよ!」と返すひな形があったことも大きいだろう。

2012年12月に放送された『ダウンタウンDX』(読売テレビ・日本テレビ系)の「お騒がせスター大集合SP」では、すっかり「児嶋だよ!」が定着している。つまり、2011年〜2012年の間に徐々に「イジられキャラ・児嶋」が完成されていったのだ。

何らかの発言・行動を起こして注目を浴びたタレントは多いが、周囲が追い込んだことでキャラが確立した例は極めて珍しい。そういう意味で、「児嶋だよ!」は芸人仲間の粘りが生んだキラーフレーズとも言えるのである。

個性がなくても確実に何かを残す
2008年公開の映画『トウキョウソナタ』で、児嶋は役者としての第一歩を踏んだ。前述の「文春オンライン」のインタビューによると、所属事務所に「(ドランクドラゴンの)鈴木拓さんか児嶋さんで」とオファーがきたという。こうした少ないチャンスが現在の活動に活きていると思うと感慨深い。

タレントというと、何かしらの個性がなくては活躍できないものだが、児嶋の場合は周りがポテンシャルを引き出して成功した。それだけ慕われていたのだろうし、環境に恵まれていたとも言える。

児嶋が、芸人仲間からどれだけ愛されているかを物語るエピソードとして、2012年3月に放送されたラジオ番組『バナナマンのバナナムーンGOLD』(TBS系)本編終了後のPodcastにゲスト出演した回がある。ここで設楽統が「なぜ最近のブレークの裏にバナナマンの存在があることをテレビで言わないのか」と児嶋に詰め寄るのだが、最終的には“児嶋がバラエティーで生き残るための術”を諭す深い内容になっていく。

「(最近出演した『しゃべくり007』だけじゃなく、『アメトーーク!』の)『児嶋あそび』の時も力入り過ぎちゃってさ、ダメだったじゃん。いや、もっとよくなるはずだったんだよ。緊張して『何かしなきゃ』が乗っかっちゃったじゃん。だから言ったじゃんあの時、力入れちゃダメだって。それだとさ、やっぱ今でやっとさ、ちょっと面白いなってぐらいなのにさ。そんな力入れちゃうと、『あれ、コイツつまんねぇな』になると一番危険な時期なのに。今一番頑張るっていうのはそういうところなんだよ。いや難しいよ、全員できたらみんな売れるからね。それを……こう、だから本当に前も言ったことあるけど、部品が揃ってない物で作ろうとしてるんだから。そういう意識を持たないと」(『バナナマンのバナナムーンGOLD』の設楽統の発言より)

児嶋とバナナマンは同期だ。とはいえ、ここまで親身になってアドバイスするのは、“不器用だが児嶋は面白い”という期待と信頼があってこそだろう。一般には知られていなくとも、同業者からは「児嶋の売りはここだ」と認知されていた。また、児嶋自身がそれを受け入れられるようになり、チームプレイでつかんだ成功ではないだろうか。

「大した特徴がない」と自負する者でも、人間関係や経験によって確実に何かを残す。それだけの人間的な魅力があったからこそ内輪でおさまらない芸に昇華できたとも言えるのだろう。

児嶋のブレークは、見る者にそんな勇気と気付きを与えてくれる。

このニュースに関するつぶやき

  • 鈴木旭のwithニュースの記事、面白いのが続くなあ。 今回も面白かった。前回のマヂカルラブリーの漫才の定義を語った記事も面白かった。
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  • 児嶋だよ!俺もだよ!違うだろ!なんて日だ!うるせぇよ!
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