『【推しの子】』『女の園の星』『怪獣8号』……マンガ大賞2021を受賞するのは? ノミネート作を一挙解説

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2021年01月28日 08:01  リアルサウンド

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「マンガ大賞2021」
マンガ大賞2021ノミネート作品(50音順)

『【推しの子】』赤坂アカ・横槍メンゴ
『女の園の星』和山やま
『怪獣8号』松本直也
『カラオケ行こ! 』和山やま
『九龍ジェネリックロマンス』眉月じゅん
『SPY×FAMILY』遠藤達哉
『葬送のフリーレン』山田鐘人・アベツカサ
『チ。―地球の運動について―』魚豊
『水は海に向かって流れる』田島列島
『メタモルフォーゼの縁側』鶴谷香央理


 ネット時代の漫画人気の広がり方を示すようなラインナップだ。2020年に刊行された漫画で、友達に一番薦めたい作品を投票してもらう「マンガ大賞2021」の候補作品が出そろった。


 第6巻の初版部数が100万部を超えて話題になった遠藤達哉『SPY×FAMILY』(集英社)や、新連載作品ながら「週刊少年サンデー」誌上で大人気の山田鐘人原作・アベツカサ作画『葬送のフリーレン』(小学館)など10作品がノミネート。雑誌に掲載されるだけでなく、ネットでも作品が展開されることで面白さが広く知られ、評判となる作品が多く入った。


 前回は、油絵で東京藝大を目指すソフトヤンキーが主人公の山口つばさ『ブルーピリオド』(講談社)が受賞したマンガ大賞。今回は、95人の選考員が最大で5作品まで投票できる一次選考で挙げた216作品から、得票の多い10作品が二次選考へと駒を進めた。この中で、前回に続いてノミネートされたのが『SPY×FAMILY』だ。


『SPY×FAMILY』遠藤達哉 集英社

 東国に潜入した西国の男性スパイが、カムフラージュのために疑似家族を募ったが、そこで妻にしたのが西国でもトップクラスの殺し屋で、娘に迎えたのが心を読むことができる超能力者だった。夫婦はお互いの正体を知らず、娘だけが心を読んで知っていることで起こるドタバタが面白く、「少年ジャンプ+」(以下、J+)でのネット配信作品にも関わらず大人気になった。


 「J+」連載作品からは、篠原健太『彼方のアストラ』がマンガ大賞2019を受賞しており、ネット発でも面白ければ支持を得られることは証明されていた。2年連続のノミネートもそうした支持の現れで、あとは惜しくも2位となった前回の雪辱を果たし、栄えあるマンガ大賞の栄冠にたどり着けるかに注目が集まる。


『怪獣8号』松本直也 集英社

 もっとも、同じ「J+」から松本直也の『怪獣8号』(集英社)もノミネートされているから、簡単にはいかなさそう。怪獣が暴れ回る世界で、怪獣を倒す組織に入りたいと憧れながらも果たせなかった男が、年齢制限の緩和で再挑戦しようとするものの、自身が退治されるべき怪獣になってしまうという設定で話題になっている。


 第1巻が刊行されたばかりの早い段階でノミネートに至ったのは、それだけ話題が広がっているということ。同じく第1巻だけの段階で、マンガ大賞2010を獲得したヤマザキマリ『テルマエ・ロマエ』(KADOKAWA)の例もあり、新しい物好きで先物買いの傾向があるマンガ大賞を、一気に獲得となる可能性も低くはない。


 同じジャンプ系でも、雑誌の「週刊ヤングジャンプ」連載作品からのノミネートが赤坂アカ×横倉メンゴ『【推しの子】』(集英社)と、『恋は雨上がりのように』(小学館)がアニメ化や実写映画化された眉月じゅん『九龍ジェネリックロマンス』(集英社)だ。


『【推しの子】』赤坂アカ・横槍メンゴ 集英社

 『【推しの子】』は、異世界転生ならぬ推しアイドルの双子の息子へと転生してしまった元医者の男と、同じように熱烈なファンから同じアイドルの双子の娘に転生した少女がメインキャラ。第1巻では、幼い双子の視点からアイドル業界の大変さ、第2巻では、成長した双子が芸能界で苦闘する姿が描かれる。


『九龍ジェネリックロマンス』眉月じゅん 集英社

 『九龍ジェネリックロマンス』は、香港にかつて存在した九龍城砦によく似た舞台で、30代の女性と男性が繰り広げる、仕事や食事といった日常が淡々と描かれていく。「ヤンジャン」連載と言いながらこの作品は、アプリの「ヤンジャン!」やウエブサイト「となりのヤングジャンプ」でも発信されている。


 『【推しの子】』も同様に、「J+」や「となりのヤングジャンプ」で発信中だ。雑誌を手に取らずともネットからアクセスできることで、口コミで評判を知ってアクセスし、リアルタイムで追いかける人が多くいて、話題が広がっているようにも見える。


 それは、山田鐘人原作、アベツカサ作画『葬送のフリーレン』(小学館)も同様だ。「週刊少年サンデー」で連載されているが、同時にネットの「サンデーうぇぶり」を通して展開を追っていける。


『葬送のフリーレン』山田鐘人・アベツカサ 小学館

 魔王を倒したパーティの一行にあって、ひとり不老のまま長く生きてきた魔法使いのフリーレンが、パーティ仲間の勇者や僧侶を失った後で、人間には寿命があって離別が避けられないことに気づく。切なさを感じさせる設定だが、一方で僧侶や戦士の弟子をパーティ仲間に加え新たに始めた旅で、フリーレンがさらすポンコツぶりが楽しめる。読めば分かる面白さに、ネットから手軽にアクセスできることで口コミにドライブがかかって人気作となっていく。そんな傾向が、今回のラインナップから漂ってくる。もちろん、そうした作品ばかりではない。


『水は海に向かって流れる』田島列島 講談社

 「別冊少年マガジン」に連載された田島列島の『水は海に向かって流れる』(講談社)は、『SPY×FAMILY』と同様に2年連続のノミネートだ。直達という少年は父親、榊さんという女性は母親が、どちらも不倫の状態で駆け落ちした過去を持つ2人。それと知らず同じ下宿先で出会い、事情を知ってお互いに気まずさを感じる一方で、関心を抱き合うようになる展開は、普通ならドロドロとした情念にまみれたものとなる。そこを、田島列島ならではの、ほのぼのとした描線のキャラクターや背景が中和して、忌避感を抱くことなく物語に入っていける。


『女の園の星』和山やま 祥伝社 『カラオケ行こ! 』和山やま KADOKAWA


 漫画家としては前年の『夢中さ、きみに』(KADOKAWA)に続くノミネートだが、今回はまったく別の作品で、『女の園の星』(祥伝社)と『カラオケ行こ!』(KADOKAWA)がそろってノミネートされるという、マンガ大賞始まって以来の事態になったのが和山やまだ。女子校で教師をしている星が、生徒の漫画制作の相談にのったり、校内で犬の世話をしたりする『女の園の星』の展開も、合唱部の少年がヤクザにカラオケ指導を頼まれる『カラオケ行こ!』も、日常と大きくは外れていないものの、どことなくおかしさを感じさせるシチュエーションを巧みに選んで描き、評判を呼んでのノミネートとなった。


『メタモルフォーゼの縁側』鶴谷香央理 KADOKAWA

 マンガ大賞2019に続くノミネートとなった鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』も、75歳にしてBLに出会いハマってしまった老婦人が、58歳も離れた女子高生と仲良くなり、サイン会に行ったり、同人誌即売会に出たりするようになるという、興味を誘うシチュエーションを用意。そこで繰り広げられる、年齢差を気にさせない交流の素晴らしさを見せてくれた。どうしても生まれてしまう遠慮の気持ちがズレをもたらすこともあるが、完結まで続いた2人の交流が、穏やかな読後感をもたらしてくれた。


『チ。―地球の運動について―』魚豊 小学館

 最後の1冊は、魚豊『チ。地球の運動について』(小学館)。ガリレオ・ガリレイが「それでも地球は動く」とつぶやいたという逸話で知られる、中世の教会による地動説の弾圧をテーマにした作品で、少年から修道士からさまざまな人物が出てきては、教会の弾圧や追求を受けながらも、地球が動いている可能性に迫っていく歴史漫画だ。


 マンガ大賞は、選考委員がこれらの候補作のすべてを読んだ上で、1位から3位まで選んで投票。最も多くポイントを得た作品が受賞作に選ばれる。どの作品が大賞に輝くかを想像しつつ、自分なら何を選ぶかを読んだ上で考えてみよう。


■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。


このニュースに関するつぶやき

  • マンガ大賞にノミネートされた10作品が丁寧に解説されていて良い記事。実写化のし易いなら、『【推しの子】』か『女の園の星』かな。
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