ライターがいいマイクを買い、普通の人がライティングする時代 小寺・西田の2021年新春対談(後編)

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2021年01月29日 13:03  ITmedia NEWS

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写真AシリーズからNeural Engineを投入して機械学習コアも取り込んできたAppleはM1でさらにAI機能を伸ばした
AシリーズからNeural Engineを投入して機械学習コアも取り込んできたAppleはM1でさらにAI機能を伸ばした

 1月4日に収録した、ジャーナリストの小寺信良さん、西田宗千佳さんの新春対談を前後編でお届けする。今回は後編。



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・「こんなの俺らのAppleじゃない!」 M1 MacショックとWindowsの行方 小寺・西田の2021年新春対談(前編)



 昨年の大きなトピックといえば、やはりM1 Macが予想外に良かった、ということ。停滞気味なパソコン業界に新風を吹き込んだとともに、これからのコンピューティングを考えるのに非常に良い材料だったのではないだろうか。



 今回はそんなお話である。



小寺 Windowsって、8以降UIをいじったりタッチになったりいろいろなスタイルに対応してきたけど、じゃあそれでユーザー体験って本当に上がったのかなというところがあるんですよね。



西田 やっぱり、M1の良かったところって、これをこのままハイエンドで出されちゃ困っちゃうけど、ノートパソコンとしては劇的に体験が良かった、ということだと思うんですよね。



 まさにAirはちょうどいいマシンで、10万円のマシンでなんでこんなに速くてこんなに快適なの、というのがやっぱりコアじゃないですか。そういうのが今はWindowsにはない、というのは事実だと思うんですよ。



小寺 うん。形状はね、けっこう自由度がある。メーカーがいっぱいあるから、いろんな形のやつ、タブレットもあるし、2in1もあるし、いろいろやってはいるんだけど、なんかこう、決め手に欠けるというかね。



西田 そう。本質的な快適さがまだ足りないな、と思ってて。発熱とか、消費電力の低さとか、あと、本当はもっと言うと、すごく細かい話になるんですけど、IntelのCPUにもきちんと機械学習のコアが載ってるから、ノイズキャンセルだったりバーチャル背景だったり、ガンガン使えればいいのに、第10世代のCore iシリーズからしか載ってないのであんまり使ってないんですよね。だからIntelも広告出して、「エッジAIにIntelの最新CPUを」みたいな記事をいろんなメディアに書いてもらったりしてるんだけど。そういう活用のされ方をしてないので、結局CPUとGPUが回っちゃって、パフォーマンスが落ちる、という部分もあるんですよね。



小寺 うん。今はもうパフォーマンスを決めるのはCPUよりGPUですよね。



西田 今、我々が快適だと思う仕事って、GPUとAIの(機械学習用の)コアに依存してる部分がすごく大きい。だって例えば動画編集だったらGPUにほとんど依存してるし、AIもGPUかAIのコアに依存してるわけですよね。CPUの性能が本当に必要なのって実はゲームぐらいしかなくて。だからそこのバランスがちょっと今Intelは悪いな、と。M1はそこのバランスがスマートフォンで練られてきたところがあってちょうどいい、というのはありますな。



小寺 要するに、PCでやる仕事が、昔とはもう変わってきちゃいましたよね。



西田 うん、うん。昔みたいに普通にタイプする仕事じゃない。



小寺 やっぱりコミュニケーションとか、動画・写真を扱うツールになってきちゃっていて、情報を出す相手がスマホになっちゃった。でもスマホ向けコンテンツを作るのはスマホじゃできないんで、今はPCでやってる、という感じじゃないですか。そうなると求められるものは違うもんね。



西田 非常に面白いなと思うのが、2018年とか2019年に自分が書いたレポートとかをちょっと読み返してたんですね。そしたら、これから非常に可能性がある技術、とかいって、バーチャル背景の話を書いてるんですよ。高度なAIを使って、人間のシルエットを自動的に抜いて、グリーンバックを使わずに誰でもリゾート地にいるように仕事ができる、みたいなのをMicrosoftとかGoogleがやってて、こうやって見せてくれたんだ、みたいな記事を2018年とかに書いてるわけですよ。



小寺 うん。でも当時はさ、使い道がないじゃない(笑)。



西田 そう。使い道がないし、ものすごい遠いことだと思ってたわけですよ。でも、今になってみれば別に大したことじゃないし、こういう状況になってみれば、背景をぼかすとか、バーチャル背景ってすごく大切だ、ってことは分かった。もっと言うと、それに必要なのはCPUじゃなくてAIコアだったよね、とか、GPUだったよね、という話になってるわけじゃないですか。



小寺 (笑)。



西田 そこのパラダイムシフトみたいなのが、2年前は誰も分かってなかったんですよね、まだ。



小寺 そこがコロナ禍によって加速された部分はありますよね。一気にやらなくちゃいけなくなった。



西田 うん。テクノロジーが読めてる一線のエンジニアはたぶん分かってたんですよ。でも我々は結局、そこまで見えるわけじゃないから、初めて実装されたものを見たり、こうやってコロナ禍で使うようになったりして「あ、こういうことなんだ」というのが分かってきた、という部分はありますよね。



●求められるものが一変した世界



小寺 このあいだ、NECパーソナルコンピュータ広報部長の鈴木正義さんと対談したんですけど。NECって2015年ぐらいからずっとリモートワークを始めていて、もう5年ぐらい経っててノウハウが結構たまってる。やっぱりPCメーカーのほうが、そういうリモートワークみたいなのに業務的にはなじみやすいんですよね、すごく。自分たちの持ってるものでできちゃうから。



西田 そうですよね。



小寺 さらにIT社会の見本を見せないといけない立場だから。5年前ってもっと環境が全然悪かったと思うんですけど、それでもやり続けていて、それが今は実を結んだ感じになってきているんです。テレワークなんてもう80年代から提唱されてたわけですけど、でもそれが一般化するのはもっと先だと思ってたわけですよ。「10年後、20年後の未来ってこうだ」という話だったんだけど、それが急に前倒しになって、1年以内にみんなリモートワークするようになっていて。



西田 たぶんその時に、こうしなきゃいけないと思ってたことよりも、もっとつまらないことが重要だったんじゃないかな、という気がしてるんですよ。バーチャル背景なんてまさにその典型で。



 だって別にどうでもいいじゃないですか。例えば僕の部屋が汚いのが見えてたって、ビデオ会議して見てる相手は別になんとも思わないし、もしかすると汚いとも思ってないかもしれないわけじゃないですか。



小寺 そうね(笑)。



西田 でも、それは自分の心理の問題だから。別にバーチャル背景にこだわる必要もないし、もっと言うとミュートすればいいからタイプキャンセルもする必要だって別になかったんだけど。



小寺 うん。



西田 「いかに簡単に会議をするか」みたいな、大上段に構えてたのが、実は、人間が生活していくうえでちょっと重要だったことは、自分の顔色をもうちょっと綺麗に見せる方法だったりとか、もしくは視線が下に行っちゃわないようにちょっと自動補正するとか、わりとこう、人間に即した部分だった、というのが若干あるかもしれないですよね。



 使ってればそれが見えてくるんだけど、技術開発しました、できるようになりましたというレベルの時代には、そういうのってあんまり思いつかないっすよね。



小寺 そうね。あとはやっぱり笑ったのはさ、ライターがみんな競い合うように良いマイクを買ったのがね(笑)。



西田 あ、そうね。はいはい。僕も買いましたけど。うん。



小寺 一斉に良いマイクを買ってきて、上から吊ってラジオみたいに喋ったりとかさ。



西田 そうそう。いやまさに、2年前、3年前に、ドリキンさんたちがやってたことを全員追っかけてるじゃん! という。YouTuberがやってたことは映像コミュニケーションだったんだから、それはそうだよね、という話ではあるんだけど。



小寺 うん。でも相当みんなやるようになったし、これまであんまり関心がなかった人たちも、「やっぱりマイク大事だね」とか、「このアナログで出力するやつはいったいどうすればいいの?」みたいな、集音のノウハウとかさ。



西田 そうそう。「ループでハウリングが出ちゃうんだけど」とか普通の人が言うわけでしょ。



小寺 言う、言う。ライティングとかもするようになったしね。



西田 あ、そうですね。僕も一個、今ライティングしてますけど。



 この間おかしいなあと思ったのが、たまたま僕はオフラインで会見に出てたんですけど、携帯電話の会社のやつで。「オンラインからの質問を受け付けます」と言って、NHKの人がオンラインか何かで質問してて、超ハウリングしてたわけですよ。「オイオイオイ、NHKがハウリングだよ」ってみんなで突っ込んでて(笑)。



小寺 (笑)。



西田 いや、記者だから知らないこともあるよ、って思いつつも、でもそういうツッコミをみんなしちゃうくらい、ある意味下世話な状態になってきてるわけですよね。それは去年、本当に実践されたということの証明だなと思って。



小寺 みんな通ってきたからね。一部の人しか知らなかったことを、あっというまにみんなが通ってきちゃった。



西田 うん。みんな苦労したんですよ。――というところも含めて、なんというか、2021年って、そういうのを受けたうえで、そういうのが当たり前のノウハウになって、じゃあ次、という世界なんだと思うんですよ。



●一人歩きするHDR



小寺 そんなわけで、今年流行るもの、みたいなのを考えていきたいですけど、なにかありますか。



西田 そういう意味では、2020年に来たけどうまく活用できてないのが、スマートフォンでのHDR動画撮影。



小寺 ああー、確かにね。



西田 iPhone12のHDRってやっぱりすごいなと思って。ただあれは、良くも悪くもiPhoneで見た時に一番綺麗にできてるので、それをどう外に出していいかとか、Appleが情報を出さなすぎる。



小寺 うん。CMはしてるんだけどねぇ。



西田 さらに言うと、他で快適に見るための方法論というのもまだ出来上がってないわけじゃないですか。今までカメラでHDRで撮るって、一部の一眼でHLGで撮って、カラースペース合わせて、みたいな、ものすごくプロのものだったのが、いきなり普通の人のものになって。



 それって、画質――体験する画質を上げる、という意味ではすごく重要なことだと思うんだけど、今は撮れるんだけど使われてないじゃないですか。なぜなら、YouTubeにアップロードすると白飛びしちゃうし、観てるディスプレイによって色はガチャガチャだし。きちんとしたノウハウも、ソフトウェアもないので、もしかするとそこはひとつポイントなのかなと思ってて。



小寺 うん。



西田 一方で、カメラという世界を考えると、HDRのコンシューマー化というのはいよいよやっと来るのかなと。それは、一眼とかでHDRを撮れるようになっていた、というのとはちょっと別の方向性としてくるんじゃないか、という感触がちょっとあるんですよね。



小寺 うん。スマートフォンが対応したことでね。やっぱり一番身近なカメラですからね。僕はHDRとかHLGとかが撮れるカメラのレビューで、サンプル動画をHDRで作ってYouTubeに出したりとかしてたんだけど、最近はちょっとやめていて。



西田 うん。



小寺 逆に、HDRをカラーグレーディングしてSDRにして、サンプルを出してるんですよ。というのはみんなね、YouTubeにHDR対応で載せても、HDRで見られてない。



西田 うん。見れてないです。



小寺 (笑)。だから無駄だな、と思って。



西田 そうそう。iPhone12のレビューの時に、「こんな白飛びした動画を上げるなんて!」と言われて、「いや、それはあなたが見れてないんです」っていう(苦笑)。ああ、そうじゃないんだ、ってなって。



小寺 そうね。だから最近はカラーグレーディングしてSDRのパリッとした映像に落とし込んだほうが反響がいいというか、感触が良くてね。



西田 本当はね、みんなHDRのテレビを最近は持ってるんだから、もうちょっとテレビがきちんと見れる環境を整えてくれればいいんですけど、これもまたね……大変じゃないですか。



小寺 そうなのよ。例えば、テレビに映すソースってトリキリ(画面いっぱいにそのコンテンツだけを表示すること)だし、なんらかの動画サービスにアクセスしても、トリキリの画が出た時に初めてHDRになるわけで、UI自体はHDRじゃないじゃないですか。



西田 そうですよね。



小寺 僕、今はHDRが映るテレビにMacの画面を映して仕事してるんだけど、でもパソコン、macOSのUI自体はSDRでしかないので、それでHDRは編集できないわけですよ。HDR対応の映像出力をちゃんとつけて、別モニターとしてテレビにトリキリで映せばHDRで見られるんだけど、すごくコストをかけてそれやっても大した人数見れてない、というのが分かったので(苦笑)。HDRは今のところ、動画を作る側がコストに合わない。



西田 そうなんです。



小寺 プロフェッショナルは違いますよ。プラットフォームにコンテンツ納品すればHDRで観てくれるから、やっても全然効果があるんだけど、普通の人がサンプルをYouTubeに出すぐらいだったらHDRを頑張ってもあんまり報われないという。



西田 本当はね、みんながスマホで見てるんだったら、FacebookとかTwitterとかインスタに上げた動画がHDRで撮影されたものだったら、as isで見れるぐらいになってくれるべきなんですよね。



小寺 そうそう、そうなんですよ。YouTubeでもいいんだけど、それだったら全然話は変わるんですよね。



西田 うん。やっぱりそれは、あまりにもHDRで撮れる環境が少ないし、見られる環境も少ないから、一部、面白い、綺麗だ、と感じてる人がいる、というレベルになっちゃってるので。それが変わって少し増え始めるのが2021年かな、とは期待したいんですけどね。



小寺 あとね、コンシューマーにおいては、HDRというものの定義がすごく曖昧になってきてる感じがあります。



西田 あっ、それはその通りだと思う。



小寺 僕、この間iPhone12 miniのレビューをしたんですけど、あれってディスプレイが500ニトなんですよ。



西田 はい、そうです。



小寺 僕らHDRコンテンツを作る時のモニタリングって1000ニトないとちゃんと見られない、というのがプロでは常識なので。



西田 そうですね。



小寺 iPhoneのディスプレイは厳密にはHDRじゃない、みたいなことを書いたら、「こいつこんないい加減なこと書いて大丈夫?」みたいなことが書かれていてですね、はてなに(苦笑)。いや、大丈夫じゃないのはお前のほうだよ、って言いたかったんですけど。なんかね、HDRの定義が甘くなってる感じがあります。OLEDだったら大丈夫、みたいな感じになってきてるのかなあ。



西田 多分。結局、ダイナミックレンジが見た目出てればHDRだろ、みたいな、ユルさはありますよね。



小寺 スマホメーカーも、ディスプレイを売りにする時に、ちょっとHDRという言葉を安売りしちゃったのかな、という感じもあるんですよね。メーカー公式が400ニト、500ニトとかのディスプレイでもHDR、みたいに言い出すと、みんな「そんなもんか」と思っちゃうじゃないですか。



西田 うん。



小寺 あとね、HDRの特性をフルに生かした画を撮るって、けっこう大変なんですよ。



西田 や、その通りです。



小寺 光源入れ込みで、シャドウもあって、0から1023までダイナミックレンジがあって成立する画って、なかなか撮れないですよ。そんな簡単に。



西田 うん。



小寺 なので、HDRで出しても「期待したほどじゃないね」とか言われたり。今のところ頑張って撮ってもあんまり報われてない感じがあるよね。



西田 結局、iPhoneが綺麗に見えるのって、ディスプレイと撮る環境が一対一対応してるから綺麗に見えてるんだと思ってるんですよ。それはいいとして、それをもうちょっと広げましょうよ、というところに対して、各メーカーはどう考えてるのかな、と。HDRをみんな売りにするならそこは考えてほしいし、決して価値がないものじゃない。



 日常をパッと撮っても、確かに0〜1000のデータは入ってないけど、今まで入ってなかった800〜1000ぐらいのきらめきが入ってたら夏っぽくなったりとかするわけじゃないですか。



小寺 基準が曖昧になる感じがありますね。one by oneで解決しちゃうと、基準は別になくてもいい、基準はこのハードウェアだ、ということになっちゃう。



西田 俺が法律だ、になるじゃないですか。



小寺 そうそう。だから、“外に出す”という感覚は、たぶんスマホの世界にはない。頑張ってやっても自分たちにリターンがないから。



西田 うん。それは全体的にある気がします。それに写真もクサいんですよね。写真撮るとHDRのデータが入ってるので、iPhone、iPadで見た時と、他で見た時で違うんですよ。あのへん実は僕、Appleのやり方があんまり好きじゃなくて。それはみんながきちんと見られるようにデータ公開して、サービスも実装してもらって、ってやらなきゃいけないんじゃないの、とは思いますね。



 ……ということを言うと、Appleは「いや、きちんと配慮してアウトプットしてるから」とか言うんだけど、その配慮を俺は知らん、という。



小寺 はははは(笑)。見たことねえな、その配慮は。



※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。


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