「オレの正体をいま話して聞かせる」94歳オンナ詐欺師、最後の大ボラ! 商店街を主婦を巻き込む大脱走劇【岡山・高齢女性詐欺師:後編】

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2021年01月30日 20:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

(前編:94歳、“オンナ詐欺師”の仰天「ホラ吹き」人生ーー「年寄りには親切に」を逆手に

商店街の人々を丸め込む、得意の「手段」

 市内に住むAさんはこのころ銭湯で、滝本キヨと名乗るトミヨと出会った。年を聞いて驚いた。なんと94歳だというのだ。

「10歳は若く見えますよ」
「ふふふ、そうだろうねえ」

 トミヨは年齢を逆に“水増し”することで、相手の警戒心を弱めていた。

 さらに駅前商店街にふらりと現れ、そこでも“仕掛け”を続ける。ちり紙を買うにも分厚い札束をチラリと見せ、ときには、札束の包みを店先に忘れ、すぐに取りに戻って、こうトボける。

「やれやれ、94歳にもなるとボケちゃって。天涯孤独で金ばかりあっても、どうしようもないよ。あっはっは……」

 寿司屋では、500円の寿司を食べても千円札を投げ出し、きっぷの良さを見せつける。

「お釣りだって? いらないよ。オレは江戸っ子だよ」

 こんなふうに存在感を示しながら商店街を練り歩くが、トミヨはよたよた歩きでよく転ぶ。通りがかりの女性が助け起こすと、その手を振り払って「何するんだい。親切そうな顔して、本当は私の財産を狙ってるんだろ? 銀座の土地かい? 株券かい?」などと叱り飛ばす。

「まあ、何を言うんです。私はただ、お年寄りだと思ったから……」

 女性が憤慨していると、トミヨはじっと女性を見つめ、ぽろりと涙を流しながら言うのだった。

「ごめんなさい。本当に親切心で助けてくれたのかい。ああ、若いのにやさしい人だ。あなた、住所と名前を教えておくれ。私はもう94歳。明日にも死ぬ身だ。でも天涯孤独で遺産を譲る相手もない。今のあなたの親切、忘れずにお礼をしますよ……」

 この手を使えば、住所と名前を教えない者はいなかった。

 また銭湯で出会った先のAさんは、後日、商店街でトミヨにこんなことを頼まれた。

「岡山の人は親切じゃと聞いたが、このあたりで余生を送りたい。どこぞに間借りをお願いしたい。金は十分銀行に預けてあるから、利子だけで生活できる」

 品のある和服に白足袋姿のトミヨを、Aさんもすっかり信用した。そしてGさん夫妻にも話した“銀座のタバコ屋”を話題にする。これはトミヨの定番ストーリーだったようだ。

「銀座に持っていた数十坪の土地を最近処分してな。いくら入ったかって? 考えてごらんな、天下の銀座だよ、計算すればわかるだろ」

「銀座に菊水というタバコ屋があってな。今改装中だが、それが終わると、そこの社長に収まることに決まっててな」

 などと言っては、岡山から東京に出て行くたびに、海外のタバコを仕入れ、戻っては「ここの株を持っているが、これは配当代わりに送ってきたもの」と言ってばらまき、皆を信用させていた。

 こうして機が熟した頃、詐欺に乗り出す。

「しまった、きょうは土曜日か。銀行は閉まっちゃったねえ。ちょいと、月曜まで1万円貸しとくれ。2万円にして返してやるよ」
「あら、1万円なんて言わないで、おばあちゃん。ここに5万円あるから、お使いなさいよ」
「そうかい。倍にして返してやるからね」

 月曜日が来ても、トミヨは金を借りたことを忘れているようだ。しかし貸した者が催促しようとすると、

「お前さんには、遺産の半分ぐらいあげようかと思ってんのさ。いつも親切にしてもらって、うれしくってねえ。それにひきかえ、あっちの女房、あいつは嫌だ。むりやり私に金や品物を押し付けて。あれは親切の押し売りだよ」

 立て板に水のごとく、スラスラとこんな話をするので、催促もできずじまい。そのほかにも、

「私はヒスイの鑑定士」
「金を引き出してくるから旅費を……」
「貸してくれれば5倍にして返す」
「土地を買ってやる」
「私の弟は、代議士の知り合い」

 など口から出まかせを言っては、5,000円から5万円を商店街の人々から借りまくった。貸した人間がさすがに気にし始める頃、滝本キヨ名義で、東京のデパートから座布団などのプレゼントが届けられるため、また黙ってしまうのだった。

 銭湯で出会ったAさんも、トミヨのために間借りする部屋を世話したのち「東京の土地を処分したいのだが親戚がうるさいので……」といったトミヨのいつものホラ話を信じてしまったひとりだ。「東京にいい土地がある。手つけを出しなさい」と持ちかけられたことを皮切りに、27回にわたり260万円をだまし取られてしまった。

 同じ手を使い、近所の主婦10人からも金をだまし取る。借用書には「返済の折には金百万円をつける」とあった。いかにも怪しい内容だが、トミヨの話術に丸め込まれ、一時は信用してしまっていたようだ。

 むろん、そのなかにも、金の催促をする者はいた。しかし血相を変えて返済を求めても、トミヨは一向に動じず、今度は銀行や役所も巻き込むのだ。

「うるさいねえ、200万円や300万円の金でゴタゴタ言うんじゃない。オレはいま、東京の銀行から5000万円ばかり、この岡山の銀行に預金を移そうと思っているんだよ。ちょっとお待ち、支店長を呼ぶから」

 本当に銀行に電話をかけ、支店長が飛んでくる。取り立てに来た者はバツが悪くなり引き返したという。また別の日には、複数人がトミヨのもとに金の取り立てに来たが、その目の前で県庁に電話をかけ“1億円の寄付”の相談をまとめるのだ。失いかけた信用は一挙に元に戻った。

 あの手この手で、借りた金の返済を免れてきたトミヨだったが、ごまかしの万策も尽き果て、被害者たちに取り囲まれた。逮捕直前の夏のことだ。

「株も土地もないのとちがうか?どうだ、全部嘘だろう」

 銀座のタバコ屋に“滝本キヨ”について確認し、トミヨの話が嘘だと知った者たちは問い詰めた。するとトミヨは、全て嘘だと認めたその直後、皆を一喝する。

「オレの正体をいま話して聞かせる。オレは密輸グループの一員で、サツに追われている身なんだ。だけどさ、お前たちに借りた金ぐらい、耳を揃えて返してやるから安心しな」

 検挙された時の罰金や追徴金のために、密輸グループらで金を積み立て、隠し持っている……という“最後の大ボラ”をかましたのだ。

「このうちの1000万円を引き出してくるから、2日だけ待て」

 そう言って、トミヨは岡山から立ち去った。

 嘘に嘘を重ねて金を借りまくり、逃げた先の静岡でも、同じように嘘をつき続けたトミヨは、詐欺罪で起訴後、懲役2年、執行猶予5年の判決を受け、のちに岡山県の老人ホームに引き取られた。

 しかし「オレ、こんな老人ホーム、いやだ、いやだ」と、一度脱走。岡山駅裏の旅館で、長野から出稼ぎに来ていた70歳の男性に、

「絵を預けてある名古屋の知人のところまで、一緒に行ってくださいな」

 とまた得意の作り話で、名古屋行きの切符を用立ててもらおうとしていたところ、すぐに発見され、老人ホームに戻されたという。

【参考文献】
S48.10.17 「女性セブン」
S48.10.15 「週刊文春」
S49.8.8 「女性自身」

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