新型コロナ禍で奮闘する指導者兄弟(下)

1

2021年02月10日 22:32  ベースボールキング

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ベースボールキング

写真
新型コロナ禍では、アマチュア野球界も大きなダメージを受けた。選手も指導者も「野球ができない」現実に直面した。そんな中で「野球好き」の高校生、大学生をつくるために懸命に奮闘していた兄弟がいる。



学生監督としては采配を振るえなかったが、教えることで選手を強くしたい弟
弟の山口裕士は22歳。こちらも郡山高校でプレーした。ポジションは捕手。大学は奈良教育大に進み現在4回生。しかし弟も兄同様、選手としては3回生の秋で引退。学生監督になった。大学に野球経験のある指導者がいなかったからだが、同時に指導者として選手に向き合いたいという気持ちも強かった。

3年秋から学生監督に、しかし野球はできず
「僕は高校時代、甲子園に出るような強豪校とも対戦しましたが、奈良教育大にくる選手の中には、真剣勝負の経験がない子も多かった。練習の仕方も、試合に臨む気持ちも全然できていなかった。そういう部分を教えて、卒業してからも野球を続けてほしいと思ったんです」

練習でもテーマを設けて楽しみながらも基礎が身につく方法を考案したりもした。
しかし昨年の新型コロナ禍で、活動は大幅に制限された。

「高校と違って大学は他府県から集まっています。キャンパスに学生を集めたらクラスターができる恐れがあります。
教育大学にとって、教育実習は一番重要ですが、大学から一人でも感染者が出てしまったら、実習に学生を派遣できなくなります。だから野球部の活動もストップになりました。
練習は近くの公園で2〜3人でキャッチボールをするくらいしかできなくなりました。
1回目の緊急事態宣言が解除になって、9月から大学リーグ戦が始まりましたが、うちは大学の許可もおりそうにないので辞退しました」

結局、学生監督としてチームに采配を振るう機会はないままに終わってしまった。選手たちも動揺している。

感染症対策第一はやむなし、しかし
「野球がしたくて来た子が結構多いので、将来に不安を覚えるメンバーもいますね。野球ができない現実から切り替えることができないまま3回生になった子もいます。
これは高校でも大学でもいえることですが、強豪校の中には甲子園での大会ができなくなっても、練習をしているところがあります。環境を整えているのでしょうが、そういう学校とうちのように『感染症対策第一』で試合も練習もストップした学校との差は大きく開いてしまいます。
もともと教育大学では、大学側も部活のメリットを感じていない印象です。スポーツ推薦もありませんし、存在意義を認めてもらっていない。
そういう部分を何とかしたいという思いを強く持っています」


ドミニカ共和国の強烈な体験
山口弟は2019年12月から1月にかけて、奈良市教育委員会の「トビタテ! 留学JAPAN日本代表プログラム『地域人材コース』『奈良を「開く」人材』グローバル人材プロジェクト」を利用してドミニカ共和国の少年野球を視察した。ドミニカ共和国の様々な野球の指導現場を見て、子供の未来を第一に考えるドミニカ共和国の野球指導に強い感銘を受けた。このことも野球指導に対する強い思いにつながった。



兄が監督の女子大附属のコーチをする
実は、奈良教育大の野球部員の一部は、山口学生監督とともに奈良女子大学附属中等教育学校野球部の選手の指導に赴いている。
実は、奈良教育大のキャンパスと、奈良女子大附属のキャンパスは、ほとんど隣接しているといってもよいくらい近くにある。
山口兄が奈良女子大附属の監督になる以前から、奈良教育大野球部の生徒は、奈良女子大附属の指導のサポートをしていた。
兄が監督になって以降、両校の連携はより緊密になっている。

昨年12月下旬、奈良女子大附属のグラウンドを訪れると、山口兄弟がそろってバッティング投手を務めていた。
女子大附属高等部の選手たちも、兄弟での野球指導はすっかりおなじみのものとなっている。内野手の兄と捕手の弟、専門分野も異なるので細かなアドバイスもできる。

そして外野の向こうでは奈良教育大2回生の野球部員が、中学部の選手を指導している。柔軟体操やアップなども自分たちが体を動かして手本を示している。

この日の練習時間はわずか2時間。時間を無駄にするわけにはいかない。打撃練習の横ではティーバッティングをする選手、素振りをする選手もいる。
監督だけでなくコーチも手分けして指導をするから効率がぐんとよくなる。

奈良女子大中学部は、奈良教育大野球部員の指導を受けてから今年度秋の大会で、以下のように実績が上がりつつある。

・奈良市中学校新人野球大会 準優勝
・奈良県中学校新人野球大会東部ブロック予選 優勝

これは教育大の選手たちにとっても自信になるだろう。

短い時間を効率的に使う
山口弟は
「中学生、高校生を指導することで、選手たちの野球に向き合う姿勢がすごく変わってきました。『教えること』で学ぶことは多いのだと思います」
山口兄は
「短い時間でも頭を使って練習することで実力をアップすることができる。今年は愉しみな選手も多いので、試合で実績を残していきたいですね」

弟は大学院進学を決めた。天理高校、智弁学園高校と強豪校が居並ぶ奈良県は野球どころとして名高いが、ここに「国立勢」という新興勢力が台頭するかもしれない。
愉しみに球春を待ちたい。(取材・文・写真:濱岡章文)

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定