打撃力こそ重要で「配球は結果論」? 現代の“捕手の在り方”が変わった理由

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2021年02月23日 16:00  AERA dot.

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写真阪神・梅野隆太郎 (c)朝日新聞社
阪神・梅野隆太郎 (c)朝日新聞社
 キャッチャーの役割に変化が生まれている。

『守備の要』としての必要性は薄れつつあり、『打てる捕手』としての需要が増している。

 広島、巨人などで活躍した西山秀二氏が、日本球界における捕手の役割についての流れを語ってくれた。

「個より組織での捕手(=バッテリー)力に差があった」

 西山氏がまず例に挙げたのは昨年の日本シリーズ。ソフトバンクが4連勝で巨人を下した要因の1つは、個ではなくチーム全体での捕手力(=バッテリー力)、守備力で戦ったことだという。

「配球をチーム全体で決め、それを捕手・甲斐拓也が完遂した。他の捕手が出ても、同じような配球をしたはず。第1戦でエース・千賀滉大が登板しても、普段と異なる短期決戦用の攻め方をした。(勝敗を分けたのは)巨人の大城卓三と甲斐の捕手力の差?という声もあるが、そうではない。巨人も短期決戦用の戦い方をすれば勝敗も分からなかった」

「大城、甲斐はともに勝負強い『打てる捕手』。2人の起用は普段通りだったが、そこから先で差がついた。シーズン中は総合力で戦うから、捕手個人の守備力で劣っても他でカバーでき、最後にチームがトップにいれば良い。しかし短期決戦ではチーム戦術の徹底が必要で、レギュラーシーズンとは全く異なる」

 西山氏自身がプレーした90年前後、捕手には守備面が重視され、特に必要とされたのが配球だった。準備を欠かさず相手を研究し、投手をリードすることが結果にもつながる。守備面での信頼が得られなければ捕手のレギュラー奪取は難しかった。『抑えれば投手の手柄、打たれれば捕手の責任』という時代だ。

「近年は捕手守備の基本ができれば良い。捕球ができる。ワンバウンドを止める。動ける。送球も極端な弱肩やコントロールが悪くなければ大丈夫。リードもメチャクチャなことをしなければ良い。守備面でのハードルが下がり、打つことの方が求められる」

「打たれた時は配球を周囲からボロカスに言われ、悔しいから覚えていった。古田敦也さんなど野村克也監督にベンチでいつも言われていた。今は試合で自ら覚える流れに変化しつつある。コーチもそこまで細かいことは言わない。配球は結果論だから、自分で経験しないとモノにならないということ」

 ヤクルト時代の野村監督がベンチ内で古田を自分の前に座らせ、捕手としての帝王学を伝えたのは有名。しかし時代とともに選手の考え方も変化、育成方法も変えざるを得なくなっている。また投手の質も格段に上がり、球威で打者を翻弄できるようにもなっている。以前のような細かな配球は重視しなくなりつつある。

「配球内容も変わった。投手の球威が上がっているから、細かい配球は必要ないのも事実。例えば、以前ならカウントを取るために裏をかいて変化球を投げることもあった。今は『真っ直ぐでファウルを打たせれば良い』というのが多い。それができるなら効率は良いし、細かいことまで考えなくて済む」

 そして『打てる捕手』が評価基準になりつつある。捕手は経験により成長できるため、試合出場機会が何より必要となる。そのための近道が打つことだ。かつては65年に3冠王となった野村氏のような存在が稀だった。それが城島健司(元ソフトバンク他)、阿部慎之助(現巨人2軍監督)あたりから、強打の捕手全盛に変化した。

「極端な話、攻守に活躍しないとゴールデングラブ賞は獲れない。特に捕手はチームが勝てなくなったら最初に代えられる。『打撃でも必要』と思われないとダメ。城島や阿部も打つことで試合に出れた。そのうちに配球も覚え、完璧な捕手に近くなった。『配球で勝った』ではなく『打撃で勝った』の時代」

 各球団の捕手事情を見渡すと打撃が良い捕手が多い。パ・リーグでは西武・森友哉が打線の中核を任され、バッティングでの貢献がチームの成績にも直結する。ソフトバンク・甲斐は長打も出始め勝負強く、ロッテ・田村龍弘なども同様の印象だ。

「パ・リーグ上位球団の捕手はみんな打てる。森もそうだが、甲斐も打撃力が格段に上がった。打率は低いが2桁本塁打(打率.211、11本塁打)も打っている。ロッテ・田村も同様のタイプで、大事な場面で結果を残す印象がある。『打撃で頼りになる』というイメージがつけば、相手は嫌だし監督も使う」

 セ・リーグも打てる捕手全盛で、特に巨人では打撃を通じての正捕手争いが楽しみな状況。大城以外にも、シーズン後半には岸田行倫も起用された。17年ゴールデングラブ賞の小林誠司は故障も重なり、昨年はわずか10試合のみの出場と苦しんでいる。

「大城はあれだけ打つと代えられない(打率.270、9本塁打、41打点)。岸田は二軍レベルではなく(ファームで打率.313)、相手投手を見下ろす感じで打っている。一軍でもそういう風格が出て来れば面白い。小林は肩の強さは周知だが、まずは試合に出ることだ」

 広島も『捕手天国」と呼べるほど。侍ジャパンでも活躍した会沢翼の打撃は球界屈指。昨年は左の好打者、坂倉将吾も起用された。勝負強い打撃の磯村嘉孝や、夏の甲子園で1大会の最多本塁打記録(6本)を樹立した、17年ドラフト1位の中村奨成もいる。

「相手投手の左右で会沢、坂倉を選択することができる。会沢は首の故障などがあるが、無理をさせないで起用できるのが大きい。2人とも打撃が良いので、代打や交流戦でのDH起用もできる。また磯村は打てるし捕手としても良い。大きな話題とともに入団して来た中村は、打撃で飛び抜けないと試合に出られない」

 現在のNPBにおいて、『打てて守れる』両方を併せ持った捕手として高い評価を得ているのが阪神・梅野隆太郎(昨年は打率.262、7本塁打、29打点の成績)。今年中の国内FA権取得も濃厚な状況。動向次第では来年以降、球界の勢力図も大きく変わるとまでいう。

「梅野は捕手として守備レベルも高い(守備率.996)。ワンバウンドなどに対して良い動きをするし、肩の強さもある。そして何より勝負強い打撃が持ち味なので、現状の捕手の流れでは最高クラスに評価できる。仮にFA宣言したら、セ、パ問わずに多くの球団が欲しがるはず」

「捕手がしっかりしないとチームの守備力は上がらない。根本は同じだが順番が逆になっただけということ。重要なポジションに間違いない」

 打って一軍の試合に出場することがまずは最低条件。そこから捕手としてのスキルを磨き上げて行くというのが、昨今のNPBのトレンドと言えるかもしれない。

『4番・投手』は中心選手の代名詞であり、アマでは今も変わらない認識だが、プロではそれは不可能。しかし『4番・捕手』がプロ野球界の主流になる可能性は秘めている。捕手に対して地味というイメージはもはや皆無。今季もシーズン開幕まで約1カ月、各チームのレギュラー捕手争いが楽しみになってきた。(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫/1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍、ホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!公式ページ、facebook(Ballpark Time)に取材日記を不定期更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。




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  • どのポジションでも打撃がいいにこしたことはない。
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  • 受ける・止める・投げるが1軍レベルでできるんなら打つ方を選ぶ、リードなんて結果論、て最初に言い出したんは里崎やったかな。これは賛成なんだわ。 https://mixi.at/a3BXGXP
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