『静かなるドン』新鮮組の総長・近藤静也の“名言”はなぜ響く? 綺麗事のない正論を検証

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2021年02月25日 10:01  リアルサウンド

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 新田たつお原作の漫画『静かなるドン』。昼間は下着メーカーに勤める冴えないサラリーマンだが、実は1万の組員を持つ広域暴力団・新鮮組の総長・近藤静也が繰り広げる物語は人気が高く、単行本が108巻販売され、1994年には日本テレビ系列で実写ドラマ化、2000年と2009年には映画にもなった作品だ。


 そんな「静かなるドン」の魅力の1つに、近藤静也の説得力のある「名言」がある。今回はそんな名言を検証してみたい。


人は過去を忘れて幸福になることもある!

 同じ下着メーカーに勤務し恋仲にある秋野から、腹違いの妹・静子が横浜で白藤龍馬の妻として一緒に暮らしていることを告げられた静也は、「どういうことですか。静子はあの不死身の怪物、異蔵と失踪したはずだが」と取り乱す。


 そんな静也に秋野は「大男がどうやって知り合ったのかわからないけれど彼(龍馬)の部下になっている」「静子は生死に関わる病に倒れ、スイスの病院で何年も眠っていたそうよ」「そして最近意識を取り戻して帰国してきた」と経緯を説明する。


 そして秋野から「医療費を払っていた龍馬さんを夫と思っていたわ」「静子さん、記憶を失ってしまったの。あなたや私のことは何も覚えていないみたいなの」と記憶喪失になっていることを告げられた。


 静也は「つらい過去はみんな忘れて生まれ変わった」と喜び、「龍馬は夫を演じてくれているんですね?」と確認。秋野が「私は彼の母親にされちゃった」と話すと、「お願いします。黙っていてください」「人は過去を忘れて幸福になることもある!」と頭を下げた。(83巻)


 人間、生きていれば忘れたい記憶はあるもの。しかし、自ら消すことはほぼ不可能だ。静也が言うように、過去を忘れることができれば、幸せになることも、多々あることだろう。


上に立つ者の器量で下の者はどうにでも変わるのさ

 幹部会で「なんで1度裏切ったやつが参加しているのか」「新鮮組の大幹部はそんな簡単になれんのじゃ」と憤る生倉。


 静也は「いいじゃねえか。俺が直接盃をやって幹部に取り立ててやったんだから」と制す。しかし幹部からは「それじゃあ道理が通らねえ。こいつら反逆者ですよ」と不満の声が上がる。生倉は新参の幹部である板子に対し、「こいつは必ずまた裏切りますよ。この男の腹黒さは舎弟にしていたワシが一番良く知っている」と警告した。


 静也は「いや、もう裏切らないさ」と断言。そして納得できない幹部たちに、「上に立つ者の器量で下の者はどうにでも変わるのさ」と自信を見せる。さらに「こいつらも生きていくために必死なのさ。馬鹿な親分についてみろ。一家離散だ」「カタギの会社だってそうだぜ。ダメな社長が去って有能なトップに代わったら、パーッと視界が明るくなるもんよ」と説いた。(93巻)


 組織にとってトップの器量は、結束や結果に直結するもの。企業でも社長の交代で傾く、業績を伸ばすなどするケースは多々ある。静也の指摘は、そんな世の中の組織を表したものであると同時に、「自分なら裏切らせない」という自信の表れにも思えた。


暴力の抑止力はより強力な暴力…悲しいかな 国家間でもそれで平和が保たれています 

 秋野と路上で深刻な会話をしていた静也に、愚連隊のような男3人が近づき、「金を貸してくれ」と近づく。警護していた部下が車から駆けつけ制すが、「ヤクザなんか怖くねえ」と殴られる。


 いよいよやり返そうとする部下に静也は「愚連隊だがヤクザじゃない。痛めつけりゃ恥も外聞もなく警察に駆け込む。捕まるのはお前だよ」と止める。調子に乗る愚連隊は「新暴対法でガンジガラメだ。拳銃一丁も持ち歩けねぇだろうがバーカ」となじった。


 すると静也は指を鉄砲の形にして、「持ってるぜ」と叫ぶ。そしてバーンと叫ぶと、3人の被っていた帽子が次々に飛ぶ。そこには銃弾の穴が。ビルにスナイパーが待機し、撃ち抜いたのだ。


『静かなるドン』(101巻)

 慌てて逃げ帰る3人。静也は秋野に「俺の身を守るために常にスナイパーがついている」「ボディーガードに武器はもたせられませんので」と話す。そして「暴力の抑止力はより強力な暴力…悲しいかな 国家間でもそれで平和が保たれています」と説明した。


 発言を聞いた秋野は「あなた達がいなくなればああいう人達が増えるでしょうね」と呟く。すると静也は「それでも俺たちはいなくなったほうがいい」と説いた。(101巻)


 「暴力にはより強力な暴力で対抗する」という論理は少々過激にも思えるものだが、力で対抗しなければ収まらないこともある。また、世界平和には軍事力が欠かせないことも、事実と言わざるを得ない。静也の論理も、一理あるものだろう。


愛を拒むお前はただの臆病者だ 人間である限りいつかは愛する者との別離が待っている みんなそれに耐えて生きてんだよ!!

 世界を牛耳る皇帝、リチャード・ドレイク5世。静也はこの男が諸悪の根源であることを突き止め、単身ヨーロッパに渡り決着をつけようと、居城へと乗り込む。そして勝負をつけるつもりでドレイクと対峙すると、ドレイクの妻・マーガレットが登場する。


 人工授精で妊娠し、愛を訴えるマーガレットに対し、それを受け入れようとせず、「愛はくだらない」「叡智の目には愛は陳腐なものには曇る」と話すリチャード・ドレイク5世。静也にも「秋野の愛に惑わされている」と指摘する。


 そんな様子を見た静也は「自分も妻を愛し始めているのがわからねえのかよ。とんだ叡智の目だぜ」「節穴の目を持つ大間抜け野郎だぜ」と切る。そして「愛を拒むお前はただの臆病者だ 人間である限りいつかは愛する者との別離が待っている みんなそれに耐えて生きてんだよ!!」と叫んだ。


 さらに「これからは妻や子を失うことに怯えるただの人間として生きていきやがれ」とキレる静也にドレイクは涙を流し、負けを認めた。(108巻)


 どんなに愛し合う夫妻でも、最終的には別れることになる。人はそんな宿命を持ちながら、愛し合い生きているのだ。そんな別れを恐れて愛を受け入れようとしないドレイクに対するド正論すぎる言葉のパンチだった。


綺麗事のない本質をついた名言

 社会の表と裏を克明に描いた『静かなるドン』。表裏を知った近藤静也の言葉は、「綺麗事」がなく、本質をついている。我々が生きる上でも、大いに参考になりそうだ。


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