有名弁当店「キッチンDIVE」万引き事件をベテランGメンが考察! 同じ服装で犯行を繰り返すのは「よくあること」

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2021年02月27日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、東京・江東区にある、ボリュームと安さが売りの有名弁当店「キッチンDIVE」で、弁当を盗んだ男が逮捕されました。先月にも、同様の犯行に及んでおり、その様子を捉えた映像がライブ配信されて話題となった事件です。

 1回目の犯行映像を見ると、スポーツキャップをかぶり、青いウインドブレーカーを着た小太りの男が、レジ前に佇んで商品を選ぶフリをしながら周囲を見回しているのがわかります。そして、惣菜を手に取った男は、両手で抱えるようにして持つと、左手を弁当に伸ばして取りました。自分の体を使って、店員から商品を見えないように隠して、お客さんの流れに逆らいながら出口に向かう様は、万引き犯の典型的な動きの1つといえるでしょう。

 1回目の犯行後、ネット上などで大きな話題になったにもかかわらず、同じ格好で同様の犯行に及んで現行犯逮捕されたことも話題になりました。このような犯行態様は、私たちからすれば、よくあることなのですが、一般の方は不思議に思われたようです。

 スーパーなどで弁当を盗む人の被疑者像を想像すれば、失業者、もしくはホームレスに近い状態にある人が目立ちます。スマートフォンなどを持てない人も多く、いわゆ“情報弱者”の状況にあるため、店内映像をライブ配信していることなど思いもよらなかったのではないでしょうか。食うに困って、刑務所に入るために、あえて捕まりやすい店を選んだのかもしれませんが、おそらくは過去の成功体験が再犯に向かわせたと思われ、そう考えれば万引き犯が好まぬ店員の目が届きやすい狭い店で大胆な犯行を繰り返したことも理解できます。

 いずれにせよ、弁当を盗む人は食うに困っている状況にあることがほとんどで、こう言ってはなんですが、あまり責める気になれません。ただ切なく、1日も早く明日の食事を心配しないで済む生活基盤を築いてほしいと、その場限りのお祈りを捧げるばかりです。今回は、この男同様、服装が仇となって捕捉に至った女常習犯について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、関東郊外の住宅街に位置する大型ディスカウントスーパーK。食品をはじめ、衣料品やドラッグコスメはもちろん、カー用品や家電製品など、さまざまな品物を扱っている昭和感漂う老舗店舗です。建物の造りが古いこともあって、広大な2フロアの売場は死角だらけで、防犯機器もわずかしか設置されていません。その捕捉率は、いままで踏んできた中でも上位にあり、地域に潜在する高齢常習者をはじめ、小学生から外国人窃盗団まで、ありとあらゆる万引き犯が集まってくる検挙が絶えない現場といえるでしょう。

 裏口から総合事務所に出勤の挨拶に出向くと、いつもよくしてくださるミスチルの桜井和寿さんに似た店長が、満面の笑みで出迎えてくれました。

「そういえば、最近、変な女がよく来ていてさ。たぶん、やっていると思うんだよね」
「どんな人ですか?」
「40歳くらいかなあ。小柄で色の黒い、ショートカットの人でさ。いつも背中に『8』の数字が入った派手なジャンパーを着てくるから、すぐにわかると思うよ。8番の女、今日来るかわからないけど、注意してみて」

 どれほど派手なジャンパーかわかりませんが、すぐにわかるというので、相当に目立つ人なのでしょう。なぜだかはわかりませんが、万引き常習者は派手な服装をしていることが多いので、店長の言葉を信じて警戒にあたります。

 午前中に、2本のビールを盗んだ83歳の老婆を警察に引き渡し、お店の休憩室で持参した弁当をつつきながら、どことなく蛙亭の中野周平さんに似た警察官と微罪処分の処理を為して現場に戻ると、まもなくして無数のワッペンがつけられたピンクのスタジャンに、水色のスパッツという奇妙な服装をした女に目を引かれました。タレントの鈴木奈々さんを二回りほど大きくしたような雰囲気を持つ30代前半と思しき色黒の女です。右肩にかけられた特大サイズのエコバッグも気になって、相当に離れたところから行動を見守ると、カートを押す女の背中に大きな「8」の字のワッペンが貼られているのが見えました。

(この人が、8番の女ね。カゴに何も入っていないし、いま来たところかな)

 すると、入口脇にある高級青果コーナーで、箱入りのあんぽ柿をカゴに入れた女は、次に鮮魚コーナーで本マグロの刺身と酢ダコを、続いて精肉コーナーですき焼き用の黒毛和牛スライスを2パック手に取ってカゴに入れました。値段を確認することなく、次々と高額商品を手にしていますが、なぜか支払意欲が感じられないのが不思議です。

 続けてビールケースと10キロの米をカートの下段に載せて、人気のない日用品売場に移動した女は、肩にかけた特大エコバッグを下ろして、上段のカゴに入れた商品を覆い隠すようにして歩き始めました。通常客の歩行速度を大きく上回る早足で店内を歩かれ、危うく見失うところでしたが、女の派手な服装を目印にして食らいつきます。

 すると、居並ぶレジカウンターの脇をすり抜け、レジとサッカー台の間を通過した女が、そのまま店の外に出て行くので、呼び止めるべく近寄ると、先程まで一緒にいた警察官が前方から歩いてきました。前を行く女も、その姿に気付いたらしく、明らかに歩行速度を上げて、この場から逃れようとしています。なにか用事でもあるのか、私の姿を目にして微笑みかけてきた警察官に、目と顎で合図をしてから女に声をかけました。

「こんにちは、お店の者です。これ全部、お支払いただかないと……」
「え、いや、車にポイントカードを忘れちゃって、取りにきたんです。ちゃんと払いますよ」
「いや、商品をバッグで隠して、お金払わないまま外に出たらダメなんですよ。そんな言い訳は通らないと思いますけど、もし否認されるなら、こちらの警察官とお話しいただけますか」
「…………」

 声をかけるところから状況を見守ってくれていた警察官が、正面に立ちふさがる形で女の前に立ち、嫌気の差した顔を隠すことなく言いました。

「またですか、参ったな。ちょっとお姉さん、お店の人がお金もらってないって言っているけど、実際のところはどうなの?」
「いや、ポイントカードを車に忘れて……」
「そんなこと聞いてない。お金払ったのか、払っていないのか、それを聞いているの。どっち?」
「まだ払ってないです」

 明らかに苛立っている様子の警察官から、少し強い口調で同行を求められた女は、警察官に腰元を掴まれた状態で事務所に向かいます。事務所に入ると、傍らのデスクで惣菜パンを食べていた店長が、目を丸くして叫びました。

「え、また? あ、8番さんじゃん。やっぱり、やっていたか。そうだよなあ!」
「店長、この人のことご存じなんですか?」

 警察官の問いかけに、鬼の首を取ったような顔をした店長が、女を蔑むように見下ろしながら言いました。

「ずっとマークしていた人です。あんた、しょっちゅうやっていたろ?」
「いえ、そんなことないです。車にポイントカードを忘れただけなんです。信じてください!」

 未精算の商品は、計7点。被害合計は、2万円を超えました。女の前歴次第では逮捕もあり得る大きな被害に、1人目の処理を終えたばかりの警察官は、どこか投げやりにもみえる不遜な態度で女の身分確認を進めています。報告書に記載するため、女の了解を得たうえで財布に入っていた運転免許証を警察官と一緒に拝見したところ、この店からほど近いところにあるコーポに住むという女は、34歳。警察官の問いかけに対して、いまは無職で、生活保護を受けながら生活していると話していました。所持金は、2,000円足らずで、クレジットカードなども持っていないようなので、盗んだ商品を買い取ることはできそうにありません。所持品検査の結果、この店のポイントカードまで財布から出てきて、女のウソも明らかとなりました。

「ポイントカードのことはさておき、どうやってお金払うつもりだったの」
「…………」

 警察無線から漏れ聞こえてきた彼女の扱い歴は、6件。応援要請を受けて駆けつけた女性警察官に女の身柄を任せて、彼女の扱いを決めるため刑事課に相談の連絡を入れた警察官が、電話を切ると顔色を変えて言いました。

「だめだ、こりゃ。この人、2階に上がってもらうことになったから、保安員さんも一緒に来て」

 2階に上がってもらうということは、女の扱いが刑事課に決まったことを意味しており、それ即ち女の逮捕を示唆しています。

「もうすぐ交代だっていうのに、時間かかるぞ、こりゃ」

 警察署に出向く準備を整えて、今日は残業になりそうだと店長に伝えると、財布から1枚の千円札を取り出して言いました。

「やっぱり、ベテランのGメンさんは違うね。一番の常習さんを捕まえてくれて、本当にありがたいよ。これで、ご飯でも食べて」
「いえ、困ります。お気持ちだけで充分でございますよ」
「いいから、いいから。少ないけど賞金だよ」

 丁重にお断りするも、お札をアウターのポケットに放り込まれて、売場に戻られてしまいました。やむなく頂戴したものの、被疑者のことを思えば喜ぶわけにもいかず、警察署に設置される交通遺児育英会の募金箱に投入した次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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