夫婦関係崩壊のきっかけは「生理前」だった? 月経に“人格”を奪われる女性たちの苦悩

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2021年03月02日 08:05  AERA dot.

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写真不調は生理前に起きる?※写真はイメージです(Getty Images)
不調は生理前に起きる?※写真はイメージです(Getty Images)
 突然イライラしたり、不意に涙が出てきたり、生理前は自分が制御不能になる――。月経に伴う下腹部の痛みや貧血など身体症状については近年、社会でも認知されるようになったが、生理前に起こる心身の症状については、あまり知られていない。体重増加や疲れを感じやすいなど体の変化のほか、緊張感や不安の高まり、注意力の欠如や脱力感などメンタル面の不調を伴うことがあり、医学的には「月経前症候群:PMS(Premenstrual Syndrome )」と呼ぶ。特に心の症状が重い場合を「月経前不快気分障害:PMDD(premenstrual dysphoric disorder)」という。日常生活にも支障をきたすこともあるが、なかなか周囲の理解を得られず、仕事や人間関係の悩みやトラブルを一人で抱えがちだ。

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■夫には「サボっている」と見えた

 PMDDと診断を受けた中部地方在住の望月莉枝さん(仮名・43歳)は心の症状が重く、自分の感情や気分の落ち込みをコントロールできなくなるときがあるという。生理前は家に一人でいると、「死にたい!消えたい!」と希死念慮が浮かんできて、メールや電話で友人や母親に「死にたい」と訴えることも。ところが月経がはじまると心が落ち着くため、冷静になって謝罪に行く……ということを繰り返していた。

「PMDDの症状で、人間関係がうまくいかないことが増えました。職場でトラブルがあっても、生活のためには仕事を辞めるわけにもいかず、今はコロナのせいで転職は厳しく、その気力も湧きません。八方ふさがりで、希死念慮につながることも少なくありません」


 バイエル薬品が制作し、婦人科などで配布している冊子『生理前カラダの調子やココロの状態が揺らぐ方へ PMS 月経前症候群』によると、約74%の女性が、月経前や月経中に体や心の不調を抱えているという(※1)。下腹部の痛みといった「生理痛」に代表される月経中の不快な症状はイメージがつきやすいが、月経前の心身の変化、PMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)は女性でもよく知らない人も多いのではないだろうか。

 月経開始の3〜10日前から始まる精神的・身体的症状で、月経開始とともに減退。消失する。70%ほどの女性が何らかの症状を持ち、6.5%の日本人女性が社会生活に影響がある中等症状以上との報告があり、治療の対象となるという。中でも精神症状が強く現れるのがPMDD。1.2%の日本人がPMDDであるとの報告もある(※2)。

 例えば、生理前になると、イライラしたり、怒りっぽくなったり、批判を気にして情緒不安定になったり……。うつ気分や落ち込みがひどい、ちょっとしたことで不安感や緊張感が高まる、物事への興味や関心が薄れる、注意力が散漫といった症状がみられ、生理が来るとそれが自然と解消されるようであれば、PMSやPMDDかもしれない。もちろん心の変化だけなく、胸のハリや、体重増加、疲れやすさ、熟睡できないなど身体的な症状を伴うこともある。心当たりのある人は、以下のチェックシート(※3)を試してみるといいだろう。

【PMDD 〜月経開始前1週間について〜】
□うつ気分や落ち込みがひどい
□不安、緊張感、どうにもならない、がけっぷちなどの感情がある
□拒絶や批判に対する感受性が高くなったり、情緒的に不安定だったり、予測できなかったりする
□イライラしたり、怒りっぽくなる

○趣味や日常活動に興味が薄れている
○物事に対する集中力が薄れている
○いつもより疲れているし、活動性が低い
○炭水化物を偏って摂食したり、同じものを食べ続けたりする
○睡眠過多だったり、睡眠不足だったりする
○限界感、自己喪失感がある

●月経前に以下の少なくとも2つの症状のために悩まされる
( )乳房痛・張った感じ ( )頭痛 ( )関節痛または筋肉痛 
( )ふわふわした感じ ( )体重増加

<以下の4つすべてにチェックが入った場合はPMDDの可能性がありますので、医師に相談してみましょう>
・□の4項目のうち、少なくとも1つに当てはまる
・□と○にチェックが入った項目の合計が、5つ以上になる
・□と○にチェックが入った項目の大部分は、月経開始後3日以内で消失する
・●の症状があるとき、日常の活動が障害される
(監修:田坂慶一)

 女性の身体は、約28日周期で2種類の女性ホルモンの分泌量とバランスが変わり、それと連動しながら子宮や卵巣の状態も変化する。いわゆる月経周期だ。よく誤解されていることだが、PMSやPMDDの原因は、「女性ホルモンの過不足」や「バランスの悪さ」ではない。 きちんと卵巣から排卵し、女性ホルモンが分泌されるため、月経周期でPMSやPMDDは起こる。疲れやストレスにも起因すると言われているが、その発症メカニズムはいまだ不明点が多い。ただ、月経周期で心や身体に不調が現れるなら、婦人科や心療内科を受診したほうがいいだろう。

 心療内科クリニック「SAHANA Retreat Spa & Clinic」(東京都)院長の内田さやか医師に、PMDDについて聞いた。

「PMDDの方を特に苦しめるのは、ダイナミックな体調の変化です。そもそも人間にとって変化はストレスです。PMDDのように毎月毎月、生理前になると急激に落ち込み、その後は何もなかったかのように平常通りになる、というジェットコースターのような変化は、アップダウンに伴う消耗も自己嫌悪も、ご本人にとってはとても大きなストレスなのです」


 振り返れば、望月さんは中学時代から月経前になると腹痛や頭痛、腰痛に悩まされてきた。月経痛もひどく、一時期はピルを服用していたが、35歳のとき、転職などをきっかけに、月経前の症状がひどくなった。

「ある女性社員の嫌がらせがエスカレートして……。PMDDはストレスに大きく影響されるので、いま思えば、あのころ、新たな職場の人間関係のストレスが重くのしかかっていたのだと思います」(望月さん)

 望月さんは帰宅すると、夫に愚痴をこぼすようになっていた。入社の翌年、望月さんはその女性とは別の部署へ異動。しかし、まったく望月さんの適性に合わない部署だった。

 以前から、月経前になると体調を崩す症状は続いていたが、望月さんはひどいときは寝込むようになる。家で寝ている望月さんに対し、夫の不満はたまっていった。

 望月さんが生理前の心身の不調を訴えても、夫は「甘えている」「家事をしたくない言い訳だ」と取り合わず、ケンカが増えるばかり。

 ある日夫は、突然出ていってしまい、そのまま離婚することに。

「一度もやり直す努力もさせてもらえず、別れることになりました。本当に悲しくて、特に生理前に精神的不安を強く感じるようになってしまいました」(望月さん)

 抑うつ状態が続き、仕事もままならなくなったので、休職を決意し、心療内科を受診。そこで医師から「最初はPMSが重いぐらいだったのが、PMDD発症に至ってしまったようだ」と診断を受けた。その結果、四六時中つらいという抑うつ状態は改善したものの、PMDDの症状は依然として軽減せず、ストレスに比例し、月経前には必ず出るようになっていた。

■復職しても「お遊び気分で良いですね」

 しばらくして、望月さんは復職を果たしたが、周囲は腫れ物扱いで、上司や同僚に「なにか手伝うことはないですか?」と訊ねても、反応してくれる人はごくわずか。望月さんは月経前になると不眠の症状が出てきた上、動悸や息切れが激しくなっていった。

 次第に症状がひどくなり、望月さんは月経前、会社を休むように。すると、上司から休みが多いことを指摘され、一部の社員からは嫌みを言われた。望月さんは上司に生理が重いことを相談したが、「お遊び気分で良いですね」とため息をつかれた。

 そんな望月さんに対し、人事は産業医面談を受けるように指示する。産業医からは休職を勧められ、6カ月近く休職が決定。その後復職した望月さんを待っていたのは、針のむしろだった。

 仕事は与えられず、望月さんの席は、他の社員から離れた場所だった。

「所属長と面談するも『おまえはムカつく』などひどい言葉を浴びせられるだけ。その場に泣き崩れ、『死にたい』と思いました……」(望月さん)

 PMDDの場合、普段なら受け流せるような些細な出来事が、大きな精神的ダメージになることもある。

「PMDDはストレスに大きく影響されるので、症状が強く出る月もあれば、めったにありませんが、頭痛程度ですむ月もあります。でも逆にそれが周りには『気分屋、自分勝手』と映るようです」(同)

 望月さんは、現在も心療内科に通院し、抗うつ剤などを服用中だ。体調が良いときは、散歩をして外の空気を吸ったり、ストレッチをしたりして血流を促し、カフェインなどの刺激物を控えるなど、PMDDの改善に努めている。

 前出の内田医師は次のように説明する。

「メンタルの不調は、『目に見えない』『長期化する』『一進一退がある』ことなどから、周囲からすると『よく分からない』『いつまで続くの?』と疑問が生じ、ご本人からすると『理解してもらえない』となり、両者の間に溝を生むこともしばしば。人間関係に影を落とすこともあります。これはPMDDに限ったことではありません。PMDDは幸いにも症状が安定する期間があると思いますので、そこで、職場なら上司と、夫婦なら夫となど、両者が歩み寄って『建設的な対話をする』『リーフレットなどで一緒にPMDDについて勉強する』。そしてご本人は、『通院を中断しない』。そんな対策が取れると良いと思います」

 望月さんを含め、当事者の女性らの悩みの一つは周囲の理解を得られにくいこと。日本産科婦人科学会によれば、月経前の症状で生活に困難を感じている日本人女性の割合は、5.4%程度と言われている。現実社会で同じ悩みを持つ人と出会うことも少ない。

 私は約2年前にPMDDと診断され、認知度の低さを問題視し、「まずは知ってもらうことから」と、こうした記事を定期的に執筆するに至る。昨年は、当事者同士が情報交換し、悩みを共有し合う場が必要と考え、「月経前の悩みに寄り添う会」を立ち上げた。望月さんのように悩んでいるなら、ぜひ検索してみてほしい。(旦木瑞穂)


※1 Tanaka E,Momoeda M,Osuga Y et al.Burden of menstrual symptoms in Japanese women;results from a survey−based study. journal of Medical Economics 2013;Vol 16, No 11:1255−1266
※2 T.Takeda.et al.,Arch Womens Ment Health 2006
※3「生理前カラダの調子やココロの状態が揺らぐ方へ PMS 月経前症候群」(監修:田坂慶一)

このニュースに関するつぶやき

  • うつ病の人も、会社で同じ目にあってること多いけどね。病気だからと言って、なんでも免責されるわけないででは?
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  • 男性はいい迷惑。男女拘らず自身の性的デメリットを異性に転嫁するのは最低。女は特に、当然の配慮を無償で求める。
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