写真スタジオで知る東日本大震災の痛み その漫画に注目集まる

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2021年03月03日 09:01  おたくま経済新聞

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写真スタジオで知る東日本大震災の痛み その漫画に注目集まる

 東日本大震災からもうすぐ10年。被災地では復興が進みますが、2021年2月に発生した最大震度6強の余震に代表されるように、今でも「過去の災害」と片づける状況にはなっていません。そんな中、被災地の写真スタジオで当時経験した思い出をつづった漫画が、Twitterで大きな反響を呼んでいます。


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 この漫画をTwitterで発表したのは、あいしまさん。東日本大震災当時、被災地にある写真スタジオで、撮影アシスタント兼デザイナーとして働いていたそうです。


 漫画では、その写真スタジオで経験した多くの「被災者の痛み」が描かれています。あいしまさんの家や職場は、幸い津波の被害からまぬがれたそうですが、その時職場の先輩から「これから信じられないくらい忙しくなるからな」と言われます。


 こんな未曽有の災害に襲われたばかりなのに、写真スタジオに仕事(お客)が来るのか……?と疑問に思ったあいしまさんでしたが、先輩は「遺影写真の依頼が来るんだよ」と答えます。


 写真スタジオは撮影だけでなく、写真を現像することも業務なので、犠牲になった方の遺影を受注する機会もあるのです。あいしまさんは「多分、何件かの問い合わせが来ていたんだと思います。普段も、ごく稀にですが遺影写真の注文も受けていたので」と、先輩が語った言葉の背景を話してくれました。


 葬祭会社では取り引きしている写真業者があり、普段はそちらに依頼することがほとんど。それでもこの時は数多くの犠牲者が出たこともあり、取引先の業者が対応しきれないため、地元の業者にも発注されたようです。


 あいしまさんが担当した最初の遺影は、若い男性のもの。その時は普段通り写真を仕上げたそうですが、しばらくして新入学の記念写真を撮るため来店したご家族を見て、この震災がもたらした悲しみを知ることになったのです。


 記念写真の撮影に訪れたのは、お母さんと新小学1年生になる女の子。そして、あいしまさんが仕上げた遺影。……あいしまさんが最初に手掛けた遺影の男性は、この子のお父さんだったのです。


 地震が、津波がなければ、きっと家族3人で笑顔の記念写真になったはず。お母さんは、きっとお父さんも一緒に撮影したかったろうという思いから、遺影を持参したのかもしれません。


 発注される遺影写真、その背景にある遺族を目の当たりにし、あいしまさんは衝撃を受けます。1枚の写真には、その人が生きた年月があり、かけがえない家族がいる。父親を亡くしたばかりの女の子は、撮影の際も硬い表情を崩さなかったといいます。


 その後も、震災で亡くなった方の遺影を数多く仕上げていったあいしまさん。中には、母子が写った3枚の写真を1枚に合成してほしいという依頼もあったといいます。3人で乗っていた車ごと津波に飲まれたという母子は全員行方不明のままで、せめて写真の中だけでも3人一緒にしてあげたい、という家族からの要望でした。


 それぞれの遺影には、その人だけの人生があり、また遺族の感情も様々。全部に感情移入してしまうと精神がもたないので、極力ニュートラルな感覚で作業を進めていたそうですが、それでも感情を抑えきれないこともあったといいます。


 特にしんどかった、と漫画で語られたのが、震災の前年に七五三の撮影をした女の子の遺影。そして、母親と生まれたばかりの弟を亡くしたという父娘の入学記念写真でした。その女の子も、やはり本来なら嬉しいはずの新入学にもかかわらず、撮影では笑顔を見せることはなかったといいます。


 あいしまさんの漫画には、そのほかにもつらい思いをした子たちのエピソードが綴られています。卒業記念で袴姿の写真を撮るはずが、それどころではなくなってキャンセルした6年生。当時たまたま学校にいて家に帰れなかったために、犠牲者の遺体を運ぶ手伝いをした高校生……。


 写真スタジオに勤めていたために、数多くの被災者たちが経験した悲しみを間接的に知ったあいしまさん。ご家族を亡くされた震災直後に撮影に訪れたケースは漫画に描かれた2組だけで、ほかは記念撮影を控えていたのではないか、とも語ってくれました。それだけ、この2組は強い思いがあったのかもしれません。


 あの日から10年が過ぎようとしていますが、いまだに行方不明者は2500名を超え、原発事故で避難を余儀なくされた人々の一部は、まだ我が家に戻れないでいます。3月11日をひとつの機会とし「1分でもいいのでご家族、大切なパートナーと防災について考え話してみてください」と、あいしまさんの漫画は結ばれています。



<記事化協力>
あいしまさん(@setup_setup)


(咲村珠樹)


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