「鬼滅」「巣ごもり」でコミック市場規模は史上最高に 電子版好調の内実を分析する

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2021年03月04日 09:12  ITmedia NEWS

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写真公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所が2月25日に公開したプレスリリースより引用。額が初めて6000億円を超えた
公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所が2月25日に公開したプレスリリースより引用。額が初めて6000億円を超えた

 2月25日、公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所は、2020年の国内コミック市場規模を発表した。状況は「超好調」だ。紙と電子を合わせたコミック市場規模(推定販売金額)は6126億円。同社の統計開始(1978年)以来最高の規模となり、コミック市場の最盛期といわれた1995年を超えた。



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 前年に比して大きな伸びとなった理由はいくつも思い浮かぶ。いわゆる巣ごもり需要で電子書籍が伸びたこと、「鬼滅の刃」などのヒットコミックが多くあったことなどの複合効果と考えられる。



 では、デジタルデータでのコンテンツ流通という面で、この結果はどういう意味を持っているのか。今後必要なことも含め、少し考察してみたい。



●電子書籍コミック市場は着実に成長



 2020年のコミック市場の特徴は、「雑誌が減った一方で、紙のコミックも電子書籍コミックも増えた」という形だ。



 全国出版協会の推定によれば、コミック雑誌の推定販売金額は627億円で前年比13.2%減。一方、紙のコミックは前年比23.9%増の2079億円と推定されている。それに対して電子書籍コミックは前年比31.9%増の3420億円となっている。全国出版協会の統計では、2019年に雑誌+コミックの紙による市場を電子書籍が抜いているのだが、2020年にはその傾向がより明確になった。



 さらに紙だけにフォーカスしても、紙のコミックが伸びたのは2019年と20年だけ。それまではずっと下がり続けてきた。コミック市場が急激に上向く構造変化は存在せず、2019年・20年と「鬼滅の刃」を含むヒット作が多く、それが紙のコミックの好調につながっていると考えた方がいいだろう。



 一方、電子コミックは2014年以降ずっと成長し続けている。2016年から18年にかけては年率15%程度と伸びが小さくなったものの、それ以外の年は25%から30%の伸びを続けている。



 2020年の予測値は32%弱の伸び。これを「巣ごもり需要の結果」というのは簡単だが、過去の実績を見ると、「着実な成長を巣ごもり需要が後押しした」と考えるのが適切だろう。2021年にどこまで伸びるかは分からないが、いきなりマイナス成長になるとは考えづらい。



 なお、伸びが小さかった2016年から2018年は、海賊版コミックサイトである「漫画村」が問題になっていた時期でもある。「漫画村」などの海賊版コミックサイトだけで伸びが鈍化した、と明確に結論付けるだけの情報はないものの、参考情報として付記しておく。



●電子コミック市場は「単行本」と「単話型」で分断されている



 一方、電子書籍コミックの市場を考える場合、単純に「電子書籍としてのコミックが売れた」とだけ考えるのはシンプルすぎる。電子書籍としてのコミック市場は、いくつかの形に分かれているからである。



 具体的には「紙のコミック同様、単行本としての電子書籍コミック」「アプリを介した単話での電子書籍コミック閲覧」「アプリやWebを介した、単話を中心とした広告収入型の電子書籍コミック閲覧」の3つである。要は、「ストアで単行本を売るタイプのビジネス」と「アプリで1話ずつ読ませるタイプのビジネス」の両方があり、特に後者の場合には、課金型と広告型があると考えればいいだろう。もちろん、アプリの中で全てが共存しているストアもあるわけだが。



 全国出版協会には広告ベースでのビジネスが含まれていない。電子書籍コミックのビジネスは、実際にはもう少し大きな規模であると推定できる。



 ではどのくらい上乗せされるべきなのか?



 あくまで参考としてだが、2020年にインプレス総合研究所より発行された「電子書籍ビジネス調査報告書2020」から引用したデータをご紹介する。なお、全国出版協会の調査とは手法などが異なるため、数字を直接的に混同して使うことはできないので、その点を留意してほしい。



 電子書籍ビジネス調査報告書2020によれば、マンガアプリによる広告市場は2019年度で210億円。2020年度予測値は270億円となっていた。同調査での、2019年度の電子書籍コミック市場は2989億円なので、7%程度が広告によるビジネスということになる。小さいように見えるが、年率30%で成長しており勢いはある。



 もう一つ面白いデータを引用しよう。電子書籍を読む場合、無料と有料どちらを使っているかという調査だ。消費者全体での「有料利用者」は着実に増えているが、一方で「無料利用者」は非常に安定的な数になっていることも分かるだろう。



 無料での利用者が多い割に広告収入が小さいということは、電子書籍における広告単価がまだまだ小さい、ということを示しており、額が上がっているのは「頻度・量が上がっている」と想定できる。



 もう一方で、アプリとサービスのシェアもみてみよう。



 この調査を見ると、確かにKindleが強いのだが、「単品で電子書籍を単行本で売る」ことを軸にしたストアだけが上位にいるわけではなく、「LINEマンガ」「ピッコマ」のように単品版・無料作品も多く扱うところや、「ジャンプ+」「マンガワン」「マガポケ」のように、既存の大手出版社が単品視聴・雑誌的掲載を軸に展開しているところも利用率が高いのが分かる。



 特に年齢層が高いと、従来のコミックのように「電子書籍の単行本を買う」ストアの利用者が多いだろう。そうした層は「まとめ買い」もするので、全体での売り上げ・客単価は高くなる傾向にある。



 しかし、LINEマンガやジャンプ+的な「単話配信かつ一部無料で、過去のものを読みたい・先を読みたい時はポイントによる課金で支払う」という形態のものも、収益的には拡大傾向が強い。特に、若年層にスマートフォンから視聴している層が支持しているのは、こうしたアプリでの閲覧だ。



 雑誌が落ち込んでいることはすでに説明した通りだが、結果として、過去にコミック雑誌が持っていた市場と役割をスマートフォンのコミックアプリがカバーし、ある種(言葉は良くないが)「読み捨て」に近い形で市場構成をしているのではないか……と予想している。



 現状、「単話作品・ポイント型のストア」と「単行本購入型のストア」は、なかなかうまく共存できていない。双方を敵とせず、UX上も快適な形を目指すことが重要だ。次なる市場の課題は、単話を読み捨てで読んだ層をいかに単行本市場へ誘導し、固定的なファンにしていくかだ。現状はそのための導線と、電子書籍の「ライブラリ管理」の機能がどこも貧弱だ。



 電子書籍コミックの市場がマスになったものの、解決すべき課題は残されたままだ。そろそろ、こうした面倒な部分を業界全体として考える時が来ていると思う。



 読み捨てだけでは健全かつ永続的な成長は難しい。単行本市場は、紙があってさらにそこから電子書籍も作る、というハイブリッド型であり、読み方もデバイスが違うだけでかなり似ている。「電子書籍はサービスが終わると読めなくなる」とはいうものの、サービスがいきなり終わるような「資本力や信頼性が弱いストア」は、単行本市場では生き残れていない。結局Kindleが強いのは、知名度だけでなく「なくなりそうにない」という信頼性の部分もあるだろう。



 購入した電子書籍の「閲覧権の保護」もちゃんと解決すべき頃合いだ。既に大量の電子書籍が販売されたため、消費者保護の観点からいえば、そろそろ「いきなりサービスが閉じて、閲覧不可能になる」ことを市場が許さない時期が来ている。法的・業界横断的な取り組みも必要となるだろう。



※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、西田宗千佳さんのコラムを転載したものです。


このニュースに関するつぶやき

  • 「次なる市場の課題は、単話を読み捨てで読んだ層をいかに単行本市場へ誘導し、固定的なファンにしていくかだ。」→試し読みの最後に単行本へのリンクが付いている程度じゃ駄目なんだろうな。
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  • ここでも触れているが、電子書籍は正確には紙と違って買い切りではなく、無期限レンタルにすぎないのが多い。そして、スマホやタブレットの媒体を様々な理由で変えたら読むのも不可能になる可能性がある。 https://mixi.at/a4UClVT
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