毎週更新! みんなで語る『バック・アロウ』特集А宗獣口悟朗監督インタビュー【後編】

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2021年03月06日 02:31  ダ・ヴィンチニュース

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写真TVアニメ『バック・アロウ』 TOKYO MXほかにて毎週金曜24:00より放送中 (C)谷口悟朗・中島かずき・ANIPLEX/バック・アロウ製作委員会
TVアニメ『バック・アロウ』 TOKYO MXほかにて毎週金曜24:00より放送中 (C)谷口悟朗・中島かずき・ANIPLEX/バック・アロウ製作委員会

 信念が世界を変える! 壁に囲まれた世界リンガリンドに、謎の男バック・アロウが落ちてきた。壁の外から来たというその男をめぐり、リンガリンドの人々が動きはじめた。信念が具現化する巨大メカ・ブライハイトを駆使して、壁の外へ帰ろうとするバック・アロウ。その彼をめぐってリンガリンドの国々は、様々な策謀をめぐらしていく。ものすごいテンポ感とともに、壮大な世界がつむがれていく「物語とアニメの快楽」に満ちた、この作品が描こうとしているものは――?

『バック・アロウ』特集の第7回目は、谷口悟朗監督に登場してもらった。信念が具現化する世界で、信念を持たない主人公を描く面白さ、難しさ。そしてベテランと若手が交錯するアニメーションの制作現場を語った、インタビュー後編をお届けする。

アロウは、こだわるものがないからこそ描ける「善意の人」

――オリジナルアニメ作品『バック・アロウ』は、壁に囲まれた世界リンガリンドへ壁の外からやってきた主人公バック・アロウの物語。バック・アロウは記憶もなければ、信念もない男ですね。

谷口:そうですね。彼は何もない男なんです。

――何もない主人公を、谷口監督はどのように描こうとお考えだったのでしょうか。

谷口:アロウがドラマを生み出すわけではなく、彼の存在がアチラコチラに騒ぎを起こしていくというスタイルですからね、、物語の中で彼がうまく機能するだろうか、と正直言って不安だったんですよ。不安だったけれど、もし上手くいかなかったら、カイ(ロウダン)とシュウ(ビ)をメインにしようと思っていました。彼らのほうが情念やこだわりがはっきりとあるので。脚本をかなり先行して作っていましたから、ダメなら初手に戻ろう、と。

――バック・アロウは壁を目指すという目的は明らかですが、何もない。旅の中で出会った人を助けていくことになります。

谷口:そうなんですよね。作る時の核をどうしたものかなと。けれど、第1話の絵コンテを切り終えたときに完全に見えたんです。アロウは、こだわるものがないからこそ描ける「善意の人」……と言えばいいんですかね。

――善意の人……ですか!

谷口:私が苦手としている主人公のタイプがあるんですよ。ゲーム的というか、性格的な欠損がほとんどない、パーフェクトな人格。今回、そういった善意は「何もない」からこそ出せるんだなと気が付いたんです。「何もない」ということは、この世界の利益も地位も名誉もわかっていない。だからこそ、利害に関係なく、善意の人になれる。もしかしたら、アロウがこの世界に10年、20年いたら、この世界の仕組みを知って、今のような善意の人になれなくなってしまうかもしれないけど、少なくともこの物語の時系列においては、善意の人でいられるんですね。

――何も知らないからこそ、キャラクターの善性がむき出しになるということですね。一方、カイ・ロウダンとシュウ・ビは、レッカ凱帝国で身ひとつで成り上がろうとした、いわゆる立身出世を目指す登場人物。しかも、生死をともにした親友のふたりが袂を分かつというドラマも濃厚です。

谷口:何かを背負っていて、ドラマ的なものが明確に存在するふたりですね。そこで第1話では特殊オープニングでカイとシュウとレン(シン)をまずは見てくださいと。

――たしかに第1話は特殊なオープニング映像でした。本来はエンディングテーマの“セカイノハテ”を流し、カイとシュウ、レンをフィーチャーした映像で「バック・アロウ」以外のキャラクター・キャストが紹介されるという。

谷口:オープニングは、ミュージックビデオではない。お客さんが作品を観やすくするための役割があるものだと思っていますから、まずはカイとシュウ、レンを観てもらえれば、この作品はわかりやすいぞと。本来の主軸であるエッジャ村の人々は、自分たちからアクションを起こすわけではないので、第1話では彼らを観ていてもタルく感じるだろうなと思ったんです。

――おっしゃるとおり、シュウは自らの意思で動くキャラクターです。第4〜5話ではなんとレッカ凱帝国から離反してしまう。とても面白いキャラクターですね。

谷口:シュウは杉田(智和)さんが演じてくださって完成しましたね。当初、中島さんの中でのイメージは『コードギアス』のロイド・アスプルンド(人間よりも技術に興味を持つトリッキーな開発者)に近い形だったと思うんです。私としては彼はドラマを背負うから二枚目顔にしたかった。そこに大高忍さんのキャラクター原案が上がってきて、今のかたちになりました。

――キャラクター原案を担当されている大高忍さんは、『マギ』などのヒット作を描かれたマンガ家さんです。今回は、大高さんにはどんなリクエストをされたのでしょうか。

谷口:大高さんが描かれている『マギ』や『オリエント』では、キャラクターのファッションが良いなと思っていたんですね。服装にわかりやすい記号が散りばめられている。服による主張と言いますか、そこが今回欲しかった要素のひとつなんです。アニメーターさんがキャラクターデザインすると、どうしても作画の大変さやパースの取りやすさを意識してしまうので、作画が大変そうな服装を避けてしまうことがあるんです。でも、マンガ家さんはそういった発想ではデザインされないので、とてもありがたかったですね。大高さんの原案があれば、あとは現場(キャラクターデザインの菅野利之)が描きやすいように線を整理していけば良かったので。

――たしかにエッジャ村(グランエッジャ)、レッカ凱帝国、リュート卿和国、はファッションで違いが一目でわかりますね。大高さんへ谷口監督から具体的なお願いがあったのでしょうか。

谷口:レッカは漠然と“アジア”にしてほしい、リュートに関しては漠然と“ヨーロッパ”にしてほしいとお願いしました。アジアとヨーロッパの捉え方は大高さんの好きにしていいです、と。期待通りのものが上がってきて良かったです。ストレートなデザインをお願いすると、恥ずかしがっちゃう人がいるんですが、大高さんははっきりと打ち出してくださるのが良いところでしたね。

――かたやバック・アロウが機装顕現(信念を具現化させる)するブライハイトについても、独特なデザインになっていますね。ブライハイトデザインを担当された天神英貴さんにはどんなリクエストをされたのでしょうか。

谷口:ここは悩みましたね。天神さんに趣旨を説明して、「とりあえず描いてもらえませんか?」とお願いしました。「工業製品ではない。軍事的なものでもない。補給や補充、パーツチェンジを考える必要もない。ひとりひとりが違うブライハイトとして存在している。あえて言うなら、着ぐるみです」とお話しました。

――ブライハイトのイメージは、着ぐるみなんですね。

谷口:私の好みで例えるならば、昭和の『ウルトラマン』シリーズの宇宙人や怪獣のイメージなんです。それこそ成田亨さんが描かれていたような感じですね。

――いわゆる堅いメカ的なロボットというよりも、柔らかい精神体のような?

谷口:そうですね。個人的には商品化するときはソフビ人形になると良いなと思っていたんです。直線的な線や面取りではなく、曲面にすることで、いわゆる最近のロボットデザインのラインから外れていくと思ったんですが、そこは作品の個性だろうと。そうやって描いてもらっているうちに、かわいらしいブライハイトも出てきたので「目をつけちゃいませんか?」とこちらから提案しまして。それで目があるデザインになりました。

――巨大なメカでありながら、やわらかかったり目があったりすることで、キャラクターっぽさが出ているんですね。

谷口:信念をそのままかたちにしようと思うと、下手すると観念論や抽象論になってしまうので、まずは本編でやるべきことを天神さんに伝えて、ブライハイトのデザインへ落とし込んでもらいました。たとえば、第1話でアタリーが機装顕現するのですが、アタリーの信念は「とりあえずやり過ごす」。アタリーのブライハイトは敵のブライハイトの攻撃をやり過ごしつつ、鞭を使って反撃をする。じゃあ、かわいらしいデザインにしようと。エルシャのブライハイトは、グランエッジャの先頭にくっつかないといけないので、じゃあグランエッジャに刺さりやすいようなデザインにしようと。ストーリーが要請している要素をビジュアル化するようなかたちにしています。でも、あまりやりすぎると、今度はアロウのブライハイトがスライムになってしまう(笑)。

――バック・アロウが機装顕現するブライハイト「ムガ」は、アロウに信念がないから、柔らかい。敵の攻撃を受けるとぐにゃっとへこんで、打撃を受け流してしまうんですよね。

谷口:そうなんです。でも、そこは主人公メカらしさを出すように、頭身やクリスタルのパーツを強調して、このメカが主人公側の正義のメカなんだなとお客さんがわかるようにしています。

バック・アロウ

バック・アロウ

バック・アロウ

バック・アロウ

第8話あたりで、この作品について来れる方と、ついて来られない方が分かれると思います(笑)。

――今回、ロボットやロボットアクションは3DCGで描かれています。これは早い段階から想定していたことだったんですか?

谷口:いや、最初の企画段階では、全部手描きの想定だったんです。しかし、このご時世ではなかなか手描きでロボットアクションを描ける人が少ないですからね。それに手描きだと120点をだせる場合もあるけれど30点になることのほうが多い。それで、3DCGを使おうと。前半は3DCGのスタッフに頑張っていただいて、途中から3DCGと作画のハイブリットでいくことにしようということになりました。それで3DCGと作画のアクションをそろえるために、スタッフとして山根(理宏)さんに入ってもらったんです。見せ方とかタイミングの取り方は山根さんに従ってほしい、というリーダーでもありアイコンでもある存在として、ですね。

――谷口監督にとって、山根さんはかなり長くご一緒されているスタッフのひとりですね。それこそ勇者ロボシリーズからご一緒されている。今回、山根さんにはどんなリクエストをされたのでしょうか。

谷口:私から山根さんにお願いしたことは大きくわけてふたつです。ひとつは先程言った3DCGと作画のアクションとテイストを合わせてほしいということ。もうひとつは、制作会社のスタジオヴォルンの若手アニメーターに、アニメーターとしての生き方を教えてほしい、ということ。

――ははは。生き方のご指導をされているとは!

谷口:山根理宏という人は、作画スタジオの入社試験に落ちた人なんですよ。ところが、そこの社長が草野球のチームに彼を誘ってしまったんですね。野球経験者だったから。それを聞いた彼は、入社試験に受かったと勘違いして、野球の試合の日に荷物をまとめて上京してしまったんです。スタジオの人たちも無下にする訳にも行かなくなってしまって、仕方なくスタジオの隅っこに席を作って、彼を置くことになったんです。おそらくその段階での将来性は皆無です。でもね、彼はスターアニメーターたちに揉まれ、数多の恥辱にまみれながらも業界で生き残っていく。その今に至る道は、若手にとってすごく勉強になるんじゃないかと思ったんです。

――アニメーターの後進を育成するという視点も入っていたわけですね。

谷口:TVシリーズはスタッフの育成を考えながら作ることは当たり前だと思っていますから。スターの生き方なんて、調べればいくらでも知ることができるけれど、最初にスターになれなかった男がスターと肩を並べるまでに至る道は、なかなか知ることができない。そこにどういう努力と思考があるのか、新しい会社であるヴォルンの若手にとっては、とても役に立つだろうと考えていました。

――『バック・アロウ』のアニメーション制作をしているスタジオヴォルンはまだ若いスタジオですよね。

谷口:そうですね。単独で制作した作品は、劇場版『君の膵臓をたべたい』やTVシリーズ『からくりサーカス』しかない、若いスタジオです。そんな会社がどこも尻込みするような企画を受けてくれた。かっこよく言えば人生意気に感ずってやつです。

――『バック・アロウ』は2クールの作品ですし、ロードムービーのように世界を転々としていく作品ですから、昨今ではかなり大変な部類に入る作品ですよね。

谷口:この脚本を読んで、制作に手を挙げていただいたスタジオヴォルン社長の三田圭志さんと、アニメーションプロデューサーの青木誠さんには感謝しかないです。その恩をお返しするには、いろいろなスタッフをご紹介したり、アニメーションのいろいろな作り方をお伝えするのが一番だろうと。今までロボットアニメをたくさん作っていたサンライズさんも制作ラインを絞り込んでしまいましたしね。であれば、ほかのスタジオで今まで受け継がれていた技術や伝統を少しでも伝えていければ良いなと思っています。

――さて、この谷口監督のインタビューが掲載される頃には、いよいよリュート卿和国へと物語の舞台が動いていきます。リュートの登場人物は個性が強いメンバー揃いですね。

谷口:フィーネ(フォルテ)に関しては、キャスティングの理由もお客さんも充分お気づきじゃないかなと思います。最初に、このキャラクターを中島さんが書かれたとき、これは小清水(亜美)さんだよね、と。フィーネとともにリュートを支えるプラーク(コンラート)役の小松未可子とは、これまで何度も仕事をしてきたのですが、一国を支える責任感を、私の予想以上にしっかりと演じてくれています。私が勉強不足だったなと、彼女の成長に驚きました。

――今回のキャストは、とても豪華な顔ぶれになっていますね。

谷口:今回は、音響面はかなり贅沢をさせていただきました。中島さんが書かれるセリフは舞台や武侠小説を連想させるような言い回しがあるので、ある程度の技を持っている声優さんじゃないと難しいと思っていました。それで今回は、キャリアのある方々に参加してもらっています。

――音響面の豪華さということでいうと、劇伴も田中公平さんが担当されています。

谷口:企画の早い段階から、田中さんに音楽をお願いしたいと思っていました。でも、田中さんはお忙しい方なので、なかなかお仕事をお願いできないんです。今回はタイミングもよく、お願いできてよかったです。

――田中公平さんへの劇伴のリクエストは、どのようなコンセプトでお願いしましたか。

谷口:音楽の発注表は、第一稿を私が書きました。そのあとは音響監督さんが必要な音楽を足して、それをもとに打ち合わせをします。田中さんはベテランなので、こちらが編成などの細かいことをお願いしなくても、わかってくださる。楽曲に意味があるので、お願いしてとても良かったな、と思います。

――第8話で登場するデマイン合唱団(リュート卿和国の科学卿デマイン・シャフトが研究するときに歌う合唱団)の合唱曲も田中さんがお作りになっているんでしょうか?

谷口:ええ、もちろんです。こちらが歌詞をお渡ししたら、それをもとに合唱曲を作ってくださいました。ふざけていると思われたかもしれませんねぇ、あれ。お話の一部なので中島さんがベースとなる詩を脚本に書かれて、私がシーンごとの調整をして譜面に合わせてあります。劇中歌ですから、アフレコ現場で収録します。その時のリーダーは声優の小島幸子さんにお願いしました。

――まるでナンセンスなミュージカルのようなシーンになっていて……衝撃的でした。

谷口:私からすると舞台の感覚なんですが。このあたりで、この作品について来れる方と、ついて来られない方が分かれると思います(笑)。

――これから始まる中盤戦が楽しみです。

谷口:物語は、いよいよレッカとリュートの全面戦争に入ります。戦いがあるということはどちらかが勝者となり、どちらかが敗者になるということ。それぞれの国内にも不穏分子がたくさんいますし、その中で翻弄されるグランエッジャとアロウがどんなアクションを起こすのか。大事な分岐点がやってくると思います。ぜひ、大きく変わっていく物語を楽しみにしてください。

第8回(小清水亜美インタビュー)は、3月12日配信予定です

取材・文=志田英邦

谷口悟朗(たにぐち・ごろう)
アニメーション監督、演出家、プロデューサー。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業。エルドランシリーズ、ガンダムシリーズ、勇者シリーズなどの演出を手がける。代表作に『無限のリヴァイアス』『スクライド』『プラネテス』『ガン×ソード』『コードギアス 反逆のルルーシュ』『純潔のマリア』『ID-0』など。


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