領海侵入の日に不在…「驚きを禁じ得ない」首相経験者が嘆く、菅さんのルール無視 「今さえ良ければいい」

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2021年03月07日 07:00  ウィズニュース

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写真記者会見を終え、引き揚げる菅義偉首相(中央)=2021年3月5日午後10時13分、首相官邸、代表撮影
記者会見を終え、引き揚げる菅義偉首相(中央)=2021年3月5日午後10時13分、首相官邸、代表撮影

過去最大の106兆円の新年度予算案は3月2日、衆院を通過し、参院での審議が始まりました。菅義偉首相の長男が勤める放送関連会社による総務省幹部への接待問題も新たな「違法」が発覚し、安倍政権以来、毎年のように首相が関係する疑惑が浮上する異常事態になっていますが、規律破りのいまの政治を支えているものは――。朝日新聞政治部(前・新聞労連委員長)の南彰記者が国会周辺で感じたことをつづります。

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「決裁の最上位は、山田真貴子局長でございます」
3月5日、菅さんの長男が勤める放送関連会社「東北新社」による総務官僚への接待問題で、新たな展開がありました。

この日の参院予算委員会で、立憲民主党の小西洋之さんの質問に対し、東北新社の衛星放送認可をめぐる違法性を認めたのです。

放送法では、外国の個人・法人などの株主が持つ議決権が20%以上の事業者は、放送を行えないとする外資規制があります。違反した場合、「認定を取り消さなければならない」と定める重いルールです。

ところが、小西さんが東北新社の外資割合を調べると、次のように推移していました。

・2015年3月末(20.55%)
・2016年3月末(20.28%)
・2016年9月末(19.96%)
※2017年1月=総務省が「BS4K」事業者の認定
・2017年3月末(21.23%=違法状態)
・2017年9月末(22.21%=違法状態)
※2017年10月=総務省が子会社への事業承継を認める

わずかに20%を下回っていた2016年10月に、東北新社は「BS4K」放送の事業者への認定を申請し、総務省は2017年1月に認定しました。そして、同年3月末には再び20%を超えて違法状態になりましたが、総務省は同年10月、事業者の地位を100%子会社「東北新社メディアサービス」に承継させるという東北新社の申請を認めていたのです。

小西さんは「外資規制を超えていたことは、有価証券報告書や株主総会で誰もが知っている数字」と指摘。「外資規制回避の脱法行為」と見て、追及しました。

「この決裁の最高責任者は誰ですか」

そして、総務省幹部の答弁に委員会室がどよめきました。

「この決裁の最上位は、当時の情報流通行政局の山田真貴子局長でございます」

東北新社からの「7万円接待」が批判を浴びた後、「体調不良」を理由に内閣広報官を辞任した山田さんの関与が浮かび上がったからです。

この日の質疑では、違法状態を解消しないまま、子会社への事業継承を認めた判断を取り消すのかについて、総務省は「これまで想定していなかったケース」と繰り返し、ルールの解釈を先送りしました。

小西さんは、参院議員になる前、総務省の官僚として放送行政にもたずさわってきました。

「総理、私は、放送の仕事を5年ぐらいやっていますが、総務省、総務大臣が放送法の解釈を述べなかったことはなかった」と指摘。「外資規制に違反していても認定を取り消さず、子会社への承継を認める。これは放送法の私物化ではないか」と疑問を投げかけました。

自民党はこの日、総務省接待問題のNTTルートについて、NTT社長の国会招致に前向きな考えを示しましたが、東北新社ルートについては、「民間人」として、菅さんの長男らの国会招致に拒否を続けています。

連絡を受けてもゴルフを続けた森喜朗元首相
さて、首都圏の緊急事態宣言延長を正式決定した金曜日の国会周辺は、午前7時から専門家が議論する諮問委員会がスタート。参院予算委員会や衆参両院の議院運営委員会、政府の対策本部、菅さんの記者会見など、深夜まで重要な日程が続きました。そうしたなか、合間をぬって、ある首相経験者の部屋をたずねました。

「あまりにも、ルールというか、原則から逸脱しているんですよね…」

2011〜2012年まで民主党政権で首相を務めた立憲民主党の野田佳彦さんです。野田さんは、衆院での予算案・関連法案の審議で、現政権のルール破りに警鐘をならしていました。

ひとつは、危機管理のルールです。

「事実上の党首討論」と言って、他の大臣の答弁を寄せ付けず、菅さんと一対一で質疑をした2月15日の衆院予算委。年間1億6千万円の維持管理費をかけている首相公邸に菅さんが転居しない是非をめぐる論争が注目されましたが、委員会室から「えー」と最も驚きの声があがったのは、以下のやりとりの場面でした。

「総理と官房長官の必ずどちらかは在京するようにすることが、鉄則のように、不文律のように続いてきた。それが、2014年に崩れた。2019年の参院選期間中、総理も官房長官も、官邸不在だった日数を教えて頂きたい」
「ご指摘の期間中、(安倍)総理と私(当時は官房長官)が共に東京を離れた日は、合計で17日間です」

野田さんが「不文律」と表現したのは、2001年2月以降、続けられてきた官邸の危機管理のルールです。米海軍の原子力潜水艦と衝突した宇和島水産高校の練習船が沈没し、9人が死亡する事故が起きたときに、当時の森喜朗首相が連絡を受けても、ゴルフを続けて対応が遅れた「えひめ丸事故」の教訓を踏まえたものでした。

「告示から投票日前日までで17日間です。(選挙期間中)毎日いなかったということじゃないですか?明らかに危機管理より政局を優先してきたと言わざるをえない」

この17日間のなかには、大規模買収事件で議員辞職した河井案里氏への応援も含まれています。野田さんは「今年中に総選挙があるが、加藤官房長官と役割分担して、どっちかは在京にしようということにはしないのか」と菅さんに今後の対応を問いました。

「内閣法の定めによって、官房長官の不在時は政務の副長官が職務代行することとし、危機管理にいささかの間隙も生じないよう体制を整えて、出かけています。さらに言えば、選挙をどう考えるかです。やはり政府の対策を、国民の皆さんに理解して頂く(ことは)、ある意味で民主主義の根幹ではないでしょうか」

選挙の意義を持ちだして反論する菅さんに、野田さんは「何の反省もないということに、ちょっと驚きを禁じ得ないですね」と嘆きました。

・中国海軍の軍艦が日本の領海に侵入した日に、安倍さんも菅さんもいなかった。
・イギリスのEU離脱が確定して、金融市場が荒れたときも、2人とも不在だった。市場がしまった後に安倍さんが戻り、関係閣僚会議が開かれたが、菅さんは間に合わなかった。
・日本人7人が亡くなったダッカの襲撃事件への対応時に、菅さんが選挙応援で新潟に向かった。

野田さんは2016年の参院選投票日前に起きた危機管理上の問題を例示しましたが、菅さんはそうした事態への反省はありませんでした。

野田さんを官房長官として支えた藤村修さんは、厳しい選挙が予想されるなかも、このルールを律義に守り、2012年の衆院選中、自身の選挙区に戻ったのは、わずか半日。その時は野田さんが官邸周辺で危機管理に備えていました。野田さんは質疑をこう振り返りました。

「我々も、その前の自民党政権も守っていたが、安倍さん・菅さんのコンビから変わってしまった。完全にルールではなくなってしまったんですよね。(菅さんが答えた)選挙の意義は当たり前だけど、政権を預かる立場としてこんなことを言っている場合かと思いましたね」

「実はもっときついことをいっていたんですよ」
もう一つは、財政に関するルールです。

国の財源不足を補う借金にあたる「赤字国債」を今後5年間、発行できるようにする「特例公債法案」が審議された2月24日の衆院財務金融委員会。

野田さんは、赤字国債の発行を余儀なくされた大平正芳蔵相(のちに首相)が1975年の国会で「習い性となっては困るわけで、異例の措置であればその年度限り、その特定の目的のためにこれだけのものをお願いするというように限定しなければならぬ」と述べた答弁を紹介。「この大平元総理の心境と言葉について、どのように捉えていますか」と麻生太郎財務相に尋ねました。

「財政法4条の特例で、できる限り発行を抑制するのが望ましいというのが間違いなく、この大平大臣のご指摘、野田先生おっしゃるとおりですが、こうした基本的な考え方は大事で、重く受け止めないといけない」

財政法は、借金に頼った財政運営を原則禁じています。そのため、歴代政権は、特別に1年限りで認める「特例法」を国会で成立させてから、赤字国債を発行してきました。毎年国会を通さないと赤字国債が発行できないようにすることで、少しでも歯止めをかけるためのものでした。

「1年限り」の枠組みが変わったのは、野田さんが首相だった2012年の民主、自民、公明各党による「3党合意」です。2012年は衆参両院の多数派が異なる「ねじれ国会」。特例公債法案の可決の見通しがなかなか立たず、赤字国債の発行を前提にして組んだ予算の執行が行き詰まるなか、野田さんが衆院を解散した11月16日まで成立がずれこみました。その時の3党合意が、国と地方の「基礎的財政収支」(プライマリーバランス)の赤字の割合を、「2015年度に2010年度と比べて半減」という財政健全化目標を前提に、2015年度までの4年間の赤字国債発行を認める法律にする複数年度への修正です。

「選挙で敗れる可能性が高かったなか、我々にとっては武装解除だったが、何党が政権をとっても、特例公債を人質にしたら、予算執行できずに困るのは国民。そういったことをやらないようにしようというのが一番の本意だった。しかも前提として、特例公債の抑制に努めることが絶対条件で魂だった」

野田さんは「3党合意」に込められた思いを説明。特例期間が当初の「4年」から「5年」に延びる一方、法案に財政健全化目標すら書かれなくなったことを問題視し、「端緒を開いたのは私だから痛恨の極みだが、いま安易に政府が提案し、財政状況はますます悪化している。国会の民主的統制を取り戻し、毎年、発行額についてきちっと審議すべきではないか」と1年限りに戻すよう麻生さんに求めました。

野田さんはこう振り返りました。

「大平さんは1975年に特例公債を発行せざるをえなくなった時、実はもっときついことをいっていたんですよ。『死ぬほど辛い』と。それがいま常態化して、後継筋の自民党の人たちはガンガン使いまくることに痛痒を感じていない。野党もそういう傾向はあると思いますが、この感性の麻痺は怖いと思いますね。先輩たちが『死ぬほど辛い』と思ったことを、全く痛痒を感じなくなっている」

「一票を投じることができない将来の世代を犠牲に」
コロナ禍で財政出動は必要ですが、財政規律は緩む一方です。

プライマリーバランスの「2020年度黒字化」の財政健全化目標は、コロナ禍の前から「2025年度」へと先送りされていましたが、今国会の冒頭で成立した今年度第3次補正予算でも、コロナ禍と関係が薄い事業まで続々と盛り込まれました。

必要な工事を積み上げずに、与党の言い値で「15兆円」と決まった国土強靱化対策の総事業費はその象徴です。懐を痛めず、借金で事業を積み上げているので、2021年度末の国債発行残高は約990兆円と、1千兆円の大台に迫る見通しになっています。

「2025年度」に先送りした健全化目標の達成すら絶望的な状況です。将来世代にツケを回し、さらには財政法が禁じている日本銀行による国債引き受けに近い形で、異常な財政運営が支えられています。

東日本大震災後、民主党政権が看板政策の高速道路無料化を見直したり、国家公務員の給与をカットしたり、所得税や住民税の「復興増税」を行ったりして財源を確保し、最終的には消費税の増税まで決めたような耳の痛い議論は、現在、進んでいません。

消費税増税に踏み切った野田さんに対する評価は、現政権に批判的な人の間でも複雑なものがあります。

規律を重視した当時の議論は、確かに重苦しいものがありました。対照的に、いまの政治のように、規律を軽んじ、時にルールを無視したやり方の方が、「今さえ良ければいい」という身内が群がり、当面の権力維持には好都合という皮肉な現実があります。しかし、その先にあるのは、公正さが害された末の社会の分断と、将来世代へのつけ回しです。

野田さんは、コロナ禍で困っている人を助けるための財政出動の必要性に理解を示したうえで、いまを生きる私たち1人1人に問いかけるように語りました。

「短期的にはお金を回し続ければ、その人たちは(政権の)敵に回らない。でも、それは一票を投じることができない将来の世代を犠牲にしていくことになるんです。それをおもんぱかる気持ちがあるかどうか。そして、お金を受け取る人たちも、その財源にまで思いを致すかでしょうね」

     ◇

〈金曜日の永田町〉朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。(https://withnews.jp/articles/series/94/1)

     ◇

《来週の永田町》
・3月8日(月)菅首相が出席した参院予算委員会の集中審議。総務省がNTTルートの接待問題に関する中間報告/「ジェンダーに関する問題ある公的発言ワースト投票2021」の結果発表
・3月9日(火)デジタル庁設置法案の審議入り
・3月11日(木)東日本大震災10周年追悼式

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南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

このニュースに関するつぶやき

  • 叩き上げ、集団就職はウソだった。
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  • NHKとか、民放の外資割合、職員の外国人の比率はどのくらいあるんかい( `ー´)ノ東北新社より、影響力は圧倒的に高いんじゃ。
    • イイネ!35
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