藤田菜七子が海外遠征で見せた成長。先輩女性騎手としてより逞しく

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2021年03月08日 11:41  webスポルティーバ

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 2021年3月はじめの週末に、2人の女性騎手がデビューした。18歳の永島まなみは6日の小倉2レースでの4着が最高順位。20歳の古川奈穂も、阪神1レースの4着が最高で初勝利はお預けになったが、今後の活躍に多くのファンが期待を寄せている。

 2人のデビューによって、5年前に華々しく騎手人生をスタートさせた藤田菜七子にも再び大きな注目が集まっている。2018年に女性騎手の最多勝利記録を更新し、2019には日本人女性騎手として初のJRA重賞制覇。しかし23歳になった"先輩"は、サウジアラビアでのレースでさらに逞しさを増した姿を見せていた。




 藤田は現地時間2月18日、19日の両日、サウジアラビアの首都リヤドにあるキングアブドゥラジス競馬場で行なわれた国際招待競走「サウジカップ開催」に参戦。昨年に創設されたばかりの国際招待競走だが、今年はコロナ禍により開催を危ぶむ声もあった。それでも、国外からの関係者の移動を競馬場とホテルに限定した"バブル"対応で隔離し、さらに無観客レースとすることで、無事に2日間を終えた。

 この2日間のリヤドは時折冷たい雨も降るなど、サウジアラビアのイメージとはほど遠い寒さで、取材をする筆者もスーツの上にレインコートを着てもまだ寒いと感じるほどだった。そんな中、1日目は国際騎手招待競走の『インターナショナル・ジョッキーズ・チャレンジ(以下、IJC)』の4レースを中心に、2日目はサウジC(ダート1800m)をメインに7つの国際招待競走が行なわれた。

 IJCは、世界各地から選出された男女7人ずつ計14人の騎手が、4つのレースの着順によって得られるポイントで総合順位を争う。騎手の選考は単にリーディングというわけではなく、話題性も考慮されている。昨年に通算1万3000勝を達成したブラジルのジョルジ・リカルド、イギリスからは2年連続で100勝超えのホリー・ドイル、フランスで初の女性騎手によるG1勝利を果たしたジェシカ・マルチアリスらと共に、日本からは藤田が招待を受けた。

 藤田にとっては、2019年8月のイギリス・シャーガーカップ以来1年6カ月ぶり、6度目の海外遠征。本来であれば、昨年もこの競走に出場していたはずだったが、直前のレース中に落馬、骨折というアクシデントがあって見合わせとなっていた。

 1年遅れでの参戦だが、すんなりと決まった話ではない。参戦すれば日本政府の検疫ルールに則って、帰国後は14日間の自宅待機となり、当該週も含めると3週間も日本で騎乗ができなくなるからだ。

 デビュー以来、右肩上がりに増えていた藤田の勝ち星は、昨年に初めて前年を下回った(2019年は43勝、2020年は35勝)。前述の骨折によって戦線離脱したことが大きな要因で、不運な部分もあったが、負けず嫌いの藤田は結果にまったく満足していなかっただろう。

 単純に勝ち星のことだけを考えれば、今年も遠征を見合わせ、日本でのレースで騎乗数を確保することもできたはず。しかし、藤田はサウジ遠征を選んだ。目先の勝利数ではなく「経験」を取ったのだ。日本で騎乗できない期間をマイナスに捉えず、骨折で離脱した昨年と同じくらい休んでも勝ち星は上回ろう、と腹を括った決意の表われのようにも思えた。

 実際に4つのレースでの騎乗でも、随所で気持ちの強さが見えた。

 第1レースでは、スタートで行き脚がつかなかったが、道中は後方で控えて追走。4コーナー付近でも周囲が激しく動くのに対して冷静に"待ち"を選択し、そこで溜めた脚を直線で爆発させる。勝ち馬こそ捕まえきれなかったものの、ごぼう抜きで2着といきなり魅せた。

 続く第2レースでもスタートが決まらなかったが、最後の直線でしぶとく伸びて5着を確保。この騎乗には、出走馬を管理する地元の調教師も大変な喜びようで藤田を出迎えた。さらに第3レースは4コーナーで早々に先頭に立ち、最後は失速して6着に終わったものの直線半ばまで見せ場を作った。

 最終戦を残したとところで総合3位。最終第4レースで地元騎手に逆転を許したが、それでも総合4位タイ、7人の女性騎手の中では1位タイの成績を残した。

 この1日目で、印象に残った場面がふたつあった。

 ひとつは、引き上げてきた時の姿だ。

今回のレースでは最重で61.5kg、最軽量でも58.5kgの斤量での騎乗だった。普段の日本でのレースよりも10kg近く重い鞍を乗せ、レース後には馬を全力で追い息が上がっている状況でそれを自ら運び、後検量を受けなければならない。5年前のデビュー年にアブダビで騎乗した際は、同じような斤量の鞍を運ぶだけでもひと苦労だったが、今回の藤田は、しっかりと鞍を抱え、胸を張ってひょいひょいと歩いていた。確実に、筋力がアップしたことがわかる。

重い鞍を軽々と運ぶ藤田

 もうひとつ印象的だったのは、レース後の談話だ。

藤田は「勝ちたかったので、すごく悔しいけど......」と口にしたあと、「いつも以上にリラックスして乗れたことで楽しめました」と明るい表情で続けた。藤田はコメントを慎重に選ぶタイプで、生来の生真面目さと負けず嫌いの性格も相まって、負けた際には「悔しかった」「乗せていただいたのに申し訳ない」といった言葉が並ぶことが多かった。それだけに、明るく「楽しかった」とコメントしたことに驚かされた。

 翌日の取材でも、いい意味で開き直っていることが感じられた。藤田に対して、デビュー前の永島と古川に向けたコメントを求めると、「負けることのほうが圧倒的に多い競技なので、負けたことを引きずらないで切り替えることが大事」と答えた。それはまさに、これまでの藤田に向けられていた言葉だった。

 コロナ禍による取材制限もあって、筆者が藤田に会ったのは1年ぶり。その間、騎乗姿勢に力強さが備わってきたのは映像を通しても伝わっていたが、内面も逞しくなっていたことを今回で実感できた。いや、内面の逞しさが騎乗に表われるようになったのかもしれない。

 いつの間にか、我々メディアも藤田の騎乗結果に過剰に反応することが少なくなった。存在が特別視されなくなったことは、むしろいいことだろう。2人の新人女性騎手がデビューしたことで、再び周囲は騒がしくなるだろうが、逞しくなった今の藤田であれば意に介さないはず。自主隔離期間を経て、3月13日に復帰予定の藤田にあらためて注目したい。

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