唯一の国産Moto2コンストラクターNTS「世界の舞台でとことん勝負したい」/MotoGPコラム

0

2021年03月09日 13:21  AUTOSPORT web

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AUTOSPORT web

2020年MotoGP:Moto2クラス ボ・ベンスナイダー(左)、ドミニク・エガーター(右)/NTS RW Racing GP
FIMロードレース世界選手権のMoto2クラスに、コンストラクターとして参戦しているNTS。福島県に本社を構えるNTSは、メインフレームをはじめとした金属製車体部品を自社で開発、製造し、グランプリチームに供給している。そもそもNTSはオートバイを造る会社ではなかった。

 その事業の根幹は、航空宇宙、競技用自動車、船舶、医療業界などで、高精度で高品質が求められる仕事を手がけている。また、Moto2ではコンストラクターとしてだけでなく、『NTS RW Racing GP』の共同所有者として、チームの重要な判断を下す立場も担っている。Moto2はエンジン、ECU、そしてタイヤがワンメイクでコントロールされているが、NTS RW Racing GPが使うそのほかのパーツ、サスペンションやボディパーツ、ブレーキ、エキゾーストシステムなどのコーディネートはNTSが行なっているのだ。

 NTSとレースとのかかわりは2012年から始まる。そもそものきっかけは、チームノリックの監督、阿部光雄さん(ノリックこと阿部典史の父)から全日本ロードレース選手権J-GP2クラスの車体製作を依頼されたことだった。NTSはそれまでに培ってきた高精度、高品質のものづくりでその要望にこたえ、本格参戦からわずか2年目の2013年に、NTS製シャーシYZW-N6を駆った野左根航汰が見事チャンピオンに輝いた。

 チームノリックとのタッグと平行し、NTSはその活動の幅を徐々に広げていく。チームノリックではヤマハエンジンを搭載する車体を造っていたが、2014年からは元全日本チャンピオン手島雄介が立ち上げたチームT.Proとのコラボレーションで、ホンダエンジンを載せる車体NH6を製作。全日本J-GP2への参戦に加えて、同年の秋に行なわれたMotoGP日本グランプリでは代役参戦で世界戦デビュー。日本、オーストラリア、マレーシアは小山知良、そしてバレンシアでは長島哲太がNH6を駆り、世界グランプリの後半4戦を戦った。


 2015年、日本GPで再び世界選手権に挑戦する機会を得たNTSは、ライダー小山によって13位入賞を果たすと、ワイルドカード参戦ながら世界グランプリで初めてのポイントを獲得。世界で通用するんだという自信を胸に、翌2016年にはMoto2欧州選手権と呼ばれるCEVレプソルMoto2へのフル参戦を開始した。世界GPに参戦しているチームのジュニアチームも多いこのシリーズで、NTSはフル参戦1年目に優勝1回とコンストラクタータイトル2位を記録。2年目の2017年もシーズン2位の結果を残すと、そこでの経験を携えて、いよいよ2018年から世界GPフル参戦へと駒を進める。

 このころ、Moto2は変革期を迎えていた。ホンダの4気筒600ccエンジンのワンメイクで2010年にスタートしたMoto2クラスだが、2019年からはトライアンフの3気筒765ccエンジンへと変更されることが決定していたからだ。その発表は2017年のこと。NTSはこれを承知の上で、2018年から参戦を始めている。「2019年からリスタートになると思っています。そこに僕らのチャンスがある。そのための試行錯誤のシーズンにしたい」と当時の生田目將弘NTS代表は語っている。2018年はホンダエンジン用の車体でシーズンを戦いながら、トライアンフエンジン用の車体を開発していった。

 NTSが掲げている世界選手権での目標は、表彰台、優勝、そしてチャンピオンだ。初年度は、既に8シーズンを経験していたライバル勢と差を目の当たりにしたものの、コース上の最も近いところでその動きを見ることになるライバルは、NTS車体の素性のよさをほめてくれたという。

■ライダーを総入れ替えし、体制強化を図る2021年シーズン
 そして2019年からトライアンフエンジンを使用することになり、NTSの車体もN7Tとなる。ところが、シーズン中にライダーがケガを負ったり、体調を崩すことが2シーズン続いたこともあり、またMoto2のレベルの高さから厳しい戦いが強いられた。しかし、世界選手権3年目の2020年、ボ・ベンスナイダーが予選でたびたび上位に顔を出し、ダイレクトでQ2に進んだり、トップ10でチェッカーを受けるようにもなってきた。バレンシアGPでは8位に入り、初めてのシングルフィニッシュも達成している。

 2021年のNTS RW Racing GPは、ライダーをMotoGP経験もあるマレーシア人のハフィス・シャリンと、ベルギー人の16歳、バリー・バルタスのふたりに総入れ替えすると発表した。パンデミックの影響から、車体は大幅なアップデートが禁止。NTSにとっては大きな武器を取られてしまった形だが、軽量化など許された範囲での細かい部分を煮詰めていくという。平行して2022シーズン用に体制の強化を図っていくが、福島からヨーロッパの現場への移動が難しい状況は、コンストラクターとしても歯がゆい思いだ。

 元々、自身もレーシングライダーだったNTS代表の生田目さんは言う。「自分たちで造ったバイクが、世界の舞台でどこまで戦えるのか、とことん勝負したい」。現在、唯一の日本製Moto2マシンを造るNTS。世界の頂点を目指すその姿は勇ましく輝いている。

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定