『呪術廻戦』最新刊はジャンプバトルの真骨頂! 覚醒した芥見下々の筆力を見逃すな

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2021年03月16日 11:01  リアルサウンド

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『呪術廻戦』最新15巻を徹底考察

 アニメ版も好調で、現在もっとも勢いがあると言えるバトル漫画『呪術廻戦』(集英社)の第15巻が発売された。「週刊少年ジャンプ」で芥見下々が連載している本作は、負の感情が具現化した呪霊たちを祓う呪術師たちの物語。


 “呪いの王”と呼ばれた両面宿儺の指(特急呪物)を体内に取り込むことで、宿儺の力をその身に宿してしまった少年・虎杖悠仁は、宿儺を封印するために呪術師となり、熾烈な戦いに巻き込まれていく。


※以下、ネタバレあり。


 この第15巻では、第10巻から始まった渋谷事変が最終局面を向かえる。


 封印された師匠・五条悟を救うため、渋谷駅にいる特急呪霊・真人と戦う虎杖。激化する戦いの中で仲間たちは次々と戦線離脱となり、虎杖と同級生の呪術師・釘崎野薔薇も真人の毒牙にかかってしまう。


 この15巻では、野薔薇が暮らしていた田舎町での回想からはじまり、彼女が呪術師を志したきっかけが語られる。面白いのはその見せ方で、短い話数の中で視点が三度も変わる。まずは、野薔薇の同級生・ふみの視点から見た野薔薇の物語。閉鎖的な村の中で天真爛漫な姿をみせる野薔薇は、沙織ちゃんという年上のお姉さんと親しくしていたが、沙織ちゃんの家は村の人々から酷い嫌がらせを受けて、やがて引っ越してしまう。そのことをきっかけに、野薔薇は村を出て呪術師になろうと思うのだが、その後、視点は大人になった沙織に切り替わる。会社で残業をする沙織は野薔薇のことを思い出す。当時、沙織は懐いてくる野薔薇に慕ってほしくてお姉さんぶっていて、村で嫌がらせを受けていたのは彼女の母親が原因だったことが明らかになる、今の普通の自分を見たらでガッカリするだろうなぁと野薔薇を懐かしむ沙織。そして視点は、現在の野薔薇の心情を描く。


 「おかしい奴の声は大きくて自分以外の全てに思えて」「土足で他人の人生を踏みにじるもんなんだ」と諦めていた野薔薇だったが、虎杖たち呪術高専の仲間たちと知り合ったことで「そういうわけでもなかった」と悟る。


 虎杖に「悪くなかった」と言った後、真人の攻撃で野薔薇は意識を失う。この時に野薔薇の片目の眼球が吹き飛んでいるのが、はっきりとわかるのが、実にエグい。


 今まで「渋谷事変」のタイトルは「渋谷事変」+数字という表記で続いていたが、この第125話は「あの子の話」というタイトルで、そのこともあってか独立した短編としても読める。


 派手な戦闘や試合の最中に突然、各登場人物の過去のシーンが挟み込まれる演出は、『SLAM DUNK』や『ONE PIECE』、近年では『鬼滅の刃』などでも用いられており、ジャンプ漫画の手法として定着している見せ方だが、この125話が素晴らしいのは、1話の中で、3人の視点を通して野薔薇の内面を描ききっていることだ。同時に野薔薇の姿が虎杖に強いショックを与えてしまう瞬間も描かれており、繋ぎのエピソードとしては、突出して完成度が高い。


 その後、虎杖は戦意喪失。真人は虎杖に追い打ちをかけるように「甘ぇんだよクソガキが!!」「これはな戦争なんだよ!!」「間違いを正す戦いじゃねぇ!!」「正しさの押しつけ合いさ!!」「ペラッペラの正義のな!!」と言った後、「オマエは俺だ」と虎杖に言う。


 この世に善悪などなく勝敗が全てというのが真人の考えなのだろう。今まで虎杖が大切にしてきた価値観を容赦なく踏みにじる真人は悪役として凶悪で、負の魅力がみなぎっているが、ここで虎杖を助けに現れるのが、東堂葵だと言うのが面白い。


 東堂は、一級呪術師として実力はあるものの、思い込みが激しく性格に難があるため、仲間からウザがられているが、そんな彼だからこそ、虎杖の絶望を受け止め、ブラザーとして救うことができる。


 東堂は虎杖に、呪術師のやっていることが正しいかどうかはわからないが「俺達全員で呪術師なんだ」と言い、自分のせいで多くの人々が命を落としたことに苦悶する虎杖に「散りばめられた死に意味や理由を見出すことは」「時に死者への冒涜となる!! それでも!!」「オマエは何を託された?」と言った後「答えが出るまで決して足を止めるな」「それが呪術師として生きる者達への」「せめてもの罰だ」と東堂は言う。


 無論、ここで言う呪術師には東堂自身のことも含まれる。おそらく、オマエの罪と罰は俺がいっしょに引き受けてやると言っているのだろう。その後、物語は虎杖&東堂VS真人の呪術バトルとなり、戦いの渦中で、それぞれの潜在能力が120%引き出されることでパワーアップしていく。これぞ、ジャンプバトルの真骨頂と言える熱い展開だが、バトルだけでなく作者の芥見下々も、この15巻では120%の力で発揮しており、いよいよ漫画家として覚醒したと言える。


 最後は今まで謎に包まれていた敵の親玉・夏油傑が登場し「続けようか」「これからの世界の話を」と、意味深なことを言って次巻へ続く。物語、テーマ、漫画表現としての面白さ。あらゆる面において、今こそ読まれるべき漫画である。


(文=成馬零一)


このニュースに関するつぶやき

  • ナルトとブリーチの、いいとこ取りですね。
    • イイネ!7
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