【角田裕毅を海外ライターが斬る】テスト編:DRSを早々に開けてアタック。何でも試す、その意気やよし!

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2021年03月25日 12:01  AUTOSPORT web

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2021年F1プレシーズンテスト3日目 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年に7年ぶりに日本人F1ドライバーが登場した。アルファタウリ・ホンダからF1にデビューする角田裕毅だ。極めて高い評価を受け、大きな期待を担う角田を、海外の関係者はどう見ているのか。今は引退の身だが、モータースポーツ界で長年を過ごし、チームオーナーやコメンテーターを務めた経験もあるというエディ・エディントン(仮名)が、豊富な経験をもとに、忌憚のない意見をぶつける。

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 若さゆえの生意気さ、私はそれを見るのが大好きだ。力のあるドライバーは退屈なロボットでは決してない。何時間も膨大なテレメトリーデータを分析したり、チームメイトに負けていたら、相手の真似をしてコーナーAとかシケインBで時間を失わないようシミュレーターで試してみたり、そういったことには時間を費やさないのだ。

 創意工夫する力がある少年たちがいる。たとえばバーレーンテストでの角田裕毅がそうだった。日曜終盤にベストラップをマークした際、彼はピットストレートに入る際のDRSゾーンの150メートルも手前でDRSを手動でアクティベートし、0.1秒かそこらを稼いでいた(テストではそれは規則違反ではない)。それっぽっち、と思うかもしれないが、本番ではどれほどわずかなタイムも重要になる。彼のしていたことに気付かなかったとしても、全体の2番手タイムをたたき出したことには誰もが注目したことだろう。

 ドライバーたるもの、どのような状況であれ──それがテスト、プラクティス、予選、レース、チャンピオンシップ──であれ、ライバルたちに勝つ方法を見つけるためあらゆる可能性を探らなければならない、と私は考える。もちろん、安全かつクリーンなやり方でなければならないが、「ルールは破るためにある」といった心持ちで立ち向かっていく負けん気の強さが、ドライバーには必要なのだ。そういう気概を持っているかどうかが、たとえばセナ、シューマッハー、アロンソ、ハミルトンなどのグループと、フィジケラ、ブランドル、ヒル、バリチェロのようなグループとの決定的な違いだ。かつて私がモータースポーツ界で働いていたころ、自分の車に乗せるドライバーの条件は、目標達成のための手段をしゃかりきになって探る姿勢を持っていることだった。

 もちろん、そういうやり方をしていると、悲惨なことが起こる可能性もある。ホイール同士をぶつけ合ったり、ライバル相手にブレーキテストをしたり、相手をコースから押し出したりしたものなら、ひどい結末に終わりかねない。それでも、勝つために必要なことはやらなければならない。勝つことが何より重要なのだから。

 かつてF3チームオーナーだった時代を思い出した。あるブラジル人がいて……。おっと脱線しそうになった。話しながら常に次のことを考える質なので、すぐこうなってしまう。

■角田には偉大なチャンピオンたちと共通するものがある

 さて、1分前に話を戻そうか。なんだったかな、ああそうそう、他のドライバーが自分の周りに築き上げてきた世界をぶち壊してしまうようなルーキーが、時に現れるという話をしたかった。かつて驚異の新人が登場することで何が起きたかを振り返ってみよう。セナがブラバムでテストをしてとてつもなく速かった時、ネルソン・ピケは、バーニーのチームのスポンサー、パルマラットに電話をして、同じチームにブラジル人ドライバーがふたりいるという状況は受け入れられない、もうひとりはイタリア人がいいのでは、と訴えた。また、2005年12月、バルセロナでロバート・クビサが初めてF1マシンに乗った時には、BMWザウバー、マクラーレン、トヨタ、BARのスタッフたちが自分たちのドライバーそっちのけでクビサの走りを見守った。

 角田が将来グランプリウイナーになるとか、何度も世界チャンピオンになると言っているわけではない。だが、プレシーズンテストでの彼には、偉大なるチャンピオンたちと同じ『あるものはすべて利用する』というアプローチが見られた。それに、あっという間に新しい環境に慣れたこと、ほとんどミスをしなかったことにも感心した。風が強いとき、ダーティエアから抜け出すとマシンバランスが大きく乱れることを経験したのは貴重なレッスンになったと思うが、その時の大胆さはとてもよかった。


 角田に感銘を受けたのは私だけではない。ランド・ノリスは角田がDRSで何をしていたか気付き、ソーシャルメディアでコメントしていた。つまり彼も角田に注目していたことに間違いない。今でもF1で働いている私の元従業員たちが、年寄りを試そうとして、あの速いラップで何が起きていたかを得意げに説明してきたから、やり込めてやった。私は引退した億万長者、彼らはいまだに世界中を駆け巡って小銭を稼いでいる。いつだって私の方が何歩も先を行っているのは当たり前のことなのだ。


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筆者エディ・エディントンについて
 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちのある握手はバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。

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