新幹線の「ディズニー的」異空間、迷惑「撮り鉄」もブロック 起源は1964年東京五輪

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2021年04月10日 09:41  弁護士ドットコム

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聖火リレーが始まり、7月の東京五輪開幕に向けて準備が進んでいます。


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前回の第1回東京五輪と切っても切れない関係なのが、同じ年(1964年)に開業した新幹線(東海道新幹線)であることはよく知られています。



のちの万博の開催(1970年)とあわせて、新幹線の開通は、日本の「戦後」を脱した象徴でもあり、なんとしても成功させなければならない事業でした。



安全神話を体現すべく作られた新幹線のシステムと、それを助ける法律について、鉄道への造詣において日本随一の弁護士に聞いてみました。



在来線と新幹線を分けるキーワードは、ズバリ「特別」です。(ニュース編集部・塚田賢慎)



●新幹線は在来線より厳しいルールが設けられている

甲本晃啓弁護士(以下略):東京五輪と新幹線、そして法律に着目していきますが、最近の事例を取り上げていきましょう。鉄道の敷地内に人が入る事件が相次ぎましたね。



ーー「撮り鉄」がJR中央線の線路内に入ったことで、警察が鉄道営業法などの疑いで捜査しているようです(3月24日)。また、広島駅の新幹線ホームに立ち入った男性が新幹線特例法違反の疑いで逮捕されました(3月28日)。在来線と新幹線では、適用される法律が違うということでしょうか。





甲本:はい、線路などへの立ち入り行為について、新幹線の場合は「新幹線特例法」が適用され、従来の路線(「在来線」といいます。)では、鉄道営業法が適用されます。この2つの法律は、鉄道営業法が一般法、それを新幹線向けに強化した特別法として新幹線特例法があります。



先ほどの立ち入り行為は、鉄道営業法によれば最高でも1万円の科料であるのに対して、新幹線特例法ならば1年以下の懲役または5万円以下の罰金の範囲で処罰されます。新幹線の立ち入りは、懲役まであるので重いですよね。



●鉄道の安全が「当たり前」ではなかった時代

ーーなぜ、新幹線特例法が作られたのですか。



甲本:一言でいえば、新幹線は「特別」だからです。それでは全く答えになっていないでしょうが、本当に「特別」なのです。「特別」な理由をこれから紐解いていきましょう。



新幹線特例法には「列車がその主たる区間を二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できることにかんがみ、その列車の運行の安全を妨げる行為」を防止することがこの法律の趣旨だと書いてあります。しかし、「新幹線は、速いので、安全が大事です」というだけでは語りつくせないのです。



新幹線が誕生したのは1964年10月1日、東京〜新大阪間で開業した東海道新幹線が最初でした。直後(10月10日)に控えた東京オリンピックとともに、戦後からの復興をアピールするものとして、それはもう国家の威信をかけてつくられた一大プロジェクトでした。





ーー生まれからして「特別」感がありますね。



甲本:生い立ちだけではありません。今では当たり前となっている「安全」が、当時は「特別」だったのです。



当時の国鉄では、死者160人を出した「三河島事故」(1962)、死者161人の「鶴見事故」(1963)など、多重事故が相次いでいました。いずれも、車両、線路、運行システムなど様々な要因が重なり合った競合原因による事故でした。国鉄は、新幹線をつくるにあたり安全対策を徹底する必要性がありました。特に、一列車で1000人以上の命を預かって、未知の高速度で運行するわけですから、万が一にも事故があってはならないという絶対的な命題がありました。そこで、車両、線路、運行システムすべてを従来とは別の規格にしてしまったのです。



車両と線路は、従来よりも大型(欧米と同じサイズ)にし、運行システムも今では当たり前ですが司令室で集中管理する方式をとりました。





●カラーテレビもない時代に「SF映画の世界」を実現した

新幹線の開業前は、東京〜大阪間は一番早い特急電車でも6時間半かかっていましたが、それを、新幹線では時速200kmを超える速度で、時間も約半分(3時間10分)で結ぶ計画だったのです。あまりに速すぎるため、信号機の確認は難しいので、信号機はありません。線路に信号電流を流して車内に信号情報を送り、さらに速度超過の場合にはブレーキを自動制御しよう、やるなら徹底的に、ということで東京にある司令室から遠隔で、信号もポイント(線路の分岐)の切り替えも制御するということになりました。



1964(昭和39年)当時は、冷蔵庫でさえ普及率は4割もなく、カラーテレビに至ってはほぼゼロに近かった時代です。東京にある司令室から、新大阪駅のポイントを切り換えたり、列車の位置や速度を把握してリアルタイムに制御したりすること自体、もはや一般人にとっては理解の域を超えて、SF映画に近かったと思います。携帯電話も、インターネットもない時代に、突き抜けた先進さがありました。



いっぽうで技術陣は大変だったと思います。一般にシステムの安全性を保つには外的要因をできる限り排除する必要がありました。それがなされなければ、確実な遠隔操作が保証できないという要請もあったと思います。ですから、例えば、新幹線は、開通当初から完全に立体交差で建設され、事故や障害の要因となる踏切が一切ないように設計されています。



ーー確かに、踏切があれば、人や車が進入してしまいますよね。今のように監視カメラなどもなく、何かあってもいちいち見に行くことなんて出来なさそうです。



甲本:そうなんです。今でも、駅ホーム以外は、線路内へ侵入できるルートはありません。新幹線は、全区間の線路のほか関係施設には侵入できないように防護柵が設置されていて、一つのシステムとして外界から隔絶されています。東海道新幹線の場合、駅のホームの照明は24時間・365日点灯しっぱなしです。不審者が侵入すればすぐにわかるようになっています。



そうなると、何かの間違いで線路内へ人が迷い込むということは想定できない、つまり故意に立ち入る場合に限られることが、この法律の前提となっています。



●昔の人は、勝手に踏切を作っていた

ーー新幹線への立ち入りは「うっかりではなく、わざとやったのだから、罰則も重くしよう」と考えられるわけですね



甲本:そうですね。今では、在来線であっても、およそ「うっかり」でも線路などの鉄道用地に入ってしまうということは、想定しにくいでしょう。



新幹線特例法が作られた時代は、約60年後の現在とは、全然状況が違いました。鉄道用地は、もっともっと生活空間と密接で、道路と区別されていないような場所も多かったのです。



例えば、線路脇の小道(「犬走り」と言います。)を、通路代わりに利用する家があったり、「勝手踏切」と言って線路をまたいで自宅と畑を往復するための私設の踏切を無断で作ったりすることも、ある程度は黙認されていました。



ーー勝手に踏切を作るなんて、今じゃ考えられませんね



甲本:私の義理の父は国鉄車掌だったのですが、機関車が牽く(ひく)長距離の客車列車などは、ドアが手動でしたので、夜中に無人となる駅に停車した際は、発車して、列車が動きはじめると、直後にドアを開けて列車から無賃乗車のお客さんがパラパラと線路に飛び降りて逃げていく、なんてこともあったようです。



話しが少し逸れましたが、良い悪いは別として、それは長閑でおおらかな時代であり、もともと線路はそのような生活感のあふれる場所でした。ですから、それと新幹線を一緒に扱うのは、難しかったのだと思います。





●新幹線は「ディズニー」なのだ

もっと、わかりやすくいうと、新幹線は別世界。例えるなら、東京ディズニーランドでしょうかね。外界と隔絶されているので。不法侵入は全くもってNGです。



ーー新幹線はディズニー! あの夢の国には、入場ゲートをくぐらずして、生活圏内からフラッと迷い混むことはありませんね。ディズニーの安全な営業も、新幹線同様、外的要因を排除することで成立しているということでしょうか。



甲本:ちなみに、「新幹線」が走る路線でも、区間によっては、新幹線特例法が適用されないことはご存知でしょうか。



例えば、秋田新幹線(盛岡〜秋田間)や山形新幹線(福島〜新庄間)は新幹線特例法の適用はありません。 



ーー私の故郷で、秋田新幹線「こまち」が開通したときは、地元あげてお祭り騒ぎでしたが、「新幹線」じゃなかったんですね…。



甲本:そんなことありませんよ。新幹線特例法が適用されないだけで、「こまち」(E6系)は、れっきとした新幹線車両で、日本最速の列車です(営業最高速度は時速320km)。「こまち」が走る盛岡〜秋田間は、正式な路線名称は田沢湖線(盛岡〜大曲)と奥羽本線(大曲〜秋田)ですね。この区間は在来線ながら新幹線規格に対応させ、東北新幹線と直通運転を行っています。在来線区間は最高速度が時速130kmで、本気を出していないだけです。なお、この区間は「こまち」だけでなく、各駅に停まるローカル列車も同じ線路を通っています。





ーー話は戻りますが、線路立ち入りのほかに、新幹線と在来線とで、同じ違反行為でも、罰則の重さが異なる事例はありますか。



甲本:そうですね。立ち入り以外の運行妨害行為についても、新幹線のほうが重い罰則です。例えば、置き石は、新幹線の場合、最も重い場合で1年の懲役とされています(鉄道営業法は科料)。



●満員電車の事故、新幹線の事故、どちらの被害が重大か

ーー新幹線のほうが、在来線よりも人をたくさん乗せられるという理由も考えられるでしょうか?



甲本:一度に運べる人数でいえば、おそらく満員の通勤電車のほうが、新幹線より沢山の人が乗っています。新幹線は通路に人が立っても2000人程度(東海道新幹線の16両編成)、在来線として東京圏の通勤電車(東海道線・横須賀線の15両編成)であれば3000人以上は余裕で乗れます。



とはいえ、比較的速度の低い在来線であれば、脱線事故になっても被害をうけるのは先頭車と2両目くらいまでですが、高速の新幹線であれば、運動エネルギーが大きいため、かなり広範囲の車両に大きなダメージが生ずるものと思います。新幹線ではひとつの妨害行為がもたらす人命への危険が格段に大きいと言えます。



事故が起こってからでは遅いので、安全を脅かす行為そのものを厳しく処罰する必要があるのでしょう。



●新幹線の土手を畑にしないで!

ーーほかに、新幹線だけにルールを厳しくする背景はどのようなものが考えられますか



甲本:これは私見ですが、おそらくそうなんじゃないかというレベルの話をしたいと思います。



先ほど新幹線は全線立体交差になっていると話しました。東海道新幹線より後に作られた新幹線では、主にコンクリートの高架橋とトンネルの組み合わせが立体交差に用いられていますが、東海道新幹線は盛り土、簡単にいえば土手の上を走っているので、高架橋などと違い、侵入しやすい構造上の理由があったのではないかと思うのです。



ちなみに、この盛り土ですが、突貫工事だったため、路盤として固まるまでは時間がかかるということで、開業後しばらくは最高速度を抑えた運転をしていました。また、それまでの鉄道用地の場合、近所の人が畑にして耕作したりすることも少なくなかったようです。もし、そういったことをすれば強度に影響する可能性があります。厳しいルールによって、防ぎたかったのではないかと思います。





ーー1975年、新幹線で爆破テロが仕掛けられる「新幹線大爆破」という映画が公開されています。これも新幹線の安全神話を逆手にとった作品と言えるでしょうか



甲本:この作品は面白いですね。紆余曲折があって、国鉄から撮影協力が得られずに制作された映画ですが、とてもよく出来ています。



●「新幹線大爆破」まだ見てない人はぜひともご鑑賞ください!

若干ネタバレになりますが、速度が落ちると仕掛けられた爆弾が爆発するという話で、東京を出た「ひかり109号」は、そのことがわかった後も西に向かって線路の上を走り続けるしかありません。終点の博多駅にたどり着くまでの間に、走行中の列車から爆弾を見つけて処理しなければならないというミッションが発生し、先行列車に追いつきそうになりながらも、司令室との連携で、上り下りの二本の線路を使って巧みに綱渡りをやってみせるのですが、これも列車運行がすべてコントロールされているというシステムへの信頼の上に話が成り立っています。



もし、第三者が簡単に運行を妨害できたら、そこで新幹線は爆発して話が終わってしまいます。この映画の公開は東海道新幹線の開業から10年後くらいですが、その時にはすでに「事故のない新幹線」という安全神話が既に出来あがりつつあったのだと思います。



ーー先生は新幹線によく乗られるのでしょうか。また好きな新幹線はなんですか



甲本:はい。仕事の移動で新幹線を使うことは多いです。昨年の乗車距離は4万キロを超えました(編注:東京〜新大阪間が約550km。東京〜博多間が約1175km)。ほとんどは東海道新幹線です。



好きな新幹線となると、どれも好きですが、見た目がかっこいいのは、何と言おうと500系です。このワクワクするデザインは、本当に新幹線としての完成形だと思います。



遭遇して嬉しいのは、700系新幹線をベースとしたドクターイエローです。突然現れるとびっくりしますよね。





乗って快適、シートが良いと思うのは、別格のE5/H5系やE7/W7系にある「グランクラス」を除くと、引退した700系のうちJR西日本の所属車(3000番台)のグリーン車です。航空機のような折りたたみ式のテーブルと、暖かい色の照明で暗めで落ち着いた車内の雰囲気が何と言っても特別感がありました。普通車では、九州新幹線(N700系7000/8000番台)「みずほ」「さくら」の指定席が特に快適です。この車両は普通車なのにグリーン車と同じ2+2アブレスト(通路を挟んでシートが2つずつ並ぶ)で、ともかくゆったりしています。





●五輪とコロナ、新幹線が立ち向かう難題

ーー最後に、東京五輪と新幹線の関係で注目していることはありますか?



甲本:オリンピックが開催されると、人の移動が増えることになりますが、新幹線で「密」を避ける対策には注目しています。現在、東海道新幹線では、余裕をもった列車本数の設定、座席販売で間隔を開ける工夫、座席を回転させる「向かい合わせ」使用の禁止などの対策がとられています。今後、車内販売が継続されていくのか、中止されるとなると自販機でも設置されるようになるのかという点も新幹線に欠かせないサービスですので気になります。



また、コロナ対策の陰に隠れてしまっていますが、テロ対策にも注目しています。東海道新幹線では警備員の巡回は現在も続けられています。以前には、駅で手荷物検査をするという話もありました。度々大きな事件やイベントがある度に問題になりますが、現実的には駅構内での検査エリア確保などの問題もあり、困難なように思います。



いずれも利便性とどうバランスをとるかが難しい問題です。




【取材協力弁護士】
甲本 晃啓(こうもと・あきひろ)弁護士
東京・日本橋兜町に事務所を構える弁護士・弁理士。東京大学大学院出身。著作権と商標に明るく、専門は知的財産とIT法。鉄道模型メーカーをはじめ多くの企業で法律顧問を務め、鉄道にも造詣が深い。個人向けサービスとしてネット名誉毀損「加害者」の弁護に特化したサイト「名誉毀損ドットコム」(http://meiyo-kison.com)を2016年7月から運営。
事務所名:弁護士法人甲本総合法律事務所
事務所URL:http://komoto.jp


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