瀬戸内寂聴「何時、死ぬのか考えなくなった」百三歳までは生きられる?

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2021年04月11日 17:00  AERA dot.

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写真瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。近著に『寂聴 残された日々』(朝日新聞出版)。
瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。近著に『寂聴 残された日々』(朝日新聞出版)。
 半世紀ほど前に出会った98歳と84歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。

【横尾忠則さんの写真はこちら】

*  *  *
■横尾忠則「生きるために目的や意味など必要ないですよ」

 セトウチさん

 気にしてらっしゃることから書きます。時計の写真はプレス資料と共に3月5日と19日の二回、メールで送っています。すでに2週間前です。未着とは変だと思って秘書君に問い合わせたところ、セトウチさんに見せてないことがわかりました。何んと優秀な秘書君!?

 さて、コロナ禍ですが、自粛のせいで完全に運動不足、ちょっと動いたり歩こうものなら息切れがするんです。そんな84歳の僕をセトウチさんは「瑞々しい」なんて言ってくれるんだから、額面通りに喜ぶわけにはいかないけれど、14歳違いのセトウチさんから見ると84歳も若く見えるんだったら、年相応に自分を見るのではなく、14歳年上のセトウチさんの目線から見下ろせばいいってことですね。ハイ、若さの秘訣にします。まあ今のところは髪の毛も頭皮にしっかり食い込んでいますし、白髪らしき徴候が前の方に見え隠れしている程度で、歳の割りには頭髪だけは瑞々しいかも知れませんが、まあこれも時間の問題でしょうね。

 以前黒澤明さんから58歳の頃、「ヘェー、まだ58歳? これから先長いですよ」と言われて26年が経ちました。黒澤さんは88歳で亡くなられましたが、その年まであと4年です。仮に僕が88歳になった時、やはり14歳年上のセトウチさんから見れば、いくらなんでも88歳を瑞々しいとは言わんでしょ。

 いまだによく今後の予定は?と聞かれます。まだ何かやるように見えるんですかね。「これからの予定」は「死ぬ日はいつですか」と聞かれているようにしか聞こえないけど。84歳になって予定なんか、死ぬ以外にありませんよ。仮にセトウチさんみたいに百まで生きることがわかっていれば、死ぬ以外に何か生きる予定を立ててもいいですけど。そんな予定を目的に生きるなんて嫌ですよね。生きるために目的など必要ないですよ。僕が70歳の時、生きる目的を捨てるために「隠居宣言」って本を書きました。この本で何を言っているかというと、生きるために目的や意味など必要ないと言っているんです。そんな大義名分のために生きるんだったら寝てた方がましですよ。目的がないから、したいことができるんです。遊びに目的がないように、人生には目的など必要ないんです。

 ちょっと昔までは、どこへ行っても僕が最年少者だったのに、いつの間にか最近はどこへ行っても最年長者なんですよね。今は夜見る夢に色んな人達が出てきますが、その大半が死んだ人達ばっかりです。夢を見ると幽霊ばかりです。生きているのは僕ひとりで、あとはほぼ全員幽霊です。それほど生活の周辺から生きている人が少なくなったということですよね。

 難聴になってからは人に電話することがなくなったが、この間久し振りに電話帳をくって驚いた。亡くなった人の名前と電話番号がぎっしり、思わず電話したくなったけれど、「ハイ、○○です」と言われたら腰を抜かすだろうなあ。一度、高倉健さんが亡くなったと養女さんから聞いた夜、本当かと思って高倉さんの携帯に電話したことがありますが、「高倉です」と言われたらどうしようかと思って、あわてて電話を切ったことがありました。

■瀬戸内寂聴「人生、なるようにしかならないでしょう」

 ヨコオさん

 コロナで、誰とも逢わないうちに、季節だけは忠実にめぐって、今年も桜の咲き誇る春の盛りになっています。

 コロナのせいで、誰も訪ねて来ない寂庵では、見てくれる人がいない春に、ふてくされたように、樹という樹に、花がびっしり開いて自己主張をしています。

 ヨコオさんほどではないけれど、私も結構耳が遠くなって、寂庵の春を告げる鳥の声など、さっぱり聴いたことがなくなりました。

 四人が替わりばんこに来てくれ、毎晩一人が泊まってくれているスタッフの中でも、特に花や鳥のことが気になるTさんが、朝、来る度、寂庵でうぐいすの声を聴いたとか、どの椿が、いくつ開いたとか、挨拶替わりに教えてくれます。この人は私が丈夫で、殆ど旅に出ていた時も、毎朝、旅先のホテルに電話をかけてきて、寂庵の庭の様子を教えてくれました。若い人と結婚していて、子どもはいないのですが、夫婦揃って、二人で命のあるだけ生きれば、何もいらないと、すましています。

 私の法話を聴きに来る人々の中に、彼女を見出し、寂庵へ来ないかと誘って、もう三十年になります。

 子どもがないことも、別に気にしている様子もなく、大島の反物を売りさばいていた夫が、今はそれを辞めて、釣りばかりしているのも別に気にしている様子もありません。

「先のことを心配したって、人生、なるようにしかならないでしょう。二人生きていれば、何とか暮らせます。一人になったら、その時は運命に任せます」

 私はそんな彼女が朝ごとに、庭から、

「○○の花が咲きましたよ!」
「ほら、うぐいすが二羽来て鳴いています」

 と、教えてくれる声を聞くのが大好きです。

 すっかり全身が弱ってきて、庭にも出られなくなった私も、今日は病院へ行く日だというので、いやいや外出しました。寂庵の外に出ると、どの家の庭にも、桜が満開で、人出も多くなって、コロナが去ったかと思われるようですが、人々はみんな大きなマスクをかけているので、表情も見えません。

 病院も何となくがらんとして、わびしい感じです。いつもの検診で、まだまだ生きそうだと医者に宣言され、嬉しくもない自分にうんざりしています。

 ヨコオさん、たしかに生きるために、目的など必要ないですね。逢いたいナと想う人はみんな、あちらの世界に去ってしまいました。

 私は、夜、ぐっすり眠って、夢もあんまり見ないので、ヨコオさんのように、亡くなった人のユーレイに出逢うこともほとんどありません。何時、死ぬのか、どういう死に方をするのか、近頃はさっぱり考えなくなりました。

 今、百歳のようですが、どうやら、百三歳くらいまで、このまま生きているような気がしてきました。

 今、一久さんから、おいしいおはぎをたくさん持ってきてくれました。寂庵のスタッフたちの第一声

「ああ、ヨコオさんに食べてほしい」

 みんな、やさしい人たちです。どうかお元気でいてください。

※週刊朝日  2021年4月16日号

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  • 完全に「要らない人材」ですな。 https://mixi.at/a6DRYaP
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  • ���塼���å�(^q^)���塼���å�阿婆擦れ生臭糞坊主戯れ言
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