奇跡の泳ぎ支えたのは「肩甲骨」 池江璃花子が東京五輪代表内定を掴めた理由

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2021年04月13日 08:00  AERA dot.

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写真池江璃花子は涙しながら、「努力は必ず報われるんだな」と語った (c)朝日新聞社
池江璃花子は涙しながら、「努力は必ず報われるんだな」と語った (c)朝日新聞社
 白血病で東京五輪を一度はあきらめながら、代表切符をつかんだ池江璃花子選手。その泳ぎを支えたのは、修正力と勝負勘、変わらぬ肩甲骨の動きだった。AERA 2021年4月19日号では、池江璃花子選手の復活の秘密を関係者に取材した。

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 白血病の療養から復帰した競泳女子の池江璃花子(いけえ・りかこ20)=ルネサンス=が東京五輪代表に内定した。2016年リオデジャネイロ五輪に続き2大会連続出場となる。19年2月に病気を公表してからまだ2年。レースに復帰してから、およそ半年しか経っていない。なぜ復活できたのだろうか。

 4月4日に東京アクアティクスセンターであった日本選手権女子100メートルバタフライ決勝。池江は57秒77で優勝し、涙を流した。個人種目での派遣標準記録(57秒10)には届かなかったものの、メドレーリレー(57秒92)で突破した。復帰後初めて同種目に臨んだ今年2月の東京都オープンでは59秒44。それを1秒以上も縮める「奇跡の泳ぎ」だった。

■驚異的なタイムの短縮

「復帰から数カ月でここまでタイムを縮められるのは成長過程のジュニア選手ならあり得るかもしれませんが、一般的には厳しいです。すごみを感じました」

 00年シドニー五輪競泳代表の萩原智子さんはそう驚く。萩原さんは04年に現役を引退した後、5年後に復帰した経験を持つ。長いブランクを経て第一線に戻るには多大な努力が必要なことを身をもって知る一人だ。

「バタフライはクロール、背泳ぎ、平泳ぎの4泳法のなかで最も体力を消耗します。特に短距離はほんの少しの動きの違いが結果に響く、最も厳しい種目でもあります」

 なぜ好タイムを出せたのか。飛び込んだ直後に潜水しながら打つドルフィンキックに秘密があるという。萩原さんは言う。

「回数を変えたそうです。(スタート直後の潜水で)ドルフィンキックを15メートル以上すると失格になりますから、一発勝負の本番でできる修正力と勝負勘が非常に優れています」

■決勝はターンもピタリ

 この修正がレース全体にどう生きたかについて、日本水泳連盟科学委員で日本大学文理学部教授の野口智博さんが解説する。

「(3日の)予選でスタート後6回、ターン後4回だった水中ドルフィンキックを、(3日の)準決勝、決勝ではスタート後8回、ターン後6回に増やしていました。浮き上がりの初速も速く、前半50メートルでは予選より決勝が1かき少なく、後半は準決勝より決勝が1かき少なく泳げていました。特に決勝では、ターンのタイミングが合ったことも後半の初速を上げることにつながりました」

 そもそも泳ぎはすぐ戻るものなのだろうか。池江は1年以上もプールから離れていた。そんな疑問に野口さんはこう答える。

「復帰して初めてプールに入ったときの映像を見て驚きました。水を軽くかいていたのですが、基本の動きができていました。(水中で手を横に広げて推力をつくるときに)腕を45度に傾ける動きを忘れていなかったんです。子どものころ、雲梯(うんてい)で鍛えたといいますから、体に肩甲骨の動かし方なども染み付いていたのかもしれません。だから筋力は減っても泳ぎの技術は失われていなかったのでしょう」

 あとは筋力の回復次第ということかもしれない。野口さんはこんな見方をする。

「必要な筋肉をつけて体を戻していますが、これから別の体に仕上げていくかもしれません。アスリートとして体づくりを見直して、ゼロからリスタートを切れたとも考えられます。これからの飛躍が楽しみです」

 8日の女子100メートル自由形決勝でも400メートルリレーの派遣標準記録を突破して優勝した。東京五輪では進化した泳ぎが見られそうだ。(ライター・井上有紀子)

※AERA 2021年4月19日号

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