イケメンの“クサい台詞”が癖になる? 80年代少女漫画『ダイヤモンド・パラダイス』の時代性

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2021年04月13日 10:41  リアルサウンド

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クサい台詞が癖に? 80年代人気少女漫画

 80年代といえばバブルです。バブル経済ブックブクで、みんな元気に浮かれていた時代です。そんな浮かれ時代にブームになったのが「バンド」でした。もうね、どいつもこいつもバンドをやりたがって、男子はギターを親にねだり、公園で陶酔しながらヨロヨロとセッションしていたものです。巷ではバンドオーディションが盛んに行われていたようですね。


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 バンドブームを呼んだ一因は、アイドルブームのおかげで、耳を塞ぎたくなるような歌唱力のアイドルたちが恥ずかしげもなく歌番組に出ていたことかもしれません。まあ、アイドル志望の子がバンド志望に転向しただけなんで、中身は大して変わらないんですけどね。


 アイドルが主人公の少女マンガは70年代からありました。そして80年代にはやっぱり時代を反映して、バンドの物語が登場したわけです。そのひとつが『ダイヤモンド・パラダイス』。全3巻の中でいくつかの歌が、それも繰り返し歌われるので、どんな音楽なのかめっちゃ気になってます。「シャングリラ」という歌では、シャングリ〜ラ〜、と、リのあたりで高音になるそうで、妄想でよく歌ってます。シャングリ〜ラ〜。


 さて物語の主人公は、ひとみちゃん。高校の学園祭でプロのバンドメンバーにスカウトされて、AZというバンドにボーカルとして入ります。プロのバンドが学園祭にスカウトに来るとか夢があるけど、よっぽど人材に困ってたんですかね……。で、ひとみのファン第1号になったのが、ヒロキ。初舞台にお客さんとしてやってきて、クリスマスケーキを売るバイト中のひとみと偶然再会します。


 こうやってひとみと親しくなっていき、ヒロキは持ち前の要領の良さで、AZにどんどん食い込んでいきます。そして両思いになった翌日、ヒロキは朝の6時にひろみの自宅までやってくるんです。寝起きとかホントやめて。


 しかも「ケーキ屋で会う前に、学校も家もとうに調べがついていた」とかいうんですよ、今ならそれ、ストーカーですが! こわいこわいやめて。ネットも携帯もない時代です。ふらりと出会った女の子の情報を集めるってそうとう大変ですよ。でもそんなヒロキの行き過ぎ行動が許されるのは、なによりヒロキがイケメンだから。顔だけじゃなく、優しげな仕草、笑顔、何でもできちゃう器用なところ、すべてがイケメンなんです。なんならメイクだってできちゃう。メイクだの着付けだのドレスの選択だの、女の子の喜ぶセンスと技術を持ち合わせた男子って少女マンガで大人気ですね!


 はた目から見てもとっても微笑ましいカップルに見えたふたり。だけど、ヒロキがAZに近づいたのには、大きな理由があったのでした……。


 「ああヒロキかっこいい(ストーカーだけど)、ひろみかわいい、いいなあこのカップル」というほのぼのした読者の思いを目一杯裏切って、話は展開していきます。この裏切りっぷりがすごい。続きは全3巻なのでぜひ本編で読んでいただくとして、非常にドラマチックです。それから3巻に収録されている『セブンスアベニュー・ラブ』という作品もなかなかです。しかけがすごい。


 ニューヨークで出会ったゴーとプーキー。プーキーは日本人のゴーに「『愛してる』って日本語でなんて言うの?」と尋ねます。2人はめっちゃラブラブ愛し合ってるんですね。それに対して、バンドマンのゴーは「死・ん・で・も・い・い」と教えるんです。っカー! 「I LOVE YOUの最上級だぜ」ですって。くっさーー!「月が綺麗ですね」とか、愛してるの日本語訳には諸説あるけど、これもまたポエティックです。そしてまたこの言葉が、物語のキーになるんですよね。


 槇村さとる先生の作品は、ほんとうにドラマチックです。このふたつの作品に、高校生だった私はもう脳みそめっちゃやられました。読み返すたびに心臓掴まれてボロボロ泣いたものです。心臓掴まれたい方は、ぜひ。


(文=和久井香菜子)


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