会社の「確定拠出年金」、活用できている?  年齢で分かれる利益確定の是非

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2021年04月14日 07:00  AERA dot.

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写真※写真はイメージです (GettyImages)
※写真はイメージです (GettyImages)
 会社が出してくれるお金で退職金や年金を準備できる「確定拠出年金(企業型DC)」。昨年からの株価の上昇で大きく利益を出した会社員がいる一方で、長年ほったらかしのままの人も多い。毎月の掛け金は数万円だが、長期になると大きな差になる。後で“泣き”を見ない上手な活用法をご提供しよう。

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「上下で400万円動いた1年でした」

 自らの資産運用の状況をインターネットで公開しているnorikiart(ノリキアート)さんは、大手金融機関の社員。会社で加入している「確定拠出年金(企業型DC、以下DC)」で、資産評価額が大きく上下する“ジェットコースター現象”を味わったという。

 DCに加入したのは2005年。最初は会社の拠出金だけ、途中から自分も上乗せするようになり、今では毎月5万5千円を積み立てている。投資先の配分は「株式5割、不動産3割、債券2割」。資産は順調に積み上がり、昨年2月には評価額は約800万円になっていた。

 そこを新型コロナウイルスの感染拡大が襲った。相場は急落、日経平均株価は一時、1万6千円台にまで下がった。

「当然、DCも下がります。約640万円まで下がったことがありましたね。でも、それ以降は世界的に株価が一本調子で上がり続けました。DCも急回復し、今年2月に1千万円を超え、4月初めには1060万円までいきました。運用益は300万円を超えています」(norikiartさん)

 東京都内の流通会社に勤める女性(50)も、DCで大きな利益を上げている。こちらは07年からの加入で、掛け金は上乗せ分と合わせて月3万5千円。最初は意味もわからず、部下と同じ投資配分にしたままだった。約2年前に「ちゃんとしなきゃ」と見直し、投資先を外国株式に絞った。

「拠出金は約400万円ですが、評価額は550万円近くに膨らんでいます。この1年の運用利回りは18.57%でした」

 コロナ禍の“カネ余り”による世界的株高で、DCで利益を出す人が増えている。現在のDC加入者は約750万人。norikiartさんや女性のように、明確な投資方針に基づいていればいいが、「知らない間に増えていた」というケースや、ほったらかしのままの人も多い。

 企業が社員のために毎月一定の掛け金(上限5万5千円)を出し、それを元手に退職金や年金を準備できるのがDC制度だ。運用益に税金がかからないといった税優遇もあり、老後資金を増やすためにも活用しない手はない。改めて上手な利用法を探ってみよう。

 まずは基本的な仕組みをおさらいする。DCでは、どの金融商品で運用するかは社員自身が選ぶ。「預金」「保険」「投資信託(投信)」の三つのカテゴリーで用意されている数十本の商品から選択。選んだ商品の運用によって将来の受取額が決まる。つまり“運用責任”は社員が負う。

「それなら損しない元本確保型の預金や保険がいい」と思うだろう。実際、加入者の拠出総額の約半分が預金や保険となっている。しかし、DCに詳しいファイナンシャルプランナー(FP)の加藤博氏は、これだと損をする可能性が高いという。

「大企業のDCは厚生年金基金や適格退職年金の受け皿として作られたものが多く、制度導入時に『想定利回り』という数字が社員に示されています。該当するDCに入っている方は、ぜひその数字を調べてください」

 想定利回りとは、旧制度から移行する場合、旧制度と同じ水準の金額となるために必要な運用利回りのこと。つまり、想定利回りを現実の利回りが下回っていれば、旧制度より少ない金額しか受け取れないことになる。

「想定利回りは1.75%〜2.5%ぐらいに設定している企業が多い。元本確保型の人はもちろん、これより下なら旧制度に“負けて”います。受け取れるはずだった金額が目減りしていることになります」(加藤氏)

 それだけではない。元本確保型だと入社同期や同僚から後れをとりかねない。

 DC加入者は、金融機関の専用サイトで自分の運用状況を見ることができる。サイトには「運用実績・利回り分布グラフ」といったコーナーがあり、その金融機関で加入している人の利回り分布がわかるようになっている。

 加藤氏が入手した、ある金融機関の直近のそれを見ると、突出している「山」が二つあった。利回りが「0%」と「10%以上」の部分だ。

「0%は預金で2割ほどの方がいます。一方、10%以上の人も1割程度いらっしゃる。この状態が15年ほど続くと両者の差は“2倍”になります。例えば、同じ500万円を拠出していても、1千万円になっている同僚が社内にいるんです。どの金融機関の分布グラフも同じ傾向なので、日本中の会社で見られる現象でしょう」(同)

 なるほど、そういう話を聞くと、元本確保型ではなく投信のほうが展望がありそうだ。ただ、投信といっても、いろいろある。株式、債券、国内、海外……。DCの数十本の中から、何をどう選ぶか。

 資産運用に詳しいFPの深野康彦氏によると、次のような手順で考えてほしいという。

「まず自分の資産全体の中で、どれだけのお金を投資に回しているかを見てください。そのお金が資産全体の過半を占めていれば“リスクのとりすぎ”ですが、2割程度にとどまっているのなら、もっとリスクをとっていいことになります。状況や年齢によって変わりますが、投資に回せるのは全体の4割程度が一つの目安になります」

 チェックした結果、DCでリスクをとっていいことがわかれば、長期にわたる積み立て投資なので「分散」を重視するべきだという。

「今は金利が低く、債券投資には利点がないことなどを考えると、株式ファンド1本でいいと思います。世界の株式全体に投資したのと同じ効果がある『インデックス投信』を選べばいいでしょう」(深野氏)

 先の加藤氏も、

「日本の会社員はリスクをとっている人が少ないので、DCは全額株式でかまわないと思います。価格が下がると多くの口数が買えるなど、積み立て投資での時間分散の効果も使えます」

 50歳を過ぎると、だんだん投資期間が限られてくるが、加藤氏は逆にDCを通して投資を学んでほしいという。

「長い老後を考えると、日本ではリタイア後も資産を運用し続けなければならなくなります。投信は株式や債券など、どの資産を選ぶかが“肝”。DCを通して投信の特徴などを知って、自分で商品が選べる力を身につけてください」

 商品の変更は、専用サイト内にある自身のページからいつでもできる。チェックしたことがない人はまず、サイトを確認し、どんなデータや情報が掲載されているのかを知ることから始めよう。不慣れな人は、金融機関のコールセンターがあるので相談するとよい。

「これから」のことはわかった。では、冒頭の2人のように、今回の株高で膨らんだ利益はどうすればいいのか。

 一本調子で上がってきた株価も、最近は足踏みしているようにも見える。とすると、プラスが大きいほど「『利益確定(利確)』しておいたほうが……」と思うものだが、先の深野氏は「今回は『異常ケース』。同じことが2度起きるとは思わないほうがいい」と前置きしたうえで、これも年齢によって考え方が変わるという。

「30代や40代は運用できる期間がまだまだ長い。新たな拠出がどんどん続くし、複利効果を考えても、慌てて売る必要はどこにもありません」

 つまり、若手や中堅の社員は基本的に何もする必要はない。そのままにしておいて、さらなる成長に期待を託せばいい。冒頭のnorikiartさんも、

「私は40代前半なので、当然、何もしないことを決めています」

 では、50代以上はどうか。

「55歳くらいが境目になるでしょうね。今は60歳から70歳、来年4月からは改正で75歳までに受け取りを開始すればいいので、55歳だと最長20年間、運用し続けることが可能になります。相場が下がっても、挽回(ばんかい)できる時間があると思うなら、まだ利益確定する必要はありません」(深野氏)

 とすると、55歳以上は利確してもいいのか。

「60代前半でお金を使う予定がある場合は、利確してもいいでしょう。使う予定がなくても、その年齢なら半分ぐらいを利確しておくことは十分考えられます」(同)

 長期投資なので、あくまで全部ではなく一部の利確にとどめ、なお増えるチャンスを残しておくわけだ。

 ただし、会社によって違うものの、60歳以降は基本的に会社から拠出金は出なくなる。会社を退職すれば、口座管理に年間数千円かかる手数料も自己負担だ。つまり60歳以降は、それまで積み上がった残高を手数料を支払いながらの運用になることは知っておきたい。

 利確といえば、こんな会社員もいる。

 都内の電機会社に勤める男性(58)は、DC口座に積み上がった約2千万円を預金にしている。むろん、会社の拠出金だけで、こんなにたまるはずがない。新型コロナで相場が急落する前に全額を利確したのだ。

「うちの会社も00年代前半に退職金制度の変更があり、私はそれまでたまっていた原資を全部DCに移しました。運用が上手なわけではありません。株式や債券など四つの商品を選んでほったらかしにしていたら、勝手に2倍近くになっていたんです。運がよかっただけです」

 ただ、利確したとはいえ、老後にかかるお金を考えるとしだいに不安が募ってくる。

「やっぱり、もっとためたい。どこかのタイミングで再び、投信にかえようと思い始めています」

 男性の年齢を考えれば、もう無理をする必要はないとも思えるが、それはともかく、男性の希望の道を探ることは、これまで何も考えずに元本確保型で資産を積み上げてきた「預金組」の挽回可能策を考えることと、ぴったり重なる。

 預金組はそれを投信にかえる手はあるが、一度に大きい金額を動かすと相場が下落した場合に致命的な打撃を受ける。先の加藤氏は、それを避ける手法として「一つだけ道はある」と“裏技”を披露する。

「自分のDC口座で小刻みに預けかえ(スイッチング)をすればいいんです。例えば、世界株式の『インデックス投信』を選んだ場合、毎月1回など定期的に預金の一部をその投信にかえていくのです。10回に分けてもいいし、100回でもいい。時期を分散させてかえれば、毎月の積み立て投資と同じ状況を作ることができます」

 実は冒頭の女性は、この方式でDC口座の中身をかえた。

「30万円ずつ、十数回に分けました。自分でやると、価格が下がると口数を多く買えることも実感できるので、昨年の株価の暴落時も動揺することなく過ごせました」

 なるほど、「手動」でもDCの中身をかえることができるわけだ。ならば、預金組でも間に合う人が大勢いる。「根気強い性格」という条件がつくが、検討する余地はありそうだ。(本誌・首藤由之)

※週刊朝日  2021年4月23日号

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