『セスタス』シリーズが読者を熱くさせる理由ーーひたむきな姿に見る、“格差社会”を生き抜く術

2

2021年04月14日 10:01  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

『拳闘暗黒伝セスタス』(左)『拳奴死闘伝セスタス』(右)
格差社会と呼ばれる現在(いま)を生き抜くための術(すべ)

 技来静也の『拳闘暗黒伝セスタス』と『拳奴死闘伝セスタス』を原作とするアニメ『セスタス-The Roman Fighter-』が、本日4月14日24時55分から、フジテレビ「+Ultra」ほかにて放送開始される。


 『拳闘暗黒伝セスタス』は、1997年から2009年にかけて『ヤングアニマル』で連載された「セスタスシリーズ」の第1部であり、その後に始まった第2部『拳奴死闘伝セスタス』(2010年〜)は、『ヤングアニマル』、『ヤングアニマル増刊Arasi』、『マンガPark』、『ヤングアニマルZERO』と掲載誌を移籍し、現在も連載中の作品だ。


 舞台は、17歳の皇帝ネロが即位したばかりのローマ帝国。主人公のセスタスは15歳の「拳奴」――すなわち、「奴隷にして拳闘士」という過酷な運命を背負わされた少年だが、作者はこのセスタスが、拳ひとつで自由を勝ち取っていこうとする姿を熱いタッチで描いていく(※)。


※セスタスが最初にいた奴隷拳闘士養成所では試合で100勝すること、次に売られた拳闘団では、10万セステルティウスを稼ぐことが解放の条件となる。


 興味深いのは、物語の序盤で繰り返し描かれている「壁」の存在だといえるだろう。本作における「壁」とは、たとえば『進撃の巨人』(諫山創)の冒頭で描かれているそれのように、「決して外部から壊されてはいけないもの」の象徴ではなく、むしろ「内側から崩して(あるいは乗り越えて)いかねばならないもの」のメタファーである。


 そう、天性のスピードと、師匠・ザファルから教わった拳闘のテクニック以外何も持たないセスタスは、次々と目の前に現れる強敵を闘技場で倒し続けることで、「壁」を壊し、自由を勝ち取ろうとしているのだ。そして、そのひたむきな姿は、いわゆる格差社会と呼ばれる現在(いま)を生き抜くための術(すべ)を我々読者に教えてくれる――というのはいささか強引な見解だろうか。


 ちなみにこの「セスタスシリーズ」、主人公のセスタスのほかに、彼とほぼ同格といっていいような主役級のキャラクターがふたり登場する。ひとりは先に述べた若き皇帝ネロであり、もうひとりは、セスタスの終生のライバルとなる総合格闘術の天才にして皇帝を護る衛士のルスカだ。


 一見、立ち場も個性もバラバラなこの3人だが、実は、「本来は血なまぐさい世界の似合わない心優しい少年である」ということと、「運命的な何かに縛られている(不自由である)」という点では共通している。それゆえに3人は惹かれ合い、身分を越えた友情を築きつつさえあったが、そこでもまたある種の見えない「壁」が立ちはだかるのだった……。


 いずれにせよ、今回のアニメ化で、この圧倒的におもしろいエンターテインメント作品の読者はさらに増加することだろう。セスタス、ルスカ、そしてネロ。この3人がいかにしてそれぞれの「壁」に立ち向かっていくのか、いまから目が離せない。


■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter


■書籍情報
『拳闘暗黒伝セスタス(1)』
技来静也 著
定価:本体600円+税
出版社:白泉社


『拳奴死闘伝セスタス(1)』
技来静也 著
定価:本体600円+税
出版社:白泉社


このニュースに関するつぶやき

  • おっと、見逃すところだった、録画予約した!
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

ランキングゲーム・アニメ

前日のランキングへ

オススメゲーム

ニュース設定