たかがエアコン設置で「悪質なクレーマー認定」の経験から車いす乗車拒否問題を考えた

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2021年04月14日 16:00  AERA dot.

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写真写真はイメージです(Getty Images)
写真はイメージです(Getty Images)
 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、「この国で年をとること」の怖さを感じたある出来事について。

【最後は脅す? カスタマーハラスメント 五つの特徴は?】
*  *  *
 10年間、ハードに稼働させていたエアコンがついに壊れ、新しいものを購入することになった。ネット通販でエアコン本体を選び、取り付けなどもその際に申し込んだ。エレベーターのついていない低層のマンションのため、工事費などは多少割高になるとのことだったが、それも了承して工事当日を迎えたのだけれど……。

 どういうわけか、家電業者の方々とコミュニケーションを取るのが難しくなっている。数年前に冷蔵庫を購入した時もそうだった。廊下につるされている照明にぶつかるので、冷蔵庫を台所まで運べないと運搬業者の若い男性が言うのである。新しい冷蔵庫はそれまでのものよりも小さいし、照明を私が持ち上げるから、その隙に通れば?と提案したり、最終的にはたとえ照明器具が割れても(といっても、そもそも照明器具の傘はガラスではなく布なのだが)文句言わないから!と懇願したりしても、「万が一のことがあっても俺ら、責任取れないので」と、ご本人、かっこよく言い放っているふうな感じで冷蔵庫を持って帰ってしまったのだった。

 私は地団駄踏んだ。新しい冷蔵庫で一新されるはずだった私の未来が消えた悔しさもあるが、それ以上に「融通のきかなさ」にショックを受けたのだ。きっとこの会社の従業員は、想像を絶する多種多様なクレームを受けた過去の経験から、絶対に客の家のモノには触れない、何があっても、たとえ泣いて懇願されても脅されても絶対に触れないというルールが徹底されているのだろう。それにしても、おかしいじゃないか。

 そう、エアコン取り付け業者も、そんな感じだったのだ。

 当日来た業者の男性2人は取り付け場所を見て、まず、ベランダにある植木鉢をどかしてほしいと言う。かなり重たいヤツだ。すみません一緒にやってくれます? と聞くと「お客様のものには触れないんで」と頑なに棒立ちを貫く。まぁ仕方ないわ……と、数十キロの重たい植木を一人でずらすと、今度はエアコン設置には追加で料金がかかると言うのだった。詳細を聞けば、通販時に既にオプションで支払ったものも入っていたのでそう言うと、途端に男性の態度が見るからに硬化した。「俺ら、聞いてないんで。お客様に納得していただけないかぎり、工事できないんで」。納得できないなんて言ってないです、納得したいから確認してほしいんです、と伝えるのだが、既に闘いのゴングが鳴ってしまったかのような変な緊張感が流れてしまっているのだった。

 仕方ないので、ネット通販業者に電話をすることにした。まず本人確認をしようとすると、「奥様ですか〜!?」と高い女性の声で聞かれた。不意打ちを食らい思わずウーとうなるような声を出し、「……奥様ではありません……」と地獄の底からの太い声が出てしまう。まずい、と思う。私はクレーマーではないのになぜかクレーマー扱いをされそうになっているので、正当なジャッジをそちらにしていただきたいと思って電話しているのに、これではおかしな客扱いされてしまうではないか。

「大変失礼しました!!」

 時すでに遅し。高い声を出すことがサービスであると信じて疑わない電話の向こうのオペレーターの女性は過剰に謝ってくる。何を謝っているのか本人もわからないまま、謝っているような感じだ。いえいえそうじゃなく、「奥様」という言葉遣い、おかしいと思うんです。主人とか奥様とか、そのような主従関係のある言葉で夫婦関係を表すこと自体が問題だと思いますよ!ということを丁寧に説明したいが、そこはこらえて用件を伝えた。すると驚いたことにオペレーターの女性は、こう言うのだった。

「ご主人はいらっしゃいますか?」

 え? 意味がわからず、私は黙る。確かにエアコン購入のやりとりは同居人がやった(男女どちらかは識別できない名前だ)が……しかし……。そしてこの場は「主人、いないんですよ〜ほほほ〜」みたいな対応をするほど私は人間ができていないので、言ってしまったのだった。

「『ご主人』という呼びかけ、よくないですよ」

 それは明確に主従関係を表現する言葉。戦前は家の「使用人」がその家の主人を呼ぶときに使う言葉であり、妻が夫を呼んだり、第三者が夫を呼ぶときには使われることはほとんどなかった。丁寧語などではなく、むしろ戦後に「夫」を表す言葉として使われはじめたふしぎな男尊女卑語だ。その言葉、使わないほうがいいですよ、現代のネット通販会社のオペレータ−ならば!!という思いを込めて。ところがだ……日本社会は私が考えているよりも、ずっとずっと昭和であり、そして広いのだった。電話の向こうの声の高いオペレーターの女性は、ひーっと息をのんで申しわけありませんっ! と言い、こう言い直したのだった。

「ご主人様でした」

 この瞬間、私は悪質なクレーマー認定を完全にされたと。電話を持つ手に力を失い、思考も落ちた。ここで諦めず、「ご主人とか奥様とか言わずに、ただ『お客様』と呼べばいいのでは?」と端的に伝えられればよかったのだと思うが、もう、ここまで来たら無理だ。黙り諦めるほうが簡単だった。「あ、いえ、そういうことではないのですが、わかりました。オプション料金の詳細を聞いたことで、なぜかもめそうだったので電話しただけです。とりあえず、今日はキャンセルでよいです。後日改めて」と伝えて電話を切った。

 いろいろと難しい時代になったと思う。

 重たい植木を動かす人を横目に、絶対に手伝ってはいけないと上手にしつけられている若い男性たち。質問をすると「クレーマーかも」と身構えられるような空気。「ご主人様−」と人間ばなれした高い声でサービスする女性オペレーター。なんだかこの国で年を取っていくの、めちゃくちゃ怖い気がしてくるではないか。

 車椅子ユーザーでコラムニストの伊是名夏子さんが、JR職員とのやりとりを記したブログだ。旅行のために30分も前に駅に着き駅員にサポートを求めたが、目的の駅が無人駅でエレベーターがないことからサポートを断られた。1時間にわたって交渉したがらちが明かなかった。結果的には別の駅の駅員たちがサポートして目的の場所にたどり着けた。大きなニュースとして報道されているが、伊是名さんが声をあげたことについて、驚いたことに伊是名さんをクレーマーだと批判する声が少なくなかったのだ

 私の「クレーマー話」と並べるような次元ではないのはわかっている。困難にあえいでいる人、困っている人に対しても冷酷に自己責任を求めるようなこの国の残酷さは、ホラーレベルにまで達していると思う。その上で考えさせられる。なぜ、私たちはこれほどまでに「ルール」に自らの身体を萎縮させ合わせようとするのだろう。過剰に忖度することで誰もが攻撃的になっていくのはなぜなんだろう。その怖さを振るい落としたい気持ちで、改めて伊是名夏子さんへの連帯を表明したいと思う。声をあげる、自分の違和感を伝える、そのことに恐怖を感じなくていいと信じたいから。

 ちなみにエアコンはまだついていない。どうしよう、この夏。

■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

このニュースに関するつぶやき

  • 構ってくれなくなったからクレーマーには生きづらくなったんだねwwwでも世の中をそうさせたのはクレーマー自身だからね。わがままばかり言ってりゃ人は逃げていくのだよ。 https://mixi.at/a6GqRcz
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  • 融通を効かせた結果、業者の会社はかなりリスク負ってやらないといけないの理解出来ないの?つか普段は「その考えは古い」って自分の気に入らないもの否定しているよね?(呆)
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