英才教育で飛躍の時を待つ、オリックス・来田涼斗

1

2021年04月14日 23:02  ベースボールキング

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ベースボールキング

オリックス・来田涼斗選手(撮影=北野正樹)
◆ オリックスのネクスト・ブレイク候補

 今季、高卒2年目で開幕ローテーション入りした宮城大弥投手(19)、同3年目の太田椋(20)、同2年目の紅林弘太郎(19)両内野手が開幕一軍入りして二遊間を守るなど、若手が着実に成長しているオリックス。宮城、紅林は新人の昨季、終盤に一軍昇格するまで二軍でプロに慣れ経験を積むという球団方針が、2年目での飛躍に結びついた。

 今、同じように二軍で英才教育を受け、雌伏の時を待つのは今季、ドラフト3位で入団した来田涼斗外野手(18)だ。

 兵庫・明石商出身。2年春の選抜大会(2019年)では、「1番・中堅」で出場した準々決勝の智弁和歌山戦で、史上初めて先頭打者本塁打とサヨナラ本塁打を放つなど、俊足・強打のトップバッターとして甲子園を沸かした逸材。

 目標とした「開幕一軍」は逃したが、ウエスタン・リーグ公式戦では、新人ながら中軸を任されており、球団や首脳陣らの期待の高さを裏付ける。


◆ 三振するならバットを振って

 デビュー戦では、その実力をいかんなく発揮した。「3番・右翼」で先発起用された3月19日の中日戦(オセアンバファローズスタジアム)。プロ初打席となった1回一、二塁で、右腕・山本拓実が投じた143キロのストレートを中前へ先制のタイムリー。4回の2死一塁では、左翼線へ流す二塁打で好機を広げ、続く西野真弘の2点適時打の舞台をお膳立てした。
 
 2本の安打は、ともに対応力の高さを示す打撃だった。1回は、初球、外角高めのボール球を見送った後、内角の直球を中前へ。「差し込まれたので、センターに返した」と、臨機応変の快打。4回には、初球の外角の145キロを見逃し1ストライクの後の2球目、外角低めの143キロを左へ。コースに逆らわずコンパクトにはじき返す、技ありの一打だった。

 その後も、2試合連続して安打を放ち、初めて4番に抜擢された4試合目のソフトバンク戦では3安打の固め打ちで、期待に応えた。
 
 開幕から全17試合(4月13日現在)に先発出場し、65打数16安打、7打点、打率.246。ここまでの打撃を来田は「自分の振りは思ったより出来ている。差し込まれてしまうことが多々あるので、立ち遅れないように自分のタイミングでバットを出して、一発で仕留めることが出来るようにしたい」と振り返る。
 
 来田の打席で、特筆すべきは三振の数と内容だ。三振のなかったのは5試合だけで、リーグワースト2位の24三振。4三振を含め1試合3三振以上は4試合あるが、そのうち見逃しの三振は2つしかない。

 「プロの投手のボールに慣れるためにも、どんどん振っていこうと考えている。三振をするならバットを振って三振をしたい。見逃しは嫌」と、三振の多さを意に介さない。小林宏二軍監督ら、首脳陣からも「自分の振りをしていけ」と、積極的な打撃をするように指導を受けているという。


◆ 若手の台頭を支える球団方針

 将来の主軸として、大きく育てようという球団の意思がそこにはうかがえる。それは、来田ばかりではない。同期でドラフト2位の元謙太内野手も、同様だ。17試合で、61打数8安打、8打点。三振は、リーグワーストの「28」。打率.131と振るわないが、来田とともに、外されることなくスタメン出場を続けている。

 来田、元のお手本になるのが、2020年入団のドラフト1位宮城(興南高)、2位紅林(駿河総合高)だ。

 宮城は昨季、ウエスタン・リーグで13試合に登板。リーグ最多の6勝(2敗)を挙げ、防御率2.72。シーズン終盤には一軍昇格し、3回目の先発でプロ初勝利を挙げた。今季は、開幕2戦目に先発登板し、チーム初勝利に貢献するなど安定した投球を披露している。

 紅林は昨季、2軍戦の全86試合に出場。309打数68安打、20打点、打率.220。失策18(遊撃17、三塁1)は、リーグ最多となったチーム全体の21%を占めたが、首脳陣はゲームに使い続けた。そこでの経験が、2年目での飛躍につながった。

 オリックスの打者の若手育成方針について、森川秀樹・球団本部長は「新人がプロのレベルに、すぐに対応するのは至難の業。出場機会を多く与え、うまくいかなかったことを、練習を積み重ねて一つひとつクリアしていくことが大切。来田、元ともに体が大きく、打つポテンシャルが高い選手。こじんまりではなく、期待する能力を最大限、出せる技術、体力を備えてほしい」と語る。

 オリックスは2017年3月、ファームの本拠地と練習拠点を神戸市から、大阪市此花区の人工島・舞洲に移転。合宿所に室内練習場、二軍戦が行える球場に加え、隣接して一般に貸し出している球場もあるなど、練習環境は充実している。「育成と強化のために作った施設。強く、長く選手が活躍するチーム作りが方針。若い選手を育てることは、遠回りに見えても、一番近道」とは、森川本部長の言葉だ。

 オリックスの元監督で、2019年6月からゼネラルマネジャーを務める福良淳一は「チーム事情に関係なく、来田と元は、昨年の紅林のようにファームの試合からは外さない。どれだけ三振をしても、どれだけエラーをしても構わない」と明言する。「打順だけはチームに任せており、疲れなどを考えて指名打者などもある」と、年間を通じて来田と元を起用し続け、経験を積ませることが球団としての揺るぎのない方針であると語る。


◆ 三拍子そろった大器

 来田の体重は、高校時代のベストより2キロ増の87キロ。球団施設でのトレーニングで、筋力を鍛えて増えた。バットは、入団時から今も高山(阪神)モデルの900グラム。長打も単打も出やすいところから使い始め、「少しだけ手にかかるように」とグリップを少し削っている。打撃フォームも含め「プロに入ってからそんなに変えたものはない」という。

 打順は4番が多く、次いで3番、5番。守備は右翼がほとんどで、左翼に回ることもあるが、高校で慣れ親しんだ中堅での起用はまだない。「右翼は、打球の切れ方が中堅とは全然違うので、難しい」というが、開幕戦では右翼フェンス際へのファウルフライを飛び込んでナイスキャッチ。スタンド上段で視察していたトレードなどを担当するプロスカウトから「フェンスを怖がることなく、果敢にボールを取りに行くところは新人離れしている」など、積極的な守備に感嘆の声が上がったが、来田は「球際が特に下手だから、行けるところまで追いかけます」と平然だ。

 「どの打順でも、自分の打撃をするということは変わらない。投手にも木のバットにも慣れて、しっかりと自分の振りでヒットを打つことが大事。そこからがスタートになると思うので、まずは自分の振りを貫いて焦らず、コツコツとやっていきたい」と来田。

 課題は、調子が悪くなると手打ちになってしまうこと。「どっしりと構えて自分のタイミングで打つためにも体重移動が大切。下半身を使う打撃をして、上で活躍するためにも体力をつけ、土台を作りたい」と、ウェイトトレーニングにも励む。

 プロ入りの際、目標に掲げたのは打率3割、30本塁打、30盗塁の「トリプルスリー」。13日に京セラドーム大阪で行われたウエスタン・リーグの阪神戦では、「5番・右翼」で出場し、ロッテから移籍の左腕・チェンから、6回の同点打を含め3打数3安打の固め打ち。左を苦にしない打撃と快足を披露し、本拠地のファンに存在をアピールした。

 将来のオリックスをけん引する主軸の成長曲線は、描き始められたばかりだ。


『Yell for Baseball FAN Project』/ベースボールキング
文=北野正樹(きたの・まさき)

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定