「現在ほど良い日米関係はない」と杉山晋輔・前駐米大使 その裏で米国が求める“責任の分担”とは

0

2021年04月15日 08:00  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真杉山晋輔(すぎやま・しんすけ)/前駐米大使。1953年生まれ。77年、外務省入省。アジア大洋州局長や外務次官などを歴任。2018年1月〜21年2月、駐米大使を務めた (c)朝日新聞社
杉山晋輔(すぎやま・しんすけ)/前駐米大使。1953年生まれ。77年、外務省入省。アジア大洋州局長や外務次官などを歴任。2018年1月〜21年2月、駐米大使を務めた (c)朝日新聞社
 日米首脳会談が16日、ワシントンで行われる。バイデン政権は日本に何を求めるのか。中国との関係にどう影響するのか。AERA 2021年4月19日号で、前駐米大使の杉山晋輔さんに見通しを聞いた。

【写真】トランプ氏を「道化師」「うそつき」と言い返したバイデン氏

*  *  *
──バイデン政権になり、米国は変わったのでしょうか。

 事業で成功し、一度も公職に就かずに大統領になったトランプ氏と、ワシントンのエスタブリッシュメントの代表とも言えるバイデン氏では背景が違うし、前政権と違うことをやろうとするだろう。でも、米国全体の政治や経済状況は大きく変わらないだろう。トランプ前大統領は、プアホワイトの問題に代表されるように、米国で数十年にわたって広がった所得や社会的地位などの格差に直接触れた。

 これに対し、バイデン氏は大統領就任演説などで「unity(団結)」という言葉を繰り返している。だが、トランプ氏が開けたパンドラの箱がすぐに元に収まることはないだろう。

 そんななか、米国は日本をより、頼りにするようになっている。私が駐米大使時代に会った民主党や共和党の政治家、地方の首長たちが、表現の違いはあっても皆「米国の対外政策のなかで、日米同盟ほど重要なものはない」と語っていた。

■日米共に行動する責任

 これは、日本の経済界が長い時間をかけて米国社会に溶け込む努力をした成果だろう。働く人は全員米国人で使う部品も米国製という日本企業の工場が、米国には数多くある。こうした経済や文化面での貢献から、米国の若い世代が「Japan is so cool」と言ってくれる。

 私は30年前にも1等書記官としてワシントンで勤務した。当時と比べ、日米関係は本当に深まった。毎年3月にはポトマック川のほとりで全米桜祭りが開かれる。大使として着任直後の2018年3月、開会式に出席したが、日本文化広報の一部だった30年前とは全く異なり、米国人が主体になり、費用の6割以上を米企業の寄付でまかなう催しになっていた。

 現在ほど、良い日米関係はないと言える。ただ、その裏側の意味が大事だ。米国に信頼、期待される成熟した同盟関係になった以上、日本が米国と共に考え、共に行動する責任や決意について直視することが重要になっている。

──どういう意味でしょうか。

 中国という大国の台頭だ。軍事力だけではなく、貿易や投資、宇宙、5Gなどあらゆる分野で台頭している。かつての米ソ冷戦は、増えすぎた核弾頭の削減を巡る議論が最も重要だったが、経済力では比較にならないほど米国がソ連を圧倒していた。

 中国のパワーが米国を凌駕(りょうが)するとは思わないが、決して無視はできない。近現代の歴史で先例のないほど強い国の台頭だ。経済面ではプラスかもしれないが、尖閣諸島や南シナ海などで、国際社会のルールに合致しないやり方を使って一方的に現状を変更しようとする動きは見過ごすことはできない。

 だからといって、中国を封じ込めろとか、戦端を開けと言っているわけではない。国際社会が協力し、中国が責任ある大国として協調できるよう促すことが重要だ。その中心に日米同盟があると、米国は考えている。だから、菅義偉首相を外国首脳として最初に米国に招いた。

──米国は日本に何を求めてくるでしょうか。

 バイデン大統領は3月3日に発表した、安全保障政策をめぐる「暫定戦略指針」のなかで「responsibility sharing(責任の分担)」という言葉を使った。burden(負担)という言葉ではないので、在日米軍駐留経費といった金銭的な概念よりも広い積極的な意味がある。

 日本にとって中国は重要な隣国だが、米国は唯一の同盟国だ。尖閣諸島は日本の領土であり、その防衛には米国も協力するが、日本がまず一義的な役割を負う。同時に日米安保条約第6条は、在日米軍が地域の平和と安全のためにも駐留するとしている。香港や新疆ウイグル、チベットなどの人権問題や台湾海峡の話も出るかもしれない。ただ、今回は首脳間の信頼関係を築くことがより大事になるだろう。

 私たちは、こうした議論を政治リーダーだけに任せるのではなく、国内でより幅広く、もっと短い時間軸で戦わせていく必要がある。

(構成/朝日新聞記者・牧野愛博)

※AERA 2021年4月19日号

    前日のランキングへ

    ニュース設定