「両親が妻をいまだに気にくわない」親が一番な夫が涙したどりついた対処法とは?

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2021年04月15日 10:30  AERA dot.

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写真写真はイメージ(GettyImages)
写真はイメージ(GettyImages)
 カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦間で起きがちな問題を紐解く連載「男と女の処世術」。今回のテーマは「夫婦のやりとりには“体験”が必要」。なんでもかんでもリモートになって、夫婦関係で見落としていることはありませんか? 

【あなたは大丈夫?夫婦間のモラハラ チェックリストはこちら】

*  *  *
 新年度に入り、なんでもかんでもリモートの2年目に突入しました。人と人が関わる関わり方の方法(大きく分ければ、直接会うのか、メールや電話、Zoomなどの直接でない手段を使うのか)の性質と、それを利用して行われるコミュニケーションがどう進展しやすいかには関係があります。逆に言えばコミュニケーションに使う方法と、そこでやり取りしたいコミュニケーションの内容に親和性がないと、うまくいきにくくなります。

 たとえば、上級者向けのITがらみのユーザーサポートは電話よりもメールやチャットなどテキストによるコミュニケーションの方が向いています。やり取りされる情報は、双方が容易に文字(や画像)にすることができて、文字の方が記録を残す意味でも、一覧性でも、リンクなどを参照する時も有利だからです。一方、初心者は、何がわからないのかすらわからないのでメールやチャットなどのテキストによる対応はハードルが高いのは当然です。そのため最近のユーザーサポートの中には、説明するのではなくて、リモートでこちらのPCを遠隔操作してユーザーの代わりに解決してくれるやり方をするのもあります。これはコミュニケーションというより対処を提供しています。

 別の例を考えると、毎日、「今日はこういうメニューで運動しましょう」というメールが来るサービスと、パーソナルトレーナーがいて横で「はい、次はこれをしましょう」というのでは全然違います(少なくとも私は)。

 前者だと、やってもせいぜい3日で、後はメールを読み飛ばすようになると思います。しかし、パーソナルトレーナーがいたら聞き流すことはできないですし、次の予約も深く考えずに入れてしまい、結果的に続けてしまいそうです。つまり、メールと対面では、今日はどういう運動をすべきか、という「情報」の部分は同じであっても「効果」、別の言葉で言えば「気持ちを動かす力」が全く違います。それをもたらしているのは、パーソナルトレーナーという生身の人との「体験」です。

 カウンセリングにおいでになる方は、何かに困っておられるので、ユーザーサポートと似た感じから始まることが少なくありません。

 顕さん(仮名、30代、外資系勤務)は、時間を効率的に使いたいということで、事前に資料を送ってこられました。

 資料には、経緯として、両家の家族構成と各人の職業、性格等から、両人の生育歴、交際に至った経緯、結婚にまつわるエピソード、結婚後のいくつかの事件(夫の実家にお歳暮を送るか否かでもめたことや、妻が友人の子どもが苦手だと言ったことをたしなめたことなど、些細なきっかけでけんかになり、最終的に妻が狂乱したとか情緒が不安定になったというエピソード)、現在の両者の主張などが詳細に書かれていました。

 それに加えて、(1)妻の心理状態の解説(自分は異常だと思うが、そうだとしたらその診断名と原因)、(2)自分の身の振り方を含めた妻へのベストな対処方法、(3)妻の心理状態を改善してほしい(ないしは改善できる場所を紹介してほしい)というカウンセリングへの目的も書かれていました。

 知識と対処を求めておられるのは、カウンセリングにおいでになる方の当初の希望としては一般的なものです。

 10枚近く文字と表でぎっしり埋まった詳細な資料を事前にきちんと準備されていることから、(当然仕事でも同じことをされていると思われるので)仕事ができる方なのだろうと予想できます。また、この資料を作成した労力は相当なものであると想像できますので、状況を改善したい気持ちは強くおありだろうとも推測できました。

 しかし、残念ながらこの能力とモチベーションのおかげで顕さんが望むようにカウンセリングがスムースに進むかは別の問題です。

 顕さんが想定している枠組では、上級者がユーザーサポートに状況を詳説して、対応策を教えてもらうのと同じなので、メールでアドバイス(情報提供)すれば十分なはずです。しかし、長年カウンセリングをしてきましたが、それで事足りるケースは一つもありません。というか、そんな魔法のようなアドバイスはできません。

 ご夫婦がおいでになり、妻の様子を観察します。妻は不安そうな様子です。それはそうでしょう。「妻に問題がある」という前提で、夫が選んだカウンセラーのところに連れてこられたのですから。

 私はそれぞれの方にお話をお伺いします。

 顕さんは、事前に送ってきた書類を見ながらそこに書かれている概要を一通り説明されました。

「ここで相談されたいことは何ですか?」と妻の瑠香さん(仮名、30代、外資系勤務)にも聞いてみます。

「…………」

お答えになりません。

「そしたら、顕さんの話をお聞きになってどう感じますか?」

 と聞いてみました。

「……彼の言っていることは、全て正しいんです……」

 とおっしゃいます。聞いていて私が苦しく感じました。

「苦しいですね」

 と言ってみました。

 瑠香さんの表情がちょっとゆるんだ気がしました。しかし、

「彼が言っていることが正しいことは、わかっているんです……」

 と続けられました。

「仮に彼の言っていることが正しいとしても、苦しいものは苦しいですよね」

 というと、しばし沈黙の後、

「私は何が苦しいんでしょうか?」

 とお聞きになりました。

「え、だって、自分のことを好きでいてくれると信じている人が、自分のことをおかしい、と言っているのは悲しいことだし、それを瑠香さんが自分が悪いからだと思い込もうとするのは苦しいことだと思いますよ。」

 と言いました。教科書的な分析や答えがあるわけではなくて、その時私が思ったままです。

 瑠香さんは

「そっか、私、悲しいんですね……いえ、悲しいというより怒っているんだと思います」

 とおっしゃいました。怒っているといいながらも、表情は柔らかくなられました。

 一方、取り残されたのが、顕さんです。顕さんに聞いてみました。

「瑠香さんと私の話を横で聞いていて、どう感じましたか?」

 顕さんは答えました。

「全く納得がいきません。私は客観的にみて正しいことを言っているのに、理不尽にブチ切れているのは妻で、そのことすら理解できないのに、妻が怒る理由が全くわかりません」

「顕さんは正しいことを言っているのに、ムカつきますよね」

 と私は言いました。

「ムカつくというか……怖いです。妻は大丈夫なんだろうか、おかしいんじゃないか、この人と一緒にいて大丈夫なんだろうかって」

 とおっしゃいます。

「大丈夫じゃない状態って、どうなることですか?」

 と聞いてみました。

 顕さんは、怖かったのです。最初にいただいた資料にも書いてありました。顕さんは親の期待通りに生きてきたよい子でした。おおむね親の期待を満たす成績をとり、親が喜ぶ会社を選びました。唯一、親とぶつかったのは、瑠香さんとの結婚でした。両親はいまだに瑠香さんを気に入っていないことはなんとなくわかります。

 だからこそ、無意識のうちに、瑠香さんが「よい妻」になったり、孫の顔を見せたら「和解」できるのではないかと思って頑張っていたのでした。つまり、大丈夫じゃないというのは、和解できないことです。

 ここまで来て、構図が明らかになりました。

 顕さんは瑠香さんのことも両親のことも好きで、両親は瑠香さんのことを快く思っていない。この状態を顕さんが受け入れがたく“怖く”感じている、それがこの一連の話のスタートラインだったわけです。

「こういう場合、どうしたらいいんですか?」

 また、顕さんが知識を求めてきます。

「顕さんは、何がどうなったらいいですか?」

 と質問返しをします。

「みんなが普通に仲良くなれば」

 多くの方がこう言いますが、「みんな」「普通」「仲良く」のいずれも魔術的用語で、これらの言葉を入れて考えたり話したりするとどこにも行きつかなくなりますので、魔法を暴きます。

「ということは、ご両親が瑠香さんを好きになるように、変えたいということですか?」

 とお聞きすると、

「いや……どちらかというと、瑠香に両親を好きになってもらうように変わってほしいというか……」

「それって、瑠香さんはどう感じると思いますか?」

 とお聞きすると、

「それが正しいことだというのはわかると思いますが……」

 とおっしゃいますので、瑠香さんに聞いてみます。

「顕さんのお話、どう感じますか?」

 瑠香さんは、おっしゃいました。

「私、このことに怒ってたのがわかりました。顕は弁が立つのでもっともなことを言うけど、結局、親が一番で、私にはそれに合わせろと言ってきたんです。私の気持ちなんか考えてないんです」

 顕さんにお聞きしました。

「話の構図、わかりましたか?」

 顕さんは、

「わかりました……けど……どうしたらいいか全然わかりません。親を無視しろってことですか?」

 相変わらず、対処方法を求めています。

 そんなこんなしているうちに、ユーザーサポート的な枠組みからすれば全く何も進展がない状況ですが、時間なので最後に感想をお聞きすると、顕さんは、

「どうしたらいいのか全く分かりませんが、でも、何かいい話ができた気がします。何かすごく変なんですけど、何も問題が解決していないのに、なんかちょっとすがすがしいというか、安心したというか……瑠香と生きていけそうな気が……」

 といって泣いてしまわれました。

 カウンセリングは、情報や知識を提供する場所ではなくて、主には、こうした「体験」を提供する場所です。相談内容の資料をいただいて、メールを返送することで「体験」を提供することは不可能です。電話やZoomならどうかというと、多少ましではあるのですが、いずれにしても、これらのメディアを使うと、情報と知識をやり取りするコミュニケーションになりがちで「体験」が難しいのです。

 動画配信の方がコンテンツのクオリティが高かったり、無料だったりするのに、あえて時間とお金と労力をかけて音響効果の悪いライブに行くのは、人には「体験」が大きな意味を持つからです。

 顕さんが対面という一番体験をしやすいコミュニケーション手段を使いながらも、仕事の癖が出て、夫婦の問題解決にも、体験ではなく、知識と対処のコミュニケーションをしてしまいがちなのと同じように、ITのメッセージングツールを使うシチュエーションは知識と対処のために事が多いので、無意識のうちにコミュニケーションから情緒や体験を遠ざける習慣づけがなされる傾向があります。

 動画配信でいろいろなアーティストのライブを簡単に見ることができるようになっても、「推し」のライブには足を運ぶというようなメリハリをつけるのと同じように、スマホでやり取りされる幾多のコミュニケーションの中でも、夫婦のやり取りだけは「ライブ感」を体験しながらするのがおすすめです。

(文責・西澤寿樹)

※事例は実例をもとに再構成してあります。

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