後悔する前に! “ブラック特養”の見分け方

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2021年04月15日 11:30  AERA dot.

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写真※写真はイメージです (GettyImages)
※写真はイメージです (GettyImages)
 公的施設である特別養護老人ホーム(特養)は安さが魅力だ。しかし、中には、職員による暴言や暴力があったり、医療・看護態勢が十分でなかったりする「危険」な施設もある。大事な家族や自身を守るためにも、安心・安全な特養を選ぶ目を養おう。見分けるポイントを専門家に聞いた。

【施設見学時のチェックポイントはこちら】

*  *  *
 都内の介護福祉士の養成校に通っていた真知子さん(仮名・40代)は数年前、介護実習で特養を訪問し、目にした光景に驚いた。介護の現場が、学校で学ぶものとは大きく違ったからだ。

「食事の介助中に『あーぅあーぅ』と食べ物や移動を求める利用者さん(車椅子)の目の前で、いわゆる『ボス』的な存在の女性介護職員が『あたし、うるさい男って嫌いなんだよねー。よくしゃべる男って無理』と。周りの職員はただ笑って聞いていました」

 利用者と話すときは、いつも小ばかにしたり、見下したりしているようで、尊厳が軽視されているように見えたという。

「寝たきりの人の前で、『この人、わかんないから大丈夫』とか『全員寝たきりのほうが自分のペースで仕事できるから楽なんだよね』なんてつぶやいて……」

 こんな場面も見かけた。食事中にオムツ内で排便してしまった利用者に対し、気づいた職員が、「あぁ○○さん、うんこしてる!」と叫んだ。

「他の職員は『えーマジか』と反応していました」

「ブラック」な行為も目にした。介護職員による摘便(肛門=こうもんから指を入れて便をかき出す行為)だ。医療行為のため医師や看護師などの資格がないとできないはずだが、「職員が手袋をつけ、人さし指に軟膏(なんこう)を塗り、何も言わずに肛門に指をつっこんでいました」。

 ほかにも、体の硬直がある重度の認知症の利用者を介護実習の「サンプル」のように扱っていた。ベッドであっちにころころ、こっちにころころとなされるがままに転がされる入居者を見て、「これをご家族が見たらどんな思いになるのだろうか、といたたまれなくなりました」(真知子さん)。

 日本介護福祉士会前会長で、現在は熊本県介護福祉士会会長の石本淳也さんは、「古き措置時代の風習が根付いている施設は危険」と指摘する。「措置時代」とは、介護保険制度が始まった2000年4月より前のことだ。

 現在は高齢者虐待防止法で禁止している行為も、当時は「許容」されていたため、いまだにそのときの常識のまま介護する職員がいることは否めないという。

 介護の現場に30年間いるという石本さん自身も、

「当時は(事故防止のため)車椅子に固定しなさい、と教えられました。もちろん、今は身体拘束はNGです」

 時代とともにサービスの質も変化していかなければならないが、

「利用者に乱暴な物言いをしたり、薬を余分に飲ませて眠らせたり。そういったケアが行われていることは否定できません」(石本さん)

 そうした側面のほかにも、質の低下の大きな要因として人手不足が挙げられる。介護事情に詳しい淑徳大学の結城康博教授(社会福祉学)が話す。

「特養に限りませんが、介護の現場は全国的に深刻な人手不足です。それによってサービスの質が落ちている特養は少なくないです」

 都内の特養で働く未知さん(仮名・40代)の施設では朝、30人の「起床介助」を一人でするといい、

「朝食の7時半までに全員を起こして着替えなどをすませるために、最初の人は朝5時半に起こします。利用者には気の毒です。一人ひとりと、もっとじっくり話をしたいけれど、職員の慢性的な人数不足でそれもできないもどかしさがあります」

 公益財団法人介護労働安定センターの2019年度の介護労働実態調査では、事業者に従業員の過不足について聞いたところ、「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した合計が65.3%。労働者でも、仕事に関連した悩みや不満では、「人手が足りない」の回答が一番多かった。

 さらに今の時期、コロナ禍が介護サービスに影響している可能性がある。

 特定非営利活動法人介護保険市民オンブズマン機構大阪の担当者が言う。

「(面会ができないため)外部者が入らず施設が密室化すると、職員の緊張感がなくなりがちです。それによって利用者への対応がぞんざいになることはあり得ます」

 それが入所者の身体にも影響している。公益社団法人全国老人福祉施設協議会によると、

「外出も家族との面会もできずレクリエーションにも制限がかかるなど、入所者のストレスが高まり、不穏な言動が増えたり、認知症の程度が進んだり、身体機能の低下が進むなどの状況が発生してきています」

 サービスの質では、医療面でも施設と入所者とで、考えに大きな隔たりが見られるケースがある。

 3年前に開設した都内の特養に90代の母親がいる絵里さん(仮名)は、こう明かす。

「母は施設で1週間に3回の負傷(打撲とやけど)がありました。やけどは腹部と右ひじで、胃ろうのふたが夜間に外れて胃液(胃酸)が流れたことによるものでした」

 しかし発見は3時間後。その後、施設が提携する皮膚科医に診てもらったが治らず。施設看護師にその旨を伝えると「(提携の)医師の指示どおりにしか動けない」の一点張り。自分で別の病院に連れていくと、薬を処方されて1週間で治った。

 施設側から受け取った事故報告書の内容は十分とはいえず、施設長からの謝罪は1カ月以上経ってからだったという。

 施設の医療面について、利用者側の希望と施設の対応に差が出るのはなぜなのか。

 前出の結城教授が言う。

「特養はあくまでも生活の場を提供する施設なので医療行為は限定的です。望む医療ケアをしてもらえない=ブラックというわけではありません」

 厚生労働省高齢者支援課担当者に聞くと、

「実際に、『施設嘱託医が全然往診に来ない』など、不満の声が寄せられることはあります」

 としながらも、

「特養における医療の関わり方については、今より強化して病院並みにというのはすぐにできるとは言い難く、特養で受けきれない医療ニーズは病院や介護老人保健施設など他のサービスとの役割分担で対応しています」

 特養で20年間看護師として働く幸子さん(仮名)は、理想的な特養での看護の鍵は「観察力」と話す。

「特養の看護師にとって大事なのは入居者の日々の体調変化に気を配り、先手を打つこと。そこには高い経験値が求められます。経験不足の施設看護師は、それが後手にまわってしまいます。その結果、褥瘡([じょくそう]=寝たきりや座りっぱなしによる皮膚の壊死[えし])などのトラブルに追われるのです」

 できる限り希望に近いサービスを受けられる特養に入るためには、口コミを利用したり、事前に情報収集したりして選ぶしかない。結城教授が語気を強める。

「どこの施設でも同じような介護サービスが受けられると考えるのは、やめたほうがいいでしょう。しっかり自分でリサーチしなければ、後で泣きを見ることにもなります」

 前出の真知子さんがこう話す。

「家族側にも良い施設を見極めるスキルのようなものは必要だと思います。すべての希望をかなえてくれる施設は存在しません。入居者の方も多様なので、集団ケアとなる特養では、すべてのご家族の意向をかなえるのは難しいからです」

 病気が心配という人は医療対応について詳しく確認しよう。前出の看護師の幸子さんが話す。

「早期に病院に連れていってくれるところもあれば、そうでないところもある。病気が不安な人は、医療連携が厚いところを選ぶほうが安心。治療の場にどうやってつなぐかは施設によってすごく違うからです。入所前には、実際の看護態勢について、直接施設に行って話を聞くことが大切です」

 いろいろと調べた上で、それでももし、ブラックと感じる特養に入居してしまった場合はどうしたらいいのか。

「もうだめだと思ったら、すぐに退去したほうがいいです」(前出の結城教授)

 その場合は次の施設を探さなければならないが、そのためには、次が見つかるまで、在宅介護ができるような準備をしておこう。

 施設の介護サービスの方針はそれぞれだが、自立支援に力を入れる施設もある。

「一般的に特養の入居者は、長期間にわたって寝たきりだったり、オムツの中に排泄物がずっとあったりの生活を送っています。そんな日々が続けば、皆生きる意欲や元気になろうとする気力を失ってしまいます」

 そう話すのは、「杜の風・上原 特別養護老人ホーム正吉苑」(東京都渋谷区/定員80人)の施設長の齊藤貴也さん。

「ここではそれらを取り戻すためのケアを行っています。脱水と低栄養、排便困難、運動不足の改善です」

 具体的には1日1500ミリリットルの水分摂取、1500キロカロリーの栄養摂取、そしてオムツ外しだ。オムツは施設で購入すらしていないという。“排便はトイレで”を目指し、入所者は入所当日からオムツを外し、立って歩く練習をする。

 要介護4で車椅子で全介助が必要だった100歳の女性が、入所2カ月で歩行能力が回復し、2年ぶりにシルバーカーを押しながら歩けるようになった。また、入所まで何年間もオムツでの排便生活だったのに、入所当日にトイレで便座に座る姿を見て感涙した家族もいたという。

「施設で、転倒が危険だからと寝たきりにさせるのではなく、転倒のリスクを説明した上で、歩く練習をする。歩けないのは歩き方を忘れているからで、筋力をつけるより繰り返し歩くことが大切なのです」(齊藤さん)

 水分摂取も50種類の飲料を用意し、一人ひとりに合った水分プラン(時間や量、コップ)で摂取習慣をつけていく。さらに「今年やりたいこと応援活動!」と銘打ち、入居者や家族に今年中にやりたいことを聞き、ケアプランに記して取り組む。なかには「高尾山(都内)に登りたい」と希望した人もいて、見事、実行できたという。

 すべての入居者が同じようにいくとは限らないが、こうした過程は、介護職員のモチベーションを高めることにもつながるのではないだろうか。

 人手不足で疲弊しながら入居者の世話に日々追われるよりも、自立した入居者を自宅へと送り返せるほうが、仕事への取り組み方も変わってくるだろう。

 冒頭で紹介した、介護福祉の学校に通っていた真知子さんは常々、「自分の親をこの施設に入れたいと思うケアを」と学んできたといい、先の特養で働く未知さんも、一人ひとりの入居者とじっくり向き合いたいという思いがあった。

 ただ、いずれも現場では、理想と現実とのギャップを感じている。

 前出の石本さんが指摘した「措置時代」のやり方が残っている職員も含め、介護に携わる上での教育は重要だ。

 しかし、先の介護労働安定センターの調査で、職員の採用時研修の受講の有無について、「受けた」と答えたのは正規職員で48.9%、非正規職員は39.7%と、いずれも半数を下回っていた。

 前出のオンブズマンの担当者は、研修の重要性についてこう指摘する。

「特養には重度の入居者もいるので、職員には介護技術だけでなく、心のケアもより高度なものが求められます。そうしたものも含めた研修が十分でなければ、介護サービスの質は悪くなります」

 利用者の見極める力も必要だが、現場の変革にも期待したい。(本誌・大崎百紀)

※週刊朝日  2021年4月23日号

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