京アニ模倣犯でよみがえる地下アイドルの恐怖体験「優しいファンが“怖い人”に」

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2021年04月16日 16:02  日刊SPA!

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 今年3月、徳島市においてアイドルグループのライブが開催された雑居ビルに放火し、現住建造物等放火容疑などで30代無職男性が逮捕された。そして来る4月9日、その犯人男性が「京アニ事件のマネしてやった」と供述。多くのメディアがそのことを報じ、Twitterのトレンドに「京アニ」というワードが浮上し話題となった。

 小さなライブハウスを拠点として活動する、いわゆる地下アイドルたちは、メジャーシーンで活躍するアイドルに比べ、客との距離が非常に近く、この事件のようにトラブルに巻き込まれるケースも少なくない。約10年間、東京都内でアイドル活動に励む松本恵理子さん(仮名・29歳)も、長い活動を通し、身の危険に晒されたことのあるアイドルの一人だ。

◆優しいファンが怖い人に豹変、オフ会を襲撃される

 松本さんは数年前、とある男性客からイベント開催の話を持ちかけられ、それがトラブルへと発展した。彼女は当時のことを振り返りこう語る。

「いつもライブに来てくれる常連のお客さんからライブ終了後の物販の時間に『俺のコネで、タダで会場を借りてイベント開催出来るからやろう! イベントの内容も一緒に考えてあげるからさ!』と誘われました。その時の私は、頑張り時だと思っていたのと、乗らなきゃその程度のやる気しかないやつだと思われる気がして、すぐに承諾してしまいました。『松本さんは今凄く良いから、今やろう! こういうのは今すぐやらなきゃ!』っていう感じでぐいぐい来られたのも即決してしまった理由です。

 イベントの内容も、私にしか出来ないことだと思っていたので、これをやればもっとファンに認めてもらえるだろうという期待感も大きかったです。その時は、とにかく頑張らなきゃ、頑張らなきゃという、余裕の無い状態でした」

 男の話をチャンスだと思い、イベント開催に全力をかけていた松本さんだったが、後日、その男と連絡を取った際、話が噛み合わないことが非常に多く、次第に不安を感じるようになったという。そして彼女は悩んだ末、イベントを中止にしようとした。しかし、男はその申し出を聞き入れてはくれず、松本さんはある決断をすることになる。

「このままだとイベント主催者として何かアクシデントが起こった時、責任を取れない。そう思って、イベント当日、他の演者さんとお客さんたちへ個別に連絡、事情を説明して納得してもらい、急遽別会場でオフ会をすることにしました。もちろん話を持ちかけてきた男性にはそのことは伝えていません。完全にその人から逃げるような形で実施したオフ会です。ですが、どういうわけか、彼は私たちの居場所を突き止め、オフ会へ乗り込んできました」

◆大声で『ふざけんなよ!』と喚き散らし…

 そう話す松本さんの声はどことなく震えていた。そして彼女は重い口を開きこう続ける。

「まさか乗り込んでくるとは思わなかったので、本当にびっくりしました。私たちの他にもお客さんがいるのにも関わらず、どたどたと入ってきて大声で『ふざけんなよ!』と喚き散らしていたので、とても怖かったです。このトラブルが起こるまでは、積極的に応援してくれる優しい人だと思っていましたが、向こうの思惑通りにいかなくなった途端、怖い人に豹変したのは本当にショックでした」

 男の様子があまりにも常軌を逸していたため、暴力沙汰を恐れた松本さん。彼女は他の演者たちと協力して男を店の外へ連れ出し、なんとか彼の怒りを鎮め事なきを得たという。

 運良くその場を収められたから良いももの、一歩間違えたら松本さんが恐れていたように、暴力沙汰へと発展する可能性もあったわけだ。そして、彼女と協力して男を追い返した演者たちもか弱い女の子である。暴徒と化した男と話し合うのは非常に怖かったに違いない。松本さんやオフ会参加者たちが無事で良かった。

◆ファンはトラブルがあった時、アイドル側の対応の仕方に注目する

 それからというものの松本さんは「やってあげるよ」という人や、急速に距離を詰めてくる人には特に注意するようになったという。しかし、どんなに気をつけていても密接にファンと接しているため、いつまたトラブルに巻き込まれても不思議ではない。それは彼女だけでなく、アイドルとして活動をしている者全員に当てはまることだ。

 では、トラブルを回避すると同時に、ファンを獲得するためにはどのようなことに注意すればいいのか? 松本さんは身を守りつつ、ファンを獲得するために、このようなことを心がけている。

「活動を応援してくれるファンの中には、活動に関わること、プロデューサーのようなことをしたくなる人もいて、そんな人はプライドが高い傾向にあります。先程お話した男性も『俺は今、この子にこういうことをしてあげている』というようなことを、自慢げに私に話してきたことがありました。だから、お金とかが目的ではなく『俺は他のファンとは違うんだぜ』といったように周りに一目置かれたかったのだと思います。

 そういったタイプのファンは、平気で嘘をついて自分を大きく見せたり、支離滅裂な発言もよくします。ちょっとでも傷つけられたと感じるとすぐ爆発して何をするか分からなくて本当に恐ろしいです。そんな人は大抵他のファンからも嫌厭されています。もしトラブルになってしまったら、他のファンにしっかり事情を説明して安心させることが大切です。ファンはアイドル側の対応の仕方にも注目するので、そこは頑張りどころと言えます」

 ファンを安心させることは、あらゆる信頼に繋がり、ファン目線で信頼出来るアイドル(運営)はファンを獲得出来る人だという。さらに彼女はこう続ける。

「また、アイドル活動で生活していかなきゃと思うと、焦りからついお金を稼ぐことばっかりに意識がいってしまい、ファンを大事にすることを蔑ろにしてしまいがちです。そんな気持ちに余裕が無い時ほど、トラブルを起こしやすいので、誰かに相談して客観視し、自分のいる環境や活動ペースを見直してみることも大切だと思います。

 自分に合う環境とペースが見つかれば、ファンも安心して同じペースでついてきてくれるんだと、経験して分かりました」

◆迷惑行為をしている側はその行為を迷惑だと理解出来ていないから厄介

 後日分かったことだが冒頭の事件も、犯人男性と、被害にあったアイドルグループとの間で起こったトラブルが原因であった。

 犯人男性は事件の数年前、同アイドルグループメンバーを中傷するツイートをTwitterに繰り返し投稿。それに対し、事務所側は男性と面会し中傷をやめるように注意したという。

 同じアイドルとして活動する松本さんも、この事件を耳にし、思うことがあったようだ。彼女は事件に対しこのようにコメントしている。

「迷惑行為をしている側は、悪意があってやっているのではなく、楽しんでいて、アイドルや周りの人たちも自分と同じ気持ちだと思い込んでいることが多く、それが迷惑なんだと理解出来ていないように感じます。しかし、 そういう人に限って、会って喋っている時は普通だったりするので、完璧にトラブルを防ぐのは難しいです。

 迷惑行為が落ち着いたと思っていても、徳島の事件のようにいつ何をされるか分からないので、常に不安はあります。この仕事をしている以上、いろんな事態を想定しておいて、最善を尽くせるようにしたいと思いました」

 また、今後ライブをする時は、非常口の確認や防犯グッズも持参するべきだと改めて思ったという。そして、怪しい人物に遭遇しないように、Twitterのチェックも前よりもマメにするようになったと話す。

「アイドルとファンがSNSでいつでも交流出来るのは本来凄いことですし、とっても楽しいことなので、それを忘れたくありませんね」

 徳島市で起こった事件の原因の一つとしてあげられているTwitterだが、松本さんが言うように、TwitterをはじめとするSNSは様々な人と繋がることで有益な情報を共有したり、使い方によっては人を笑顔に出来るといったポジティブな面もある。

 だが、使い方を間違えると人を傷つけてしまう恐れがあるということも、サービスを利用するうえで理解しておきたい。そして、アイドルのファン全てが、今回の事件を起こした犯人男性のように、歪んだ人物ばかりでないことも、忘れないでほしい。

<取材・文/相模玲司>

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