「たかが噂」とは思えなくなる、リアルな不気味さを伴ったサイコ・サスペンス『噂』/佐藤日向の#砂糖図書館

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2021年04月17日 20:11  ダ・ヴィンチニュース

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写真佐藤日向
佐藤日向

皆さんは”噂”という言葉に、どんなイメージを持っているだろうか。

ときには回り道も必要。本の中を流れる時間に、身を委ねてみよう。『喜嶋先生の静かな世界』/佐藤日向の#砂糖図書館

私は、“噂”に対してネガティブな印象しかない。

「口は災いの元」という言葉があるように、
「〜らしいよ」
「って○○から聞いたんだけど」
なんて言葉で締める話は、大体伝言ゲームと一緒で、他の誰かに伝わる時に、必ずと言って良いほど話が誇張され続け、広まっていく。

この世に「絶対に秘密なんだけどね」という言葉から始まる話ほど、怖いものはないと思う。

今回紹介するのは、噂の怖さが詰め込まれた荻原浩さんの『噂』というサイコ・サスペンスの作品だ。

「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」という都市伝説を、新作の香水ブランド「ミリエル」を売り出すために創作し、渋谷でスカウトした女子高生達をモニター兼口コミを広める役として採用するところから、物語は始まる。

その戦略通り噂は都市伝説化し、香水を身に纏う女子高生が増えるが、噂は現実となってしまう。

ラスト数ページを迎える前の少し爽やかな気持ちから一転、全てを読み終えた後の心がザラついて終わる感じが、これまで読んだどのミステリー作品とも違っていて、今も不気味な感覚を伴って、脳内に残っている。

多数の視点から物語の展開を読み進められることによって、読了後おもわずため息が出てしまうくらい、予測できない展開の作品だった。伏線がかなり序盤から張り巡らされていたのに気づけなかったのが、少し悔しいくらいだ。そしてなによりも、ラスト1行が読み手によって解釈が変わるのが、作品に含まれるサイコパスの度合いを上げていた。

舞台はSNSが流行る少し前、2000年代の初期。作中には「iモード」「チェーンメール」「やば→い」など、久々に聞く単語もいくつか出てくるが、レインマン事件を捜査中の刑事・小暮が「携帯がなくなると人間関係に関する情報がさっぱり消えてしまうというわけだ。」と言う一節を読んだ時、スマートフォンが普及した現代は、ガラケーの時代よりもさらに、携帯を主軸に人間関係が構築されていることに、ふと気づいた。

不幸の手紙からチェーンメールになり、今はSNSのコメント上でチェーンメッセージが繰り広げられている。昔から人は都市伝説や口コミ、噂を怖がる反面、楽しむ傾向があるから、連絡手段の形態が変わったとしても、こういった類のものは消えないのだろう。実際、令和を迎えた今もなお、情報とともに噂話のレベルも更新され続けている。

この作品の魅力は、読者のみ知ることが出来る各キャラクターの心理だ。

一見、犯人の心理が全く理解できないように思えるが、何かに固執してしまう、或いは抑えている感情の蓋が外れてしまった場合、人は周りが想像し得ない行動を起こしてしまうのだろう。

この先は前情報なしで、本を読んで感じて欲しいので、これ以上詳しく書くことはできないが、犯人の心を少し覗いただけなのに鳥肌が止まらず、実際に見てしまったようなリアルな感覚が、今も残っている。

一貫してこの作品に漂う、リアルな1本のドラマを見ているような感覚が、そう感じさせたのかもしれない。

私たちは普段、無意識に言葉尻に「らしいよ」をつけてしまったり、誰かから聞いた話をまた別の誰かに話してしまうことが多々ある。

だが、その噂話を広めるのも信じるのも、情報源が信頼出来るかどうか判断が難しくなってしまった今の時代、とても危険だ。

この作品を読んで、ひとつの噂話に翻弄された人々の末路を目撃してほしい。読み終えた後、「たかが噂」とは思えなくなっている自分がいるだろう。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。

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