これは暴走か、それとも進化の過程か? エスカレートする、世界のキャンセルカルチャー

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2021年04月19日 06:11  週プレNEWS

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写真「謝罪を許さず、謝っている当事者を擁護することも許さず、雇用主や関係企業やスポンサーも許さず、そのため一切の
「謝罪を許さず、謝っている当事者を擁護することも許さず、雇用主や関係企業やスポンサーも許さず、そのため一切の"お目こぼし"が認められない――これがキャンセルカルチャーの特徴です」と語るモーリー氏


謝罪を許さず、擁護も許さず、雇用主やスポンサーも許さず。ポリコレ警察の過激版ともいえる「キャンセルカルチャー」で"やらかしたヤツ"を消し続ければ、社会は本当によくなるのか? 『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが解説する。

■10年前のツイートで就任前の編集長が辞任

近年欧米で注目されている「キャンセルカルチャー」という言葉が、最近は日本でも輸入されて使われるケースがあります。例えば、「東京オリンピック組織委員会の森喜朗会長を辞任に追い込んだキャンセルカルチャーが......」といった具合です。

しかし、日本では単に「辞めるまで批判しなくても......」といった擁護、あるいは(主に右派・保守派による)「これは不当な批判だ」と言いたいがための免罪符として使われることが多く、欧米での用法から考えると違和感があります。

欧米でキャンセルカルチャーといえば、過去にさかのぼって不適切な言動を探し出し、その人物が現在の地位から退場するまであおり続けるネット上の"批判のクラウドファンディング"ともいうべき動きを指すのが普通です。

最近の典型的な例は、若者向けの米オンライン誌『ティーン・ヴォーグ』の編集長に就任予定だったアレクシ・マキャモンド氏が、過去の"差別的ツイート"を掘り起こされ辞任に追い込まれたケースでしょう。

マキャモンド氏は現在27歳で、問題とされたのは10年前、アジア人や同性愛者を侮蔑的に表現した学生時代のツイートでした。2019年に一度謝罪していたものの、次期編集長への就任発表とともに批判が再燃。同誌を運営するコンデナスト社は当初、起用を堅持するとしていたものの、大手スポンサーの広告キャンペーン停止でキャンセルを決断しました。

この問題は、未来ある黒人女性の代表、ダイバーシティの象徴として新編集長に起用されたマキャモンド氏の立場と非常に"相性が悪い"ものでした。特にB to Cビジネスを展開する企業は、多様性や環境負荷低減を前提として商品やサービスを設計する必要性が年々高まっており、そうした価値観を否定する体質の企業や資本はだんだん成り立たなくなっていくのでしょう。とはいえ10年前、まだ10代の頃の露悪的なジョークでキャンセルされるとは、非常に厳しい世の中です。

謝罪を許さず、謝っている当事者を擁護することも許さず、雇用主や関係企業やスポンサーも許さず、そのため一切の"お目こぼし"が認められない――これがキャンセルカルチャーの特徴です。ただ、それでも本当の差別主義者や「そもそも品行方正さを求められていない人」は、いくら批判されても本人もファンも揺るがず、キャンセルに至らないことが多い。

その典型がトランプ前大統領で、トランプ政権の4年間にリベラル陣営が感じ続けた腹立たしさや無力感が、キャンセルカルチャーをさらに過剰化させた面もあると思います。

しかしその結果、キャンセルカルチャーの"被害者"の多くはリベラル派です。リベラル思想に純粋で過激な人々が、同じリベラル派の過去のあらを探し、表舞台から抹殺する――そんな"義憤のクラウドファンディング"の様相を呈している。

これについては2019年にバラク・オバマ元大統領も「他人に石を投げるだけでは変化は生まれない」とキャンセルカルチャーを批判していますが、その「理想と現実」を体現しているのが米バイデン政権の副大統領に就任したカマラ・ハリス氏でしょう。

ハリス氏は、民主党内での大統領候補者争いではバイデン氏が数十年前に人種隔離主義を唱える南部民主党議員と政治的に妥協したことを厳しく批判しました。

しかし、バイデン氏が大統領候補に決まると一転、副大統領候補のオファーを受け、そしてご存じのとおり初の女性副大統領に就任しました。キャンセルカルチャーでリベラル陣営が"内ゲバ"を繰り返すより、多少の我慢を受け入れても意味のある前進を――。そんな決断だったのだと思います。

■「沈黙」も悪として叩かれる時代に

一方、欧米圏のSNS上などで発生する"船頭なき大衆的キャンセルカルチャー"と対極にあるのが、中国の共産党政権による「官製キャンセル」です。

この3月、アメリカとEUがウイグル族への人権侵害を理由に、中国に対して経済制裁を発動しました。これに先駆けて昨年12月、新疆(しんきょう)産綿花の不使用を表明していたH&Mやナイキに対し、中国では不買の呼びかけや通販サイトからの排除が巻き起こっています。その"引き金"を引いたのは共産主義青年団のSNS投稿や国営メディアの社説でした。

自国の不都合な真実を指摘したグローバル企業に対するハラスメント。中国政府は、表向きは「新疆ウイグル自治区に強制労働はない」としていますが、本音では「そっちも今まで散々利用して儲けておきながら、いまさら善人面で手のひらを返すのか」といったところでしょう。

欧米では消費財企業に「責任あるビジネス」を強く要求するカルチャーが増幅し、人権侵害に対して明確な態度を表明しないこと、つまり「沈黙」すら悪として叩かれるようになった。

これまで見て見ぬふりが"暗黙の了解"だった国際社会が白黒をはっきりつける方向へシフトし、それに対抗する形で中国の「官製キャンセル」の圧力も強まった――そんな構図です。世界中の中国進出企業が、国際世論や消費者からの圧力と、巨大な中国市場のビジネス的なうまみとの間で"踏み絵"を迫られているわけです。

この流れは日本にも、少し遅れて届きつつあります。独裁政権下での人権弾圧を無視し、中国政府と自国の利益を優先する自民党・経団連方式の"お付き合い"はもう許されず、「政冷経熱」などというごまかしもきかなくなる。

その影響は企業だけでなく、われわれの「安くて便利な生活」にも間違いなく及びます。ここで単純に企業を猛批判(キャンセル)したり、逆に完全にスルーしたりするのではなく、社会的議論を立ち上げていければいいのですが。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。本連載に大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が発売中。

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