主役級「曲者」。ディ・マリアはビッグクラブに不可欠な名バイプレーヤー

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2021年04月19日 06:31  webスポルティーバ

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サッカースターの技術・戦術解剖
第54回 アンヘル・ディ・マリア

<圧倒的バイプレーヤー>

 チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝、パリ・サンジェルマン(フランス)は昨季ファイナルのリベンジを果たし、バイエルン(ドイツ)を王座から引きずり下ろした。




 勝利の立役者はキリアン・エムバペ(フランス)とネイマール(ブラジル)だ。この2人のカウンターアタックのスピードは凄まじく、普段はDFのダビド・アラバ(オーストリア)をMFに上げていたバイエルンDF陣では対応できなかった。

 パリSGは、バイエルンのハイプレスに怯まなかったのも勝因だろう。何度かは引っかかっていたとはいえ、それでもプレッシャーを恐れずにパスをつなぎ、わずかな隙間をかいくぐってネイマール、エムバペにボールをつなげてカウンターを発動させていた。

 2試合合計は3−3、パリSGはアウェーで3−2、ホームで0−1だった。ただ、第2レグのホームでは、ネイマールがポストやパーに3回もシュートを当てたチャンスがあった。勝ち抜けの資格は十分だったと思う。

 ネイマールとエムバペの威力が印象的な2試合だったが、アンヘル・ディ・マリア(アルゼンチン)もいつものとおり渋い脇役を演じていた。

 ディ・マリアは「曲者」だ。主役という感じはあまりしない。そのかわり脇を固めるのに彼ほどの選手もそうはいない。

 細身でちょっと猫背、信じられないぐらい身軽。左足の足首はぐにゃぐにゃと変化して、踏み出しと着地が全然読めないボールの持ち方をする。こう言っては何だが、時代劇なら天井裏に潜んでいる役がよく似合う。二本差しの侍ではなく忍者だ。同じヒーローでも、スーパーマンではなくてスパイダーマンのイメージである。

 ディ・マリアは一度だけ「主役」に抜擢されたことがあった。2014年の夏、当時のプレミアリーグ最高額の移籍金5970万ポンド(約102億6830万円)でマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)に迎えられている。背番号はユナイテッドのエースナンバーである7番だった。

 それなりの活躍はした。しかし、わずか1シーズンでパリSGに移籍してしまった。ルイス・ファン・ハール監督と合わなかった、プレミアの水になじめなかったなど、理由はいろいろあるだろうが、そもそも主役が似合わなかったのではないかという気がする。

 ディ・マリアには、絶対的エースの周囲で暗躍する役回りのほうが合っていて、圧倒的バイプレーヤーなのだと思う。

<ディ・マリアだけは出すな>

 アルゼンチンのロサリオで生まれ、地元の名門ロサリオ・セントラルで17歳の時にプロデビュー。最初はサイドバックだった。だが、サイドバックとしてのディ・マリアはスタミナ不足や対人の弱さが指摘され、コーチからは「プロでは無理だ」と言われた。

 ところが、ウイングにコンバートしてみたらテクニックとスピードを遺憾なく発揮して活躍。07年にはポルトガルのベンフィカへの移籍が決まる。ディエゴ・マラドーナは「2年以内に世界的スターになる」と太鼓判を押し、2009−10シーズンにはリーグMVPに選出された。

 10年にレアル・マドリード(スペイン)へ移籍。2013−14シーズンのCL優勝に貢献した。カルロ・アンチェロッティ監督(イタリア)は「ディ・マリアだけは出すな」と言いおいてオフに入ったにもかかわらず、レアルは彼の放出を決め、マンチェスター・ユナイテッドへ移っている。トニ・クロース(ドイツ)、ハメス・ロドリゲス(コロンビア)の加入が決まっていて、MFが飽和状態になっていた。

 アンチェロッティが「ディ・マリアだけは出すな」と言ったのは、チームにとって最も重要な選手だと考えていたからだろう。

 主役ではない。当時、表のスターはクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)であり、ガレス・ベイル(ウェールズ)、カリム・ベンゼマ(フランス)だった。ただ、スターだけでチームは回らない。とくにレアルのようなスターをコレクションしてくるようなチームでは、スターの間で潤滑剤となる存在こそが重要だった。

 ロナウドは絶対的エースであり、左ウイングを得意としている。ベイルは右サイドに置かざるを得ない。ディ・マリアは左右どちらもできるウイングとして重宝されていたが、ロナウド、ベイルが揃うと居場所がなくなった。すると、アンチェロッティ監督はディ・マリアを中央で起用した。

 スターにも自ずと序列がある。全員が満足できるポジションと役割に収まる適材適所が理想だが、なかなかそうはいかないものなのだ。誰かを尊重すれば、誰かは必ず割を食う。その時に脇役に徹せられる選手とそうでない選手がいる。

 ディ・マリアは前者だった。むしろ脇役のほうが輝ける。スターを無節操にかき集めてしまうレアルにあって、ディ・マリアこそ不可欠というアンチェロッティの認識は監督として正しく、切実な嘆願に近いものだったに違いない。

<接近戦の名手>

 主役を張れるだけの能力がありながら、脇役として汗をかいてくれる。パリSGでも一時は居場所をなくしかけて中国への移籍話も浮上していたが、結局はネイマールとエムバペを盛り立てる役どころにすっぽりと収まった。

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 接近戦の技巧は抜群だ。相手はディ・マリアをタッチライン際に追い込み、左足しか使わないと知っているのにボールを奪えない。足裏を使った引き技、トリッキーなフットワーク、巧みな体の入れ方を駆使されて、ボールを奪いきれない。

 強引に奪いに行けば足の間を通される。大きなスペースを疾走するエムバペのようなわかりやすさはなく、スタジアムで見ているファンには、ディ・マリアが何をしているのかもよくわからないだろう。

 左足のキックの精度はすばらしく、ピンポイントのアシストや試合を決定づけるミドルシュートもよく決めている。エムバペほどではないがスピードも十分、そして運動量は抜群。守備ブロックの一員として献身的な守備もできる。ときに主役を食う活躍もするが、脇役としてのクオリティの高さが光る名選手である。

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