コロナ禍で働くクルマ「感染者対応搬送車」の現状と今後

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2021年04月19日 07:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
新型コロナウイルスの第3波で、かねてより不安視されていた懸念材料が浮き彫りになった。救急車不足だ。第4波到来が危惧される現在、問題解決の糸口として「感染者対応搬送車」へのニーズが高まっているという。どんなクルマなのだろうか。

○コロナ禍で救急車不足に陥った背景

過去2度にわたって緊急事態宣言が発令されるも、現在進行形で猛威を振るっている新型コロナウイルス。不要不急の外出自粛が求められるなかで、事故やケガの発生件数が減少したこともあり、救急車の出動件数自体には減少傾向が見られる。それでも救急車が不足している原因は、稼働率の低下だ。

新型コロナウイルスへの感染が疑われる患者を搬送するケースでは、救急隊員の感染防止対策や発熱状況の聞き取りなどが必要になる。そのため、現場から病院までの搬送時間が通常よりも長引きがちになる。また、救急車は感染症患者の搬送に特化しているわけでもないので、対策を施してはいても、感染者を搬送した後の消毒作業などに時間がかかっているそうだ。

こうした懸念は以前より指摘されていたが、第1波、第2波を大きく上回る感染拡大によって、あらためて浮き彫りになったわけだ。

救急車不足に陥った自治体の中には、緊急性の低い要介助者の医療機関への通院などをサポートする民間救急搬送事業者に協力を要請したところもあった。しかし、感染症対策のノウハウ不足や従業員のリスク回避、固定客から敬遠されることへの懸念などから、新型コロナウイルス感染者の搬送を実施したのは同事業者全体の2割にとどまっていたという。
○自動車メーカーの取り組みは?

そこで自動車メーカー各社は、自治体向けに「感染者対応搬送車」の提供を開始した。「感染者対応搬送車」とは読んで字のごとく、感染症患者の搬送に特化した車両のことだ。

例えばトヨタ自動車は「JPN TAXI」、日産自動車は「NV350キャラバン」、マツダは「CX-8」などをベースとし、運転席と後部座席の間に隔壁(パーテーション)を設置したり、換気システムを導入するなどした車両を開発している。

しかし、これで救急車不足が解消されたかといえば、答えはノーだ。

なぜなら、各メーカーの取り組みは社会貢献の一環であることから、そもそも提供できる車両台数に限りがある。加えて、感染症対策に統一した規格がなく、隔壁ひとつを取ってみても、鉄、アルミ、FRP、アクリル板など素材が各メーカーで混在しているため、コストや納期も区々といった問題もある。そのため、要望はあっても必要なところに必要な台数が十分に行きわたっていないのだ。
○「感染者対応搬送車」の標準仕様を策定!

そんな中、一般社団法人医療・福祉モビリティ協会(2021年1月15日設立)は、短納期と低コスト化を目指して感染者対応搬送車の標準仕様を策定。試作車を製作したというので早速、実車をチェックしてきた。

標準仕様に対応しているのは、トヨタの「ヴォクシー」「ノア」「エスクァイア」のミニバンシリーズだ。

車種選定の理由として笹川氏は、「売れているクルマですから、車両が入手しやすいこともありますが、サイズ感であったり、皆さんがクルマをイメージしやすいですよね。それに、『感染者対応搬送車』は緊急時に出動しますから、必ずしも運転技術の高い人がドライバーになるとは限りません。その点、これらは5ナンバー車ですから、誰でも容易に運転することができます」と話す。

ここからは試作車の特徴を見ていきたい。

まずは、前席と後席の間に設けられた隔壁だ。試作車では、精密に寸法を測った上で型取りし、鉄板で隙間なく密閉する方法を採用。さらに、運転席側から患者の様子が確認できるよう、中央部に大きなアクリル板を用いた視界を確保してある。「前席と後席の空気の流れを完全に遮断していますので、空気に乗ってウイルスが車内に拡散、感染するリスクを防いでいます」(笹川氏)とのことだ。

実際に乗車して試走してもらったが、気密性の高さは声すら遮断するほどの徹底ぶりだった。そのため、前席と後席の会話はインターフォンを介して行うことになるという。

次に換気システム。試作車はルーフ上に換気扇を装着しているが、これはキャンピングカーにも使われているかなり強力なタイプをアレンジし、取り付けたとのこと。フィルターにはPM2.5も取り除ける集塵性の高いタイプを採用し、車外に排出する空気にも配慮している。

そのほかには、床面に医療現場でも使われる防水性のロンリウムを敷き詰め、簡単に除菌が行えるよう工夫を凝らしてある。また、AC100V用コンセント(300W相当)の電源を備えており、車内で医療機器を使うこともできるそうだ。

気になる加工代は車両代を除いて1台約80万円台。納期も1カ月程度にまで抑えられる見込みだという。現状では、月産10台ペースで製造が可能だそうだ。春原氏は「ベース車両の代行手配や個別の装備など、さまざまな要望にお応えしながら、『感染者対応搬送車』の普及に向けて取り組んでいきたい」とする。

安藤康之 あんどうやすゆき フリーライター/フォトグラファー。編集プロダクション、出版社勤務を経て2018年よりフリーでの活動を開始。クルマやバイク、競馬やグルメなどジャンルを問わず活動中。twitter:@andYSYK。 この著者の記事一覧はこちら(安藤康之)

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