『金田一少年の事件簿』で始まり『俺の家の話』で終わった、ジャニーズドラマ“一つの時代”と『夢中さ、きみに。』に見る新時代

3

2021年04月20日 00:02  サイゾーウーマン

  • 限定公開( 3 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

サイゾーウーマン

1990年から2020年までのテレビドラマの歴史について、3人の脚本家を軸にまとめた一冊、『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)。その刊行にあたって、著者の成馬零一氏に同時代のジャニーズドラマの変遷について書き下ろしてもらった。『金田一少年の事件簿』から始まったというジャニーズアイドルドラマは、今後ドラマ界でどんな道を歩むのだろうか?

『人間・失格』『未成年』野島伸司作品におけるジャニーズの役割

 拙著『テレビドラマクロニクル1990→2020』は、野島伸司、堤幸彦、宮藤官九郎の作品を通してテレビドラマの歴史を綴った年代記(クロニクル)だが、彼らの作品を時系列順に追いかけていくと、ジャニーズ事務所のアイドルたち(以下、ジャニーズアイドル)がいかに重要な役割を果たしていたかを実感し、改めて驚いた。

 たとえば、1994年に発表された野島伸司脚本の学園ドラマ『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』(TBS系、以下『人間・失格』)にはKinKi Kidsの堂本剛と堂本光一が出演している。

 本作は、いじめを苦に自殺した息子の父親が、息子を死に追いやった教師や生徒たちに復讐する悲劇を描いた作品だった。堂本剛はいじめを苦に自殺した中学生・大場誠を演じ、堂本光一は誠に対して同性愛的な感情を抱く影山留加を演じた。

 私立の名門男子中学校を舞台にした本作は、『トーマの心臓』や『風と木の詩』(ともに小学館)といった少女漫画のテイストを学園ドラマに持ち込んだ怪作で、演技経験に乏しい10代の俳優が演じるため、たどたどしい部分もあるのだが、それが逆に生々しい迫力を与えており、思春期の少年に宿る神々しい切迫感は他の追随を許さないものだった。

 『人間・失格』は『高校教師』、『未成年』と並ぶ野島伸司のTBSドラマ3部作といわれる初期代表作だが、『高校教師』では女子高生に投影されていた無垢なる存在への憧れが、本作では少年たちに投影されている。対して『未成年』では、SMAPの香取慎吾が演じる知的障害者のデクがその役割を果たすこととなるのだが、野島が描こうとした無垢なる魂を体現する役割を果たしたのがジャニーズアイドルの少年たちだった。

土9『金田一少年の事件簿』という記念碑

 その後、堂本剛は95年にミステリードラマ『金田一少年の事件簿』(以下、『金田一』)で主演を務める。土9(日本テレビ系の土曜9時枠、現在は土曜10時枠に移動)で放送された本作は、ジャニーズアイドル主演×漫画原作によるティーン向けドラマという方向性を決定付けた記念碑的作品だ。

 チーフ演出を務めたのは映像作家の堤幸彦。MVやバラエティ番組で培った堤作品の映像は、当時のテレビドラマとしては異質なもので、カット数が多い細切れの映像の中、俳優はアニメのキャラクターのように撮られていた。

 同時に堤の映像はドキュメンタリー的でもあり、当時のホラー映画ではやっていた手持ちカメラ一台で撮影される揺れのある映像は、独自のリアリティを生み出し、人工的でありながら生々しい映像を展開していた。堤がここで開花させた映像美学はジャニーズアイドルと相性が良く、アニメや漫画の手法を実写ドラマの中に取り込むキャラクタードラマの嚆矢となった。

 90年代は、木村拓哉を筆頭とするSMAPのメンバーが、月9(フジテレビ系月曜9時枠)の恋愛ドラマや金曜ドラマ(TBS系金曜夜10時枠)の硬派な作品で主演を務めることで、当時はまだ俳優としての評価が低かったジャニーズアイドルの活躍の場を広げ、国民的スターへと上り詰めていく時期だった。

 一方、SMAPが切り開いた「歌もバラエティも俳優も司会も全部やる」という全方位型アイドルとしてキャリアをスタートしたTOKIO、KinKi Kids、V6といったジャニーズアイドルの主演作を引き受けていたのが、日本テレビの土9で撮られた堤幸彦のドラマだった。

『池袋ウエストゲートパーク』で始まったジャニーズのドラマ本格進出

 彼らが出演するアイドルドラマは、当時のドラマシーンにおいては異端の存在だったが、00年代に入ると、大人向けドラマ枠にも影響が広がり、新しい時代のスタンダードへと変わっていく。

 大きな転機となったのが2000年に堤がチーフ演出を務めた長瀬智也主演の青春ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系、以下『池袋』)だろう。本作の脚本家に抜てきされた宮藤官九郎の登場によって、ジャニーズアイドルのドラマ進出は本格的なものへと変わっていき、V6・岡田准一が主演し、嵐・櫻井翔が共演した『木更津キャッツアイ』(同)や嵐・二宮和也が主演で錦戸亮が重要な役どころを演じた『流星の絆』(同)といった数々の名作を生み出すことになる。

 宮藤のドラマに登場する男の子たちは、性欲や暴力性を内に秘めた等身大の存在で、アイドルが演じるには生々しかった。しかし、ジャニーズ事務所は宮藤の男臭いドラマに、所属アイドルを積極的に起用し、彼らは宮藤のドラマに出演して切磋琢磨することで俳優として成長していった。

 その筆頭は、やはりTOKIOの長瀬智也だろう。

 長瀬は00年の『池袋』以降、クドカンドラマの初期集大成と言える落語を題材にした05年の『タイガー&ドラゴン』(TBS系)、向田邦子賞を受賞した10年の『うぬぼれ刑事』(同)に出演。ドラマ脚本家としての宮藤は、長瀬と共に成長してきたと言える。そして今年の冬クールに作られたドラマ『俺の家の話』(同)は宮藤と長瀬にとって集大成と言える作品だった。

 長瀬が演じたのはピークを過ぎた42歳のプロレスラー・観山寿一。車椅子生活となった父親の介護と、家業の能楽師を継ぐために寿一が実家に戻る物語は、3月でジャニーズ事務所を退所する長瀬のバックボーンが強く反映された作品で、プロレスラーをアイドルに置き換えて見れば、そのまま長瀬の物語だったと言えるだろう。

 寿一が、父を看取り能楽師として家業を継ぐのではなく、突然、命を落とし、家族を見守る守護霊のような存在となってしまう結末は、視聴者に衝撃を与えた。自分を顧みずに家族のために生きた末に、永遠の存在となる寿一の姿は、ジャニーズアイドルと長瀬の姿を寓話的に描いていたように、筆者には見えた。

 ともあれ、『俺の家の話』は宮藤とジャニーズアイドルが積み上げてきた歴史の到達点であると同時に、一つの時代の終わりを告げるものだった。

 堤や宮藤と並走してきたジャニーズアイドルが、40代に入り、立ち位置が変わりつつある中、現在のジャニーズ事務所の課題は、10代20代の若いジャニーズアイドルたちに活躍の場を用意し、世代交代を果たすことだったが、その試みは少しずつ成果を見せ始めている。

 たとえば『俺の家の話』と同じ冬クールにMBSのドラマ特区で放送された深夜ドラマ『夢中さ、きみに。』は、関西ジャニーズJr.内ユニット・なにわ男子に所属する大西流星が出演し、鮮烈な印象を残した。

 本作は新進気鋭の漫画家として注目される和山やまの同名漫画(KADOKAWA)をドラマ化した青春ドラマで、大西が演じた林美良は不思議な魅力を持った天使のような少年だ。林と女子生徒の松屋めぐみ(福本莉子)の関係は、男女の恋愛というよりは、推し(アイドル)とオタク(ファン)の関係にように見えた。

 芥川賞を受賞した宇佐見りんの小説『推し、燃ゆ』(河出書房新社)を筆頭にアイドルとファンの関係を通して、新しい世界像を語ろうとする物語が近年増えているのだが、その時にジャニーズアイドルが重宝されることは間違いないだろう。

 昨年は、ジャニーズJr.内グループ・HiHi Jetsに所属する高橋優斗が『#リモラブ〜普通の恋は邪道〜』(日本テレビ系)、King&Princeの高橋海人が『姉ちゃんの恋人』(フジテレビ系)といったプライムタイムの連続ドラマに出演。5月から始まる連続テレビ小説『おかえりモネ』(NHK)には、同じくKing&Princeの永瀬廉が出演することが決まっている。

 LDH等の新興勢力の台頭によって、ここ数年は存在感が薄かったジャニーズアイドルだったが、すでに若手の逆襲が始まっている。今後、彼らがかつての堤や宮藤のような新世代のクリエイターと組んでドラマを作ることができれば、ジャニーズアイドルの新時代が到来するはずだ。
(成馬零一)

※『テレビドラマクロニクル1990→2020』4月22日まで先行販売中。詳細・購入はこちら 

    ニュース設定