強敵と書いて友と呼ぶーー科学漫画『Dr.STONE』の芯にある、ジャンプ漫画の哲学

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2021年04月20日 10:31  リアルサウンド

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 稲垣理一郎(原作)とBoichi(作画)が手がける『Dr.STONE』(集英社)は、「週刊少年ジャンプ」で人気連載中の科学漫画。舞台は全人類が突然石化して約3700年後の未来。人類の文明が滅びた大自然の中で目覚めた高校生の天才科学者・石神千空は、同級生の大樹らと共に石化した人々を蘇らせて科学王国を築き上げる。そして、全人類が石化した謎を究明するために、科学船ペルセウスに乗って仲間たちと共に冒険の旅に出る。


関連:【画像】スタンリーとゼノが表紙に登場した『Dr.STONE』18巻


 科学が題材ということもあって、本作は徹底した論理的思考で作られているのだが、堅苦しさがないのは、主人公の千空が論理的思考を持った頭脳派でありながら、少年漫画の主人公らしい大胆不敵な性格だからだろう。


 人類滅亡後の世界を舞台にしながらも明るく楽しい本作は、『ONE PIECE』に匹敵する前向きな気分になれるジャンプ漫画である。


以下、ネタバレあり。


 最新刊となる第20巻では、物語が新たな展開を向かえる。


 石化解除液を作るために必要な大量のコーン(から採れるアルコール)を求めてアメリカに上陸した千空たちは、Dr.ゼノが率いるアメリカの科学王国と衝突する。激しい戦いの末、千空たちはゼノの捕縛に成功したが、科学船ペルセウスを制圧されてしまう。人質となった仲間たちを守るために、メカニックのブロンディと交渉することになった千空は、石化解除液のレシピを伝え、アメリカを100万人の石化を解くためのコーンシティとして中立特区にしないかと持ちかける。


 ブロンディはゼノが連れ戻すまでという条件付きで千空の申し出を受け入れるが、狙撃手のスタンリー・スナイダー率いる特殊部隊は、ゼノ奪還のために千空たちを空母で追撃。千空たちは奪い取ったゼノのボートでスタンリーたちから逃走しながら、石化光線発信の地である南米大陸へと向かうことになるのだが、ここで面白いのがゼノの立ち位置だ。


『Dr.STONE』18巻(ジャンプコミックス)


 千空たちが石化光線の謎について話していると、ゼノも参加し「サイエンス・イズ・エレガント」と言って千空と科学談義で盛り上がり、しばらくすると2人は巨大なシャボン玉を作り出す。一見遊んでいるように見えるが、シャボン玉を地球儀に重ねることで石化光線が地球を包み込む現象を再現していたのだ。


 ここでゼノは「科学屋にとって重要なのは誰から見ても客観的に同じ現象が再現されるということ――」と言う。これは本作が描き続けている重要なテーマである。千空、ゼノ、クロムの科学談義は小難しい理屈の応酬に見えるが、3人が盛り上がっている様子を丁寧に拾い上げているため、議論という行為自体がとても楽しそうに見えてくるのが、この漫画の魅力である。


 この楽しい科学談義は、新キャラのDr.チェルシーが加わることで一気に加速する。チェルシーは10代にして若い天才地理科学者で、ゼノ曰く「彼女の頭の中には地球が丸ごと収まっている――」とのこと。しかし、どこか抜けたドジっ子な所もあり、石化から目覚めた後、ゼノたちに合流しなかったのは、ゼノたちの拠点が書かれた看板の文字が(メガネがなかったので)読めずに、そのまま南へ進んでしまったのだった。


 スタンリーを振り切れる裏ルートはないか? と聞かれたチェルシーは、エクアドル北部から上陸して山を超えるルートを提示する。しかし山を超えるにはバイクが必要となる。自分でも無茶だとわかっているチェルシーは「いや無いけど」と付け足すのだが、そこで千空は「無えなら――」「作る!!!」と言って「バイクを作るためのロードマップ」を一気に提示する。その後、チェルシーの案内でゴムの木を見つけ出し樹液からゴムを精製しタイヤを作ることになるのだが、面白いのはゼノも一緒に手伝うところ。


 「科学にはジーマーでウソつかないでしょ?」と言ってメンタリストのゲンが小型ナイフを渡す場面に象徴されるように、科学を信じる人間となら解りあえるということを、旅の中で少しずつ見せていく。


 発明したバイクで、追跡を振り払った千空たちは“リモートワーク”と称して科学船ペルセウスに残った仲間たちに、石化装置の解析を頼む。そのために使うのが、何とモールス信号を用いた手動のFAX! 高級時計会社ロデックスの跡地を伝え、そこで石化していた時計技師ジョエルを目覚めさせることで石化装置の内部構造を調べることに。今まで謎だった石化現象の謎がじわじわと解き明かされていく。


 石化装置のことも気になるが、何よりこの巻で印象に残るのは科学談義で盛り上がる千空とゼノの姿だろう。ゼノは敵国の捕虜であり、天才的頭脳を持った油断ならない相手だ。しかしゼノは、石化光線の謎を解く時やバイクを作る時は立場を忘れて千空といっしょに楽しんでしまう。この目的よりも行為自体が楽しくなって夢中になる姿は、ジャンプのバトル漫画で何度も見てきたものだ。


 戦いの中で敵のことを理解する関係(強敵と書いて友と呼ぶ)を科学者同士の議論で描いた、ジャンプ漫画ならではの心が通じ合う場面である。


■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。


(文=成馬零一)


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