公式練習から一転したスーパーGT第1戦の予選結果。タイヤ選択も含めたGRスープラ勢の強さ

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2021年04月21日 08:11  AUTOSPORT web

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2021スーパーGT第1戦岡山 決勝スタート前にポールポジショングリッドへ向かうKeePer TOM’S GR Supra(平川亮/阪口晴南)
GRスープラ勢が上位を独占するという2021スーパーGT第1戦岡山の予選結果は、パドックの大方の予想とは違うものだった。約1カ月前に同じ岡山で行われた公式テストでは、「ややNSXが有利、僅差でGRスープラ、その後にGT-R。ただし、3車の差は昨年より接近」といった印象だった。

「本番で急に速くなる」のは、どちらかと言うとホンダのお家芸だったが(とくに2018年)、今回はトヨタがそれをやってきたかたちだ。Q1でトヨタ勢が上位を固め、ホンダのブリヂストン装着車3台、GT-R全車が敗退と、完全に真っ二つに分かれている。

 予選結果だけ見ると『GRスープラの圧倒』だが、テスト時の雰囲気からそこまでアドバンテージがあったようには見えなかった。昨年同時期の岡山公式テストでは、全セクターでNSXがベストタイムを刻み、なおかつシーズンインしてからも、「GRスープラはハイダウンフォースコースに弱点あり」と見られていた。

 基本的に車両開発が凍結されている今季も勢力図は大きく変わるはずはないのに、「なぜ?」と首をひねる関係者も多かった。そこで、さまざまな意見や事象から本誌なりの分析を試みてみよう。

 まず、これはテスト時もその傾向が見られたことだが、GRスープラは燃料リストリクターを絞っても、そのぶんのロスが他車と比べて少ない。今回、安全性の問題から、GT500は全車燃料リストリクターダウンで走行したが、GRスープラはライバルよりスピードダウン量が少なく、「燃リスダウン時の何かしらの対策が、ほかよりできているのでないか」という声があった。

 直線でのアドバンテージはとくに決勝で発揮され、チェッカー後は「GRスープラを抜けない」というライバルドライバーの不満が噴出したという。

 また、昨年のGRスープラはもてぎでの弱点を露呈したため、今季はブレーキング時の車両姿勢の改善をはじめとした対策を施してきている。もてぎやSUGO、オートポリスにはそれが発揮される可能性が高いようだが、今回の岡山でもそれが少しは活きたのかもしれない。

 結果、Q1のセクターベストはすべてGRスープラがトップという結果になった。ただし、トヨタ陣営の対策だけでそれが成立したわけではなく、ライバルの失速もそれを手助けしたかたちとなったようだ。

 STANLEY NSX-GTは予選にかけては大きなセットチェンジを行っていないものの、公式練習時とは違うフィーリングになってしまい、アタックも若干のロスがあった。ARTA NSX-GTは午前中からグリップ不足に苦しみ、前週の全日本スーパーフォーミュラ選手権で優勝して勢いに乗る野尻智紀をもってしてもQ1突破が叶わなかった。また、同様にAstemo NSX-GTもセットが決まらずタイムを出せずに終わっている。

 ニッサン勢では、MOTUL AUTECH GT-Rがアタック直前にマシンが跳ねてしまい、さらにギヤのトラブルが発生。そしてカルソニック IMPUL GT-Rは、Q1を担当した松下信治いわく「(公式練習から予選までの)路面の温度変化に応じてタイヤのパフォーマンスが変わり、それに翻弄された」という。

■各車の差をさらに増幅させたタイヤ選択と岡山のコース特性
 このようにトヨタ勢の対抗馬となりうるマシンたちは、軒並み何かしらの原因があって、本来のパフォーマンスを発揮できずにいた。

 各車の状況をさらに増幅させたのがタイヤ選択である。ブリヂストンユーザーが今回の予選で履いたスペックを単純な分け方で表現するならば、全GRスープラ勢とSTANLEY NSX-GTがソフトを選択し、ほかのブリヂストン車はハードを選択したという。

 基本的には持ち込みは2スペックで、公式練習時にそのふたつを履き比べるが、トヨタ勢はどうやら持ち込んだなかでは『ハード側』(ただし、8、17、12号車に対して相対的にはソフトになる)を選択した模様。

 タイヤの性能は『ハード』『ソフト』だけで分けられるような単純なものではなく、コンパウンド、構造、形状なども細かく違い、さらに同じゴムでもそれ自体の剛性によって高速コーナーでの旋回性能が変わってくるという。構造でも一発に有利なものと、ロングに強いものなどもあり、単純比較できない複雑なものだ。

 そのため持ち込みの選別だけでなく、アタックの瞬間に何を履くかは、コンディションを細かく予測することが必要になってくる。ところが春の岡山は路気温の変化が大きく、それを困難にさせる。

 テスト時は“冬”に近く路温変化は1日最大8℃だったが、本番は“春”であり予選日は12℃と広がった。わずかな温度変化でタイヤのパフォーマンスを発揮するレンジが変わるスーパーGT用タイヤは、それぞれの温度領域で勢力図が変わってしまう。

 さらに岡山のコース特性は、ほかのコースと比べて全体のタイム変化が不規則な動きを示すことが多く、「路面にラバーがのるに従って全体のタイムが頭打ちになるかと思えば、いったん落ち着いた後にまた上がりだす」現象もあり、「岡山はよく分からない」と笑うエンジニアもいるのだ。

 これに関しては「ラバーがのった後、剥がれるのも早いのでは」と語るタイヤメーカーもいるが、それは完全に解明できてはいない。

 このように読みづらい季節、コースを予測して持ち込んだなかで、GRスープラ勢が適切なスペックを選択したことがリザルトに表れたのかもしれない。ただし、タイヤ単体で見れば「ハードもソフトもそんなにタイム差はないはず」(ブリヂストン山本貴彦氏)とのことで、これに先に挙げたトヨタ陣営の対策も関係してくるのだろう。

 関係者のなかにはQ1落ちしたなかで「○号車は温度変化に弱い」と、号車特有の特性を挙げる者もいる。また、トヨタ勢の横のつながりの強さも武器になっているようで、それは「タイヤ選択にも表れている」という声もあった。

 そのうえで、「今回の予選はトヨタの引き出しの多さが結果に表れているのでないか」と考察を語る者もいる。その差はわずかではあるが、勝者と敗者がはっきりと分かれるスーパーGTは、今年もその戦いはシビアなものになるようだ。

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