電気自動車は「動く蓄電池」として有能? 「ホンダe」で実験!

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2021年04月21日 08:11  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
電気自動車(EV)の売り文句に「動く蓄電池」というのがある。EVは走行用のモーターを回すために大容量のバッテリーを積んでいるが、その電力を使えば電化製品を動かしたり、家全体に電気を供給したりすることが可能なので、停電になった際などには電力の供給源=電池としても使えるという意味だ。ただ、実際に蓄電池としてEVを使ったことのある人はあまり多くないはず。本当に使えるのか、あるいは手順が複雑なのではないかと思うと、なかなかハードルは高い。そこで、ホンダのEV「Honda e」(ホンダe)で実際に試してみた。

○V2Hを体験

ホンダeはホンダが2020年10月に発売したEV。容量35.5kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載しており、フル充電での航続可能距離(WLTCモード)はベースグレード(451万円)が283キロ、上級グレード「Advance」(495万円)が259キロだ。特徴はたくさんあって、例えばレトロでポップな外観、タッチパネルがずらりと並んだ先進的なインパネ、後輪駆動(RR)のパッケージング、最小回転半径4.3mという小回りの利き具合、聞き取り能力の高い車載AIなどに目が行きがちなのだが、今回はホンダeの「つながる能力」に注目したい。

ホンダではホンダeを「シームレスライフクリエーター」と表現し、人間の暮らしや社会とシームレスにつながる存在だと位置づけている。電気で走るEVとして、家や家電製品につながる能力は果たして、どのくらいのものなのだろうか。

今回は栃木県の那須高原にある「Looop Resort NASU」を訪問し、乗り物を家につなげて電力を供給する「V2H」(Vehicle to Home)を実際に使ってみた。

V2Hを使うには、ホンダeのほかにV2H用の機器を購入・設置する必要がある。ループリゾート那須にはニチコンの機器「EVパワーステーション」が設置してあったが、これの価格(施工費込み)がスタンダードモデルで69.8万円〜、プレミアムモデルで107.3万円とのこと。少し高いが、補助金の対象になるという。この機器を設置すれば家とEVをつなげられるので、EVを充電したり、逆にEVから家に給電することが可能となる。

今回は停電時を想定し、まずは電力系統からホール棟への電力供給をシャットダウン。その後、EVからの給電を開始した。

EVから給電を始める手順は、想定していたよりも簡単だった。まず最初は、家側からの電力供給が途切れて動かなくなったV2H機器にホンダeからちょっとした電気を送ることから作業はスタートする。ホンダeのイグニッションをONにしてシガーソケットにケーブルを差し込み、それをV2H機器につなぐのだ。

V2H機器の電源が入ったところで、今度はホンダeから家で使う電力を取り出す準備だ。といっても、やることといえば、ホンダeの充電口にV2H機器のコネクターを差し込み、機器側の「放電」ボタンを押すだけだ。

これでホール棟に電力が戻った。ホンダeのイグニッションはOFFにしておいてもOK。もうV2H機器が動いているので、シガーソケットからケーブルを抜いてしまっても問題ない。

○どのくらいの電力が使える?

気になるのは、ホンダeから電力供給を受けた建物で、どのくらいの文明を謳歌できるのかだ。なんとなく、すぐにバッテリー残量が減っていきそうなので、なるべく電気を使わずに過ごさなければならないのではないかと思っていたのだが、今回の体験イベントでホンダは、2台のホットプレートを準備し、7〜8人で焼き肉を実行するという暴挙(?)に出た。

ホンダeがホール棟への給電を開始した時のバッテリー残量は65%。3時間弱の焼き肉が終わったころ、バッテリーは残り45%を表示していた。つまり、消費したのはホンダeのバッテリーで20%分の電力ということになる。

これは多いのか少ないのか。ちなみに、この日の昼にホンダeに試乗した際は、バッテリー残量100%で出発し、那須高原のアップダウンで加減速を繰り返しつつ1時間弱のドライブを楽しんだ結果、バッテリー残量が75%まで減っていた。移動と焼き肉を比べるのは無意味かもしれないが、この対比を見て、車両重量1,540キロのホンダeと体重70キロのドライバーによる移動が、いかにたくさんのエネルギーを消費しているのかを痛感した次第だ。

もちろん、焼き肉などはやめておいて、お湯を沸かしてレトルト食品を食べたり、電子レンジで何かを温めて食べるなどの食事にとどめておけば、かなりの電力を温存できたはず。これなら、災害などで停電が発生した際にも、けっこう頼りになるのではないかと感じた。

キャンプに出掛けた際や急な停電時にホンダeが役に立つのは理解できた。それでは今後、EVを蓄電池として使う人が増えれば、どんな未来が待っているのか。ひとつの方向性として考えられるのが、「V2G」(Vehicle to Grid)の実現だ。

クルマ(Vehicle)と電力系統(Grid)を双方向充電器を介してつなぎ、最も電力コストの安い(あるいは最も発電しやすい)時間帯にEVを充電したり、電力需要が高くなったら逆にEVから系統へ電気を戻したりして、電力需要の平準化を目指すというのがV2Gの考え方だ。風や太陽光を活用する再生可能エネルギーは、時間帯や天候によって発電量に変動があるが、EVを系統につなぎ、電力を入れたり出したりすることができれば、インフラの一部としてクルマを活用できる。こんなネットワークを大規模に構築できれば、ピーク需要に合わせて能力過多の発電所を持っておく必要はなくなるはずだ。ホンダは欧州でV2Gの実証実験を始めているという。

それなら、各家庭に本当の蓄電池を置いておけばいいのではないかとも思う。蓄電池なら、EVよりは確実に安く手に入る。ただ、EVほど容量の大きな家庭用蓄電池はないようだし、なにより、EVであれば移動手段に使うことも可能だ。

焼き肉もキャンプもV2Gも走行も、当然ながらホンダeだけの特質ではない。どんなEVでも蓄電池として使えるし、EVを純粋に蓄電池としてみれば、走りの味付けなどは関係なくなるから、バッテリー容量の多寡くらいしか違いはなくなってしまう。ホンダeよりも大きなバッテリーを積んだEVは結構あるし、容量はそれなりで安いEVを買ったとしても、恩恵は十分に得られるかもしれない。

ただ、ホンダeには最初に挙げたように注目すべき点がたくさんある。蓄電池としての使い方は、走り、デザイン、エンターテインメント機能など、数ある特徴のうちのひとつなのである。(藤田真吾)
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