クリスタル・ケイ“人間としての壁”に悩んだ過去も 救われた友人の一言

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2021年04月22日 11:30  AERA dot.

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写真クリスタル・ケイ [撮影/写真部・東川哲也、ヘアメイク/HAYATO TAKEDA (PUENTE Inc.)、スタイリスト/NARUMI OKAMURA、衣装協力/TENDER PERSON、H>FRACTAL(R)、DUALISM、IF8]
クリスタル・ケイ [撮影/写真部・東川哲也、ヘアメイク/HAYATO TAKEDA (PUENTE Inc.)、スタイリスト/NARUMI OKAMURA、衣装協力/TENDER PERSON、H>FRACTAL(R)、DUALISM、IF8]
 2019年にデビュー20周年を迎え、表現力や歌声に磨きがかかっているクリスタル・ケイ。今年はキャリア初のカバーアルバム「I SING」リリースするなど、積極的な活動を見えている。そんな順風満帆に見える彼女だが苦悩した時期もあった。

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*  *  *
 20代後半、自分のアイデンティティーを揺るがすような危機に直面したことがあるという。13歳で歌手としてデビューし、無我夢中で進んできた。でも、デビュー10周年が過ぎてから、「最初の頃に思い描いていたことが全然達成できていないな」「今はよくても、この先の10年、20年、大丈夫かな?」など、自分の人生の歩み方に自信が持てなくなった。

「20代後半って、誰にとっても迷いやすい時期なんだと思いますね。もう若くないカテゴリーに入っていくし、『このままでいいのかな?』『これからどうするんだ?』って私もいろんなことに迷っていました」

「当時ぶち当たっていたのは、歌手としての壁?」と聞くと、静かに首を横に振った。

「“人間としての壁”ですね。たぶん、人生でのぼらなければならないステップの1段目だった(笑)。そのタイミングで私は、前から行ってみたいと思っていたニューヨークに拠点を移して、たった一人で、自分のずっとやりたかった音楽を追求することにしたんです」

 目標は、現地のレーベルとの契約だった。でも、世界中からアメリカンドリームを夢見て集まった人たちの中に自分を置いてみると、襲ってきたのは想像以上の孤独だった。

「ニューヨークで夢を追いかけて生き残れる人はほんのひと握りです。うまくいかないことだらけだったけど、でも、初めていろんなことを考える時間ができた。日本にいたら、自分を客観的に見ることができなかったけど、ニューヨークでは、初めて自分とちゃんと向き合えたんです」

 徐々に同世代の友達ができていき、深い話をするようになると、誰もが、仕事は違っても同じ気持ち、同じ悩みを抱えていることもわかった。そんなある日、友人の一言が、壁を乗り越えるヒントをくれた。

「『日本で歌手として10年以上のキャリアがあって、日本語も英語も韓国語もできて、歌のテクニックがあるんだから。もっとそれを誇りに思ったほうがいいよ』って言ってくれた友達がいて、目から鱗でした。私はそれまで、『このサウンドがカッコいい』とか、『洋楽っぽい曲しか歌いたくない』とか、『自分が〜』『自分は〜』って、自分にも周囲にも、ずっと自分の理想ばかり押し付けていた。でも、その子の一言で、自分の日本でのキャリアは、もっと讃えてあげてもいいものだと思ったし、自分が歌ってきたJ‐POPの良さにも気づけたんです」

 それまでは、自分のためだけに歌ってきた。でも、リスナーも同じような壁にぶつかっているのなら、これからは、そういう人のために歌えばいい。みんな同じ人間、みんな一緒なんだ。そんなメッセージを、歌で代弁していきたい。「何のために歌うのか」が初めてクリアになった瞬間、大人の階段を一段、上がれた気がした。

 渡米から2年後に帰国。2019年には、友人である城田優さんの誘いで、ミュージカル「ピピン」に出演し、初めてのミュージカルながら読売演劇大賞優秀女優賞も受賞した。表現者として成長を遂げる中、最近はまた歌に対する意識に変化が訪れたらしい。

「歌に関して、“次の段階にシフトできたかな”という瞬間は、これまでにも何回かあるんです。ただ、最近の変化としては、これまでは“こんなふうに歌いたい”というテクニックのほうでいっぱいいっぱいだったのが、最近は、“人を楽しませたい”ってことにフォーカスするようになった」

 それは、コロナ禍によって気づけたことでもある。

「1年前は、ライブも全部中止になって、楽しみにしていたミュージカル(『ヘアスプレー』)も中止になって、正直、最初の頃は落ち込みました。仕事にやる気も起きないし、ただ食べて、飲んで……。プータローみたいな状態だったんです(笑)。でも、歌手仲間に誘われて、『医療従事者の人に歌でエールを送ろう』というプロジェクトなどに参加するうちに、少しずつ再生できたというか……。歌の力や、人のつながりの素晴らしさを感じて。私自身が音楽に励まされたんです」

 歌が誰かにとってのパワーになること、みんなが必要としてくれていることを痛感した。

「私にできることは歌うことだけ。私の生きがいは歌なんだと再認識できた機会だったのかなと思います。あと、表現力うんぬんに気を取られるよりも、楽しく歌いたいと思ったのは、当たり前にライブができなくなったことも大きかったかもしれない。思い切り声を出して騒げるライブはできていませんが、クラシックアレンジの静かなライブでも、お客さんの熱量が半端なかった。騒がなくても、叫ばなくても、楽しんでくださっていることは伝わってきたので」

 コロナ禍で苦しんでいる人、困っている人が多いことはわかった上で、コロナ禍だからこそ“本質的な何か”に気づけたような気もしている。そのことを、クリスタルさんは、「世界中の、いろんな角度からのクレンズ(cleanse=洗浄、浄化)」と表現した。

「自分たちにとって何が本当に大切なのかを誰もが考えた時期だったと思います。困っている人を思いやるとか、当たり前のことに感謝するとか、環境を見直すとか。今は、人類全体が別の次元にシフトしなければならない時期なのかも。いろんな不正や過ちが暴かれているのも、これまでの膿(うみ)を出しているのかな、と」

(菊地陽子 構成/長沢明)

クリスタル・ケイ/1986年生まれ。99年デビュー。「Boyfriend −part II−」「恋におちたら」などのヒット曲でブレーク。2015年にCrystal Kay feat. 安室奈美恵「REVOLUTION」、「何度でも」を含むロングヒットアルバム「Shine」をリリース。19年アーティスト活動20周年を迎え、トニー賞4部門受賞のブロードウェーミュージカル「PIPPIN」の日本版にも出演。読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。

>>【後編/クリスタル・ケイ「J‐POPを全力でリスペクト」 カバー楽曲の制作秘話】へ続く

※週刊朝日  2021年4月30日号より抜粋

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