「優秀な社員から辞める」自業自得──希望退職という名の”企業の自殺”

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2021年04月23日 07:22  ITmedia ビジネスオンライン

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写真【画像】「年長者のリストラ」の手段となりやすい希望退職制度
【画像】「年長者のリストラ」の手段となりやすい希望退職制度

 「希望退職を募ると辞めてほしくない人から手を挙げる。この事態をどう防げばいいのでしょうか?」



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 こんな相談を「またか……」というほど聞かされる日が続いています。時には経営者が、時には人事担当者が、あるときは“現場”の人たちが「辞めてほしい人は居座り、優秀な人ほど辞めてしまう」と嘆いています。そもそも希望退職を「年長者のリストラ」の手段にしていること自体が問題なのに──実に勝手です。



 東京商工リサーチが3月31日に公開した「早期・希望退職実施状況」によると、2021年1〜3月に早期・希望退職者を募集した上場企業は41社(前年同期23社)で、前年同期の約2倍のペースで推移していることが分かりました。



 人数も既に9505人を数え、前年同期(4447人)の2倍以上。リーマン・ショック直後の09年(1万60人)より若干少ないとはいえ、今後はさらに増えていくことが予想されています。



 今回の「年長者のリストラ」がリーマン・ショック時と大きく違うのは、赤字リストラだけではなく、「コロナを言い訳にしている」企業が少なくないという点です。



 実は、新型コロナウイルスの感染拡大前から「年長者は今のうちに切っちゃえ!」とばかりに黒字リストラが増えていました。「同一労働同一賃金」が法制化され、「70歳までの雇用義務化」も実現を見据えているので、「人=コスト」と考える企業は「コストの高い年長者には辞めてもらいたい」が本音なのです。



 そこに「コロナによる事業再編」だの「コロナの影響が長引きそう」だのという言い訳を得て、希望退職のターゲット年齢を下げ、募集人数も拡大させています。



 思い起こせば昨年、ファミリーマートが40歳以上の社員を対象に800人の退職者を募集したところ、予想を上回る1111人の応募が殺到し、「そのうち86人は業務継続に影響がある」として、制度を利用した退職を認めず、引き留めたと報じられました。



 「86人は業務継続に影響がある」、業務継続に影響がない人は辞めていい、というのはリストラリストの存在の肯定です。もっともそういうものが存在することくらい誰だって分かっているけど、「86人は業務継続に影響がある」という文言が企業側から出るとは……あまりに露骨です。これを「経営」と呼べるのでしょうか?



 経営とは「人の可能性」を信じることなのに、その可能性より目先の「カネ」を優先する企業が増殖している。「人は信頼される」からこそ、その人を信頼するのであって、自分を信頼しない、コストとしか見ない会社を「優秀な人」が捨てるのは、ごくごく自然の摂理です。



 ましてやコロナ禍では、多くのビジネスパーソンが「うちの会社は大丈夫なのか?」と先行きの見えない不安に翻弄されている一方で、「もっと頑張りたい、もっと活躍したい、もっと成長したい」という内的なエネルギーを高めています。



 そんなタイミングで、「○歳以上の社員を対象に早期退職者を募集します!」などと告知され、「○歳以上の人は、順次面談をします!」などというメールが、ピロリンと来れば、「退職金の増額分が減らされる前に辞めよう」と決断する人が増えることくらい、経営者なら分かっているはずです。



 特に50代になると、自分の仕事の質には「まだまだ高められる」と思える一方で、体力の衰えはありとあらゆる場面で痛感させられるのですから、「あなたにはまだいてほしい」と言われたところで、馬の耳に念仏? のれんに腕押し? 聞く耳を持つわけがありません。



 私はこれまで全国津々浦々1000社以上の企業を、取材やら講演会やら訪問しているのですが、その中の多くが希望退職制度を設けていました。しかし、同じ制度でも「年長者のリストラ」の手段にしているか、「社員の権利のための制度」にしているかで、社員の反応も会社の空気も全く違います。



 「年長者のリストラの手段」にしている企業は前述の通りです。一方、「社員の権利のための制度」としての希望退職制度を設けている企業は、社員を尊重し、「人の可能性を引き出す」さまざまな仕組み・制度をきちんと作っている。つまり、希望退職制度もその中の一つにすぎません。



 今回のコロナ禍で以前からあった希望退職制度の枠を広げた会社のトップがこのように話しました。



 「会社を取り巻く環境は、極めて厳しい状況です。コロナの影響もあって、今後はますます競争環境は激化していくでしょうし、会社として厳しい決断を下すこともあるかもしれません。そのことは、社員にちゃんと伝えていくつもりです。でも、厳しくても冷たい会社にはなりたくない。『厳しいけど、みんなで頑張ろう!』と一丸になれる組織作りが、求められているんです」



 この会社では20年以上の歳月をかけて、さまざまな「機会」を作ってきました。「他者から正当に評価される機会」「能力発揮の機会」「昇給の機会」「昇進の機会」「新しい仕事にチャレンジする機会」といった機会の一つに、「早期・希望退職できる制度」を設けています。



 そして今回トップは、「リストラは絶対にしない」と社員に繰り返しメッセージを送り、社員の不安を軽減するための対話も繰り返し、その一方で「あくまでも本人の選択のひとつ」として希望退職の対象者を広げました。



 コロナの影響が続く期間もいくつか想定し、それによって企業戦略のプランも分け、社員と協働する組織作りを続けています。そのような「経営」をしていても、やはり外で自分の能力を発揮したいと思う社員はいるし、その権利を奪うことはできません。退職する「卒業生」にも、「わが社で働いたプライドを持ち続けてほしい」という願いで、希望退職を拡大させたのです。



 “Power in Organizations”──これは、米国の社会学者であり、経営コンサルタントとしても広く活躍したロザベス・モス・カンター米ハーバード大学経営大学院教授が提唱した理論で、「その個人が置かれた環境が、態度や行動を創り出す」という考え方です。



 「近代資本主義を擁護する人も批判する人も、職務が人を作るという点では意見が一致している。アダム・スミスもカール・マルクスも、仕事での経験が人間の態度や行動を形作っていることを認識している。もしも、職務が人を創り出すとするなら、企業は現代の人間の生産者である」とカンター氏は説きます。



 そして、行動や態度に影響を与える環境要因として、機会・権力(裁量権)・数(割合)の3要素を示しました。これらは独立に存在するのではなく相互に関連し、3要素を整えることができれば、個人の能力を最大限に引き出す職場になるとし、Power in Organizationsを提唱したのです。特に「機会がある」ことは、極めて重要です。「機会がある」ことでこそ、個人のモチベーションは高まり、逆に「機会がない」ことは、個人のモチベーションを低下させます。



 つまるところ、希望退職を募って「辞めてほしくない社員から応募が殺到した」企業は、コロナなどなくても淘汰される企業だった。社員のモチベーションは慢性的に低く、会社へのエンゲージメントも低い、生産性の低い会社だった。たまたまそれが「コロナ禍」で顕在化しただけにすぎないのではないでしょうか。



 さらに、階層組織では、上から見下ろすより、下から見上げる景色の方が「さまざまな局面」が見えるので、「コロナ」を言い訳に、年長者のリストラの手段として希望退職を募れば、若手は「自分もコストとしてしか見られていない」と思うし、「やがて自分も切られる」とやる気が失せる。年長者を雑に扱えば、企業全体の力もなえていくのです。



 リストラで短期的に企業が救われたとしても、長い目で見ればアウトです。希望退職などと聞こえがいい言葉を使おうと使うまいと、リストラは「企業の自殺」に等しい。希望退職で会社が再建できると考える経営者の人たちには、ぜひともその先に何があるのかを教えてほしいです。


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