コロナで食生活を考え直した人は必見! より良い食べ物が身の回りに流通するためにできること

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2021年04月23日 11:11  ダ・ヴィンチニュース

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写真『有機農業で変わる食と暮らし ヨーロッパの現場から』(香坂玲、石井圭一/岩波書店)
『有機農業で変わる食と暮らし ヨーロッパの現場から』(香坂玲、石井圭一/岩波書店)

 新型コロナウイルスの感染拡大が、食生活を見直す契機になった人は多いはずだ。実際、「免疫力」を気にかけて発酵食品を多く摂るようになったり、野菜の摂取量が多くなったり、即席麺の需要が増えたりというように行動や意識に変化が生じた人は少なからずいることが様々なリサーチによって明らかになっている。

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 惣菜や加工食品だと実感はうすれてしまうが、「食べ物」というのは「物」である以上に「生命」だ。「物」と考えてしまうと、to doリストにならぶタスクのようになってしまう。『有機農業で変わる食と暮らし ヨーロッパの現場から』(香坂玲、石井圭一/岩波書店)は、人の感覚を醸成する環境の大切さを再認識させてくれる1冊で、有機農産物が日常となっている欧州の事例から、日本の有機農業の未来を考察している。

 著者2人は農林水産省の研究委託事業として2018年からドイツ・オーストリア・フランスにおける有機農業の動向分析を実施してきた。日本では、2014年に「有機農業の推進に関する基本的な方針」でおおよそ2018年までに有機農業を実施する農地の比率を1%にするという目標が設定されたが、0.5%ほどにとどまっている。しかし、今年に入って2050年までに25%にするというさらに高い目標が掲げられたという。一方、EU圏内でも特に有機農業に熱心なオーストリアは、2018年時点で24%という比率を達成している。何でもかんでも外国を見習えばいいわけではないが、これだけ大きな違いを私たちはどう捉えるべきなのだろうか。

欧州の有機農業の躍進というと、生産者数、生産や販売の「量」に目が行きがちだ。しかし、「量」の原動力になっているのは「範囲拡大」と「質的変化」であり、それを支えるのは「人材」とその結びつきである。

 本書は、ヨーロッパ数カ国で有機食品が「高級志向で特別な選択肢」から「誰しも考え得る日常的な選択肢」となった過程に特に焦点をあてている。筆者が印象に残ったエピソードのひとつは、ドイツ・バイエルン州で2019年に展開された「ハチを救え」キャンペーンのエピソードだ。農産物の収穫のために駆除され続けたハチが絶滅の危機にあることが問題視され、2カ月で175万人署名が集まり、昆虫保護法が同州で制定され、ドイツ全土でも昆虫保護法の導入が検討されることになったというものだ。

単にEUが定める有機認証を取得し、それに則って農薬、化学肥料、遺伝子組換え作物を使わず、アニマルフェア(動物福祉)に一定程度配慮するだけでなく、地域全体の自然環境に配慮し、人と自然を尊重する農業を志す。スーパーマーケットでオーガニックが身近になり買いやすくなる一方で、より高い理念を持った生産者や消費者がオーガニックの世界を広げている。

 制度も重要だが、生産者や消費者の意識が生活環境を変える最大の原動力だということが本書を読むとわかってくる。筆者がイギリスの友人からもらったオーガニック・サイダー(リンゴ酒)のパッケージには「無農薬で育てたリンゴを使っていて、コガネムシとも仲良くやっていますよ」というようなことが書かれている。この言葉はさりげなく書かれているが、「一般的にコガネムシというのはリンゴ栽培にとって害虫だけれども、そうした旧来の考え方はしていませんよ」ということがどれ程にイギリスで価値を持つかということが、この一文に表れているように思える。

 固有のストーリーを生産者と消費者が互いに共有し、色々な意味で有機的な商品がもっと日本のマーケットにあふれるようになると、食以外の様々な分野でも有機的な交流や取り組みが創出されるのだろうと本書は想像をかきたたせてくれた。

文=神保慶政

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