ソープ嬢の万引き犯、ボストンバッグから出てきた大量の○○……女性警察官も同情した身の上とは?

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2021年04月24日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

 こんにちは、保安員の澄江です。

 昨今、デパートの閉店が各地で相次いでいます。山形県では、以前に山形署交通官の警視が講演帰りに万引きをして捕まったことで話題になった「大沼山形本店」が倒産し、デパートのない県になってしまいました。都心部のデパートも、その流れには逆らえないようで、三越恵比寿店とそごう川口店が2月28日に閉店。何かの記念日には、必ずデパートに行って、買い物や食事を楽しむ。それがステータスになっていたデパートの全盛期が自分の青春時代と重なっていることから、この状況はとても寂しく、一時代の終焉とともに我が身の老いを痛感している次第です。

 仕事の上でも、デパートでの勤務は少なくありません。あまり知られていないことですが、デパート専門の万引き常習者も存在しており、その被害は少なくないのです。今回は、都心部のデパートで捕まえた女性常習者について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、有名デパートX。都内の大型ターミナル駅に直結する老舗デパートで、地下2階、地上8階建ての建物内に、広大な売場を有する百貨店です。通常であれば、催事やセール時に限って複数の保安員を導入されるクライアントですが、ここのところ数人の常習者による万引き被害が横行しているとのことで、急な依頼を受けました。

 予算の都合上、今回の導入は1カ月のみ、しかも1人勤務ということで、キャリアの長い職員を中心にローテーションを組んで対応します。クライアントの事務所に到着して出勤の連絡を入れると、常習者と思しき女性の人着は特定できているそうで、その写真を事務所で確認してから現場に入るよう指示されました。どことなくフォーリンラブのバービーさんに似ているふくよかな女性担当者に挨拶を済ませて、当該写真を見せてもらうと、とても派手な格好をしている痩せた女性が、ブランド物のボストンバッグを肩にかけて店を出て行く様子が写っています。

「よく見かける人ですか?」
「うん、ここのところ毎日。この人、この辺の同業者の間で有名なおかる(万引き犯の俗称)でね。つい最近、お隣(デパートのこと)で捕まったんですって。それでウチに流れてきているみたい」

 デパートで高額品を狙う常習者は、手口や狙う商品にこだわりがあるのか、同じような行動を繰り返します。おそらくは、過去の成功例が、そうさせるのでしょう。言葉は違うかもしれませんが、その技術レベルは高く、とても上手に盗んでいくのです。その行動を入店から確認するため、毎日来ているという女性担当者の言葉を支えに、なるべく目立たぬよう出入口を見渡せる場所に立ち尽くして女の登場を待ちました。

 店の出入口を見守り続けて数時間。例の女が、写真と変わらぬスタイルで売場に入ってきました。実際に見ると、写真よりも一段と細く見え、何かの病気を抱えているような感じがします。肩にかけられたブランド物のボストンバッグは空に近い状態に見えますが、チャックは大きく開いていて、女のやる気が強く伝わってきました。

 すると、1階の財布売り場に足を止めた女は、男性用の長財布(1万8,000円相当)を3つまとめて手に取ると、それをバッグと体の間に隠し持って、地下の食品売場に降りていきました。にぎわう店内の雑踏に紛れて、ボストンバッグで手を隠しながら値札をちぎり、形状を維持するための厚紙を抜き取っています。除去した厚紙や値札はテナントであるジューススタンドのごみ箱に捨てて、処理を終えた財布をボストンバッグの中に隠すと、上階に向かうエスカレーターに乗り込みました。

 そのまま2階に向かって、有名ブランド店の店頭にディスプレイされたトートバッグ(4万円相当)の前で足を止めた女は、なめるように商品を見てから嫌な目付きで店内の様子を窺い始めました。店内にいる従業員は1人しかおらず、カウンターで書き物に集中しているようで、まるで女の視線に気付いていません。

 まもなくトートバッグの持ち手に手を伸ばした女は、それをボストンバッグで覆い隠して、下りのエスカレーターに乗り込みました。距離を開けるため、吹き抜けの上から女の手元を目で追うと、トートバッグの持ち手に巻かれた値札やタグを指で引きちぎっています。取り外した値札を、入口脇に設置される傘を保護するビニール袋専用のごみ箱に投げ捨てた女が、店外に出たところで声をかけます。

「お客様、お待ちください。お会計、お忘れのようですよ」
「違います」

 なにが違うのかわかりませんが、足を止めずに歩き続けるので、ボストンバッグの持ち手を掴んで少し強めに制止を求めます。

「ちょっと、逃げないで。人を呼びますよ」

 思いのほか体が軽く、強く引きすぎてしまったようで、女は尻餅をついて泣き始めました。路上で泣く女と寄り添う私に、通行人は興味深げな視線を浴びせてきますが、声をかけてくる人は誰もいません。なかなか立ち上がろうとしない女をなだめつつ、事務所に来るよう説得を続けていると、誰かが通報したらしく男性警察官が駆け寄ってきました。

 事情を説明すると、すぐに無線で女性警察官を呼び出し、その到着を待って事務所に向かいます。女性警察官による入念な所持品検査の結果、女のボストンバッグからは私が現認した商品のほか、大量の錠剤が出てきました。女が盗んだ財布を手にした男性警察官が、それを見ながら女に尋ねます。

「この財布、男モノみたいだけど、どうするつもりだったの?」
「付き合っていた男にだまされて……。たくさんお金をとられて捨てられたんです。お店にも借金ができちゃったから、夜の仕事で頑張って払っているんですけど、コロナで暇になっちゃったから全然足りなくて」
「売るつもりだったってこと?」
「はい、すみません。彼と会うには、お店に行くしかなくて、お金が必要だったんです」

 その後、耳に入った警察官と女の会話を整理すると、女はソープランドで働く風俗嬢。付き合っていたという男はホストクラブで働く男のようで、多額の金を貢がされた上に捨てられてしまい、いまは客としてしか会ってもらえないということでした。

「この薬は、なに?」
「……安定剤と眠剤です」
「なんで、こんなにたくさん持ち歩いているの?」
「いまの仕事を始めてから拒食症になっちゃって、夜も眠れないんです。お金もないし、どこかで死ねたら、それを飲もうと思って」

 なにかの麻薬ではないかと勘繰った警察官たちでしたが、錠剤のパッケージに製品名が記されており、それをスマホで検索することで疑いは晴れました。女の話に嘘がないことで同情したのか、女性警察官が慰めるように背中を擦ると、心ここにあらずといった様子で空を見つめていた女の目から涙があふれ出ます。ティッシュを差し出して涙を拭わせると、ずれた袖口から、複数の切り傷がつけられた手首が見えました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

このニュースに関するつぶやき

  • こういう生活から抜け出せない人って、何が原因なんだろうな。
    • イイネ!8
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