日本のアニメは海外で大人気なのに、なぜ邦画やドラマはパッとしないのか

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2021年05月05日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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写真日本のドラマが海外でヒットしない理由
日本のドラマが海外でヒットしない理由

 日本でも大ヒットを記録した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が、全米劇場ランキングでも『モータルコンバット』を抜いてトップになったらしい。日本のアニメ・マンガが「海外市場で勝負できるコンテンツ」にまで成長していることは、今さら説明の必要がないだろう。



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 ジブリ作品、新海誠監督の『天気の子』など海外でも高い評価を受ける作品は山ほどある。日本の首相の顔を知らなくても、『機動戦士ガンダム』や『ONE PIECE』を知っている人はたくさんいる。『NARUTO -ナルト』や『鋼の錬金術師』など、日本人が思っている以上に、海外で熱狂的な人気のある作品も少なくない。



 そんなコンテンツ力は数字にも出ている。日本動画協会の「アニメ産業レポート2020」によれば、アニメ産業の市場は順調に成長しており、2019年には海外展開や動画配信サービスの好調さもあって過去最高の2兆5112億円となっているのだ。



 「見たか、これが日本の実力だ!」となんだか自分まで褒められたような気分になっている人も多いと思うが、これだけ高いコンテンツ制作力があるにもかかわらず、どういうわけか海外市場でパッとしない分野がある。それは「邦画・ドラマ」だ。



 ご存じのように、今や邦画やテレビドラマには「マンガ原作」が欠かせない。例えば、現在公開中の映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』や公開予定の『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』などがそれにあたるし、地上波ドラマでも『ドラゴン桜』『イチケイのカラス』など例を挙げればきりがない。近年を振り返っても『今日から俺は!!』『今際の国のアリス』『テセウスの船』『賭ケグルイ』などコミックの映像化作品があふれている。



 日本のマンガは「海外市場で勝負できるコンテンツ」なのだから、よく練られたストーリーや魅力的なキャラクターを実写化した作品も、海外市場でそれなりに善戦をしていてもおかしくない。



 事実、マーベルやDCコミックスの映像化作品は世界中で大ヒットを記録している。原作のアメコミ版の『アベンジャーズ』など見たことがなくても、映画館やテレビで『アベンジャーズ』をご覧になった人は多いはずだ。このようなヒットの法則はハリウッド作品だけではない。世界的にヒットしたネットフリックスのドラマ『梨泰院クラス』も原作はコミックスだが、こちらが先行して人気になったわけではないのだ。



●海外市場の開拓が不十分



 ならば、質の高い原作があふれる日本でも、海外で大ブレイクを果たす邦画・ドラマがあってもいいはずだが、今のところそのような話はほとんど耳にしない。実はそれも当然で、経済産業省が19年6月に映画産業の実態・全体像を把握する目的で調査した「映画制作の未来のための検討会 報告書」によれば、日本の映画産業におけるビジネス環境の課題として「海外市場の開拓が不十分」とハッキリと書かれている。



 つまり、日本の邦画やドラマが海外でパッとしないのは、役者や制作者の技量・努力不足などではなく、アニメやマンガが「ジャパニメーション」なんて呼ばれた30年以上前から海外で着々と市場を拡大していったのとは対照的に、「市場開拓」さえままならないほど「海外進出が遅れている」といった構造的な問題によるところが大きいというわけだ。



 では、なぜアニメやマンガと比べてこんな「差」がついてしまったのか。専門家などは「国のクールジャパン事業が悪い」「日本の映画業界は閉鎖的で積極的に海外で勝負するようなカルチャーがない」などいろいろ分析をされている。確かにそういう側面があることは否定しないが、根本的なところを突き詰めていくと、個人的には「民放キー局の罪が重い」という結論にならざるを得ないと思っている。



 皆さんも全国で封切りするような邦画をご覧になると、制作のクレジットに必ず大手広告代理店とともに、日本テレビやフジテレビなど全国キー局が加わっていることに気付くはずだ。また、ドラマに関しても同様で、制作はもちろんのこと著作権もガッツリと民放キー局が握っている。



 つまり、日本の邦画・ドラマの制作は「民放キー局」がガッツリと関わって取り仕切っているパターンが多いのだ。



 「それの何が悪いんだよ?」と思うかもしれないが、このようなビジネスモデルは、もし本当に世界中の人々を驚かせ、心を打つような映像作品をつくろうと思ったとき、「百害あって一利なし」でマイナスに働くことは間違いない。



 ちょっと前にあった、菅義偉首相長男の総務省官僚接待問題に、テレビ局がやたらと歯切れが悪かったことからも分かるように、日本のキー局はお上の庇護(ひご)の下、新規参入や自由競争が排除された「電波ムラ」のなかで「ぬるい商売をさせていただいている」という政商的側面がある。



 「熾烈(しれつ)な視聴率競争」うんぬんというのも結局のところ、電波を独占している仲間同士でプロレスをやっているだけなので、ボロ負けしても「倒産」や「廃業」につながるようなガチンコの競争ではない。



 要するに、民放キー局というのは、一般の民間企業と比べものにならないほど甘やかされた環境のなかで、国に与えられた既得権益をしゃぶる殿様商売的なビジネスモデルなのだ。



●問題の本質



 さて、そこで想像していただきたい。そのような「ぬるま湯」に頭までどっぷりと浸かっている人たちの間で、「韓国ドラマやハリウッドに負けない作品をつくれ」「世界に通用するコンテンツを」なんてスローガンが掲げられたとことで、果たしてどこまでそれが本気で実行されるだろうか。



 されるわけがない。1億2000万人の視聴者を独占して、「電波ムラ」のなかで分配しているだけで十分にメシが食えるのに、リスキーな海外進出なんてめんどくさいことをわざわざやるメリットがないのだ。



 「いい加減なことを言うな! テレビ局だって真剣に海外進出をしているぞ」と腹の立つ民放キー局関係者もいらっしゃるだろうが、これは何も筆者が思いつきで話していることではなく、テレビという産業のなかで過ごしてきた方たちもずいぶん昔から言っている。



 例えば、フジテレビのプロデューサーとして多くの人気番組を手がけ、ニッポン放送で会長などを経て、現在は東映アニメーションの社外取締役を務める重村一氏は、今から11年前のシンポジウムで、日本のドラマの海外進出が進んでいない問題の「本質」をこのように指摘している。



 「欧米をはじめとして、アジアの諸国も含め、放送局と制作プロダクションは分離されているケースが主流である放送制作体制にあって、日本は50数年の歴史で、テレビ局が制作と放送を一元化して行う体制が、その間紆余曲折はあったものの維持されてきた。(中略)もし、制作プロダクションが著作権や番組販売に関する権利を自分の意に沿う形で所有していれば、海外への番組販売や、海外との共同制作などは、現状以上に促進されていたのかもしれない」(第19回JAMCOオンライン国際シンポジウム)



●「百害あって一利なし」の理由



 このような分析の「逆証明」として、ドラマや映画と異なって「放映」と「制作」がしっかりと分離したことで、海外進出が進んだ成功例として「アニメ」をあげている。



 「著作権が映画会社との契約においては、テレビ局にないため、アニメに関しては映画会社が積極的に海外などへのセールスに力を入れた。このことが、日本のアニメが世界の中で、大きなシェアを占めることに繋がっている」(同上)



 確かに、ドラマやバラエティー番組のように、「日本テレビアニメ部」の社員プロデューサーのもと、スタジオジブリが下請けプロダクションとして、あれこれ指図されるようなやり方をしていたら、『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』など世界で評価されるような作品は誕生しなかったかもしれない。



 民放キー局は国内で独占する電波を用いた広告ビジネスが主たる事業なので、どうしてもF1層だF2層だという視聴者にこびたクリエイティブになる。といっても、それは「ユーザー目線」ではない。「数字を持っているタレント」を管理する大手芸能事務所や、視聴率を求める大手スポンサーへの「忖度(そんたく)」が強くなって結局、誰のためにつくっているのかよく分からないようなドラマや映画が量産されているのだ。



 このような「ムラの論理」でドラマ制作現場がゆがめられていることは、前出の重村氏も指摘している。



 「国内で若者受けする番組を作る手短かな道は、人気アイドル、タレントを主役に据える事である。彼らは或いは彼女らは、(本人ではなくマネージメントをする芸能事務所はという方が正確)作品の質の高さより、役者本人の魅力を高めたり、引き出す内容を出演の条件とする。少々、作品の内容や構成に無理があっても、主役が要求する設定やストーリーで脚本が作られ、企画力で勝負する時代から、人気タレントのブッキング能力を持つテレビ局やプロデューサーが競争の勝利者となる」(同上)



 これは当然、民放キー局が製作委員会に関わるような邦画にも当てはまる。公開前にキャストが番宣をする際に、主演が誰かよく分からないような人では「数字」が取れない。だから最近の邦画は、テレビやCMで引っ張りだこの人気タレントなどいつも同じ顔ぶれが並ぶ。構造的に「映画スター」「映画人」が育たないし、育てるつもりもないのだ。



 先ほど、本当に世界に通用するようなコンテンツをつくろうと思ったとき、民放キー局が関わっていると「百害あって一利なし」と申し上げた理由が分かっていただけたのではないか。



●海外で戦える「強さ」



 さて、このような話をすると、気になるのは、なぜ「アニメ」は民放キー局の制作支配から逃れることができたのかというと、重村氏によると「広告」の影響が大きいという。



 アニメは視聴率の稼ぎ頭だが、今と違って「視聴者が子ども」という時代が長かったため、自動車や家電などの太い広告クライアントから敬遠された。そこで民放キー局としては放映権のみを支払い、制作にそこまで関与しなかった。製作費も、広告代理店やおもちゃメーカーと組んで、グッズ展開などで自分たちで稼ぎなさいよ、と製作会社を突き放したのだ。



 だが、結果としてこれが良かった。クリエイティブの足を引っ張る民放キー局の「忖度カルチャー」と距離をとったおかげで、アニメはコンテンツ制作の質向上と、ビジネスへの真剣度、自由度につながって、結果として海外で戦える「強さ」が身についたというわけだ。



 ちなみに、この構造はマンガにも当てはまる。当たり前だが、出版社はテレビ局のように国の庇護下にある許認可制ではない。『ジャンプ』も『マガジン』も常に新規参入や厳しい競争にさらされており、広告ビジネスで食っているわけでもないので、面白くないマンガばかりを掲載すれば容赦なく廃刊・休刊になる。



 だから、編集者も漫画作者も死に物狂いでいいコンテンツをつくる。生き残るためには、読者が頭打ちの日本を飛び出して、必死に海外進出も目指す。テレビドラマのように、スポンサーがどうしたとか、大手芸能事務所への忖度でアイドルをキャスティングしなきゃ、とかどうでもいいことに時間とリソースを割く余裕はない。



 つまり、厳しい競争環境によって、純粋に世界に通用するようなコンテンツをつくるしか生き残る道がないのだ。だから、飛び抜けた才能を必死に探して育てるし、国内だけではなく、より大きなマーケットで勝負する仕組みも本気で整備するのだ。



●作品をダメにしている「既得権益」



 なぜ日本の邦画やドラマが世界でヒットしないのかという議論があると、「黒澤明など昔の映画人はもっとすごかった」「役者の演技力がない」など個人の能力不足に話を持っていく人がいるが、実は個人の頑張り以前に、「つまらない作品」しか世に送り出せない構造的な問題がある。そのボトルネックとなっているのが「既得権益」にあぐらをかく民放キー局なのだ。



 今、世界的にヒットを飛ばす韓国ドラマをけん引するのは「スタジオドラゴン」という制作プロダクションだ。ここが自分たちで放映権を持っているので、ケーブルテレビやネットフリックスなど動画配信サービスとも組んで次々と魅力的な作品をつくることができるのだ。



 「つまらない」「演技が下手」「ストーリーが陳腐」など作品に文句を言うのもいいが、どんな体制でつくられているのかにも目を向けていただきたい。



 大多数の作品は、民放キー局など毎度お馴染みのメンツが、同じような体制で作品を生み出していることに気付くのではないか。ネットフリックスやWOWOWなど広告収入に依存しないプラットフォームのもとで、これまでにないような意欲的な作品がつくられてきてはいるが、まだまだ少数派だ。



 このような「ムラ社会的なものづくり」の構造にメスを入れない限り、いつまでたっても日本の邦画やドラマは「ガラパゴス」のままなのではないか。



(窪田順生)


このニュースに関するつぶやき

  • この記事、一見「日本の力を海外に見せつけてやろう!」と愛国精神に溢れて見えるが、実は「日本人にしか開かれてない日本市場に海外から参入したい・させたい」という下心があるのでは?まぁ今でも充分特アTVだが。
    • イイネ!1
    • コメント 2件
  • いよいよ、TVメディア(新聞含む)、広告代理店、芸能事務所、スポンサー企業の悪の循環を書かざるを得なくなったね。まずは犬HKから。そして電波オークションだよ
    • イイネ!29
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