がんに光を当てて破壊する「光免疫療法」治療開始 開発医師が語る苦闘の34年間

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2021年05月06日 10:00  AERA dot.

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写真2020年9月、記者会見で光免疫療法の薬事承認を発表する小林久隆医師(左)と楽天メディカル社会長・三木谷浩史氏(右)(写真/楽天提供)
2020年9月、記者会見で光免疫療法の薬事承認を発表する小林久隆医師(左)と楽天メディカル社会長・三木谷浩史氏(右)(写真/楽天提供)
 がん細胞に光を当てることで薬剤が反応し、がんを破壊する――2020年に日本で薬事承認・保険収載された「光免疫療法」。すでに一部のがんに対し国内で治療が始まっている。開発したのは、アメリカで研究を続け、関西医科大学が設置する研究所に22年4月に就任予定の小林久隆医師だ。小林医師には、「シンプルで、安く安全な治療」へのこだわりがあった。現在発売中の『手術数でわかる いい病院2021』で、小林医師に話を聞いた。

【写真】真剣な表情で語る三木谷氏
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■「がんだけを傷つけたい」臨床医時代の苦い思い出

「何千万円もかかる治療ではだめなんです。誰もが受けられるシンプルな治療を、早く提供したいと思っています」

 光免疫療法の開発者、小林久隆医師はこう強調する。「第5のがん治療法」の呼び声も高い光免疫療法。手術、抗がん剤、放射線、そして2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞したことで知られる免疫療法に次ぐ、新しい治療法だ。

 これまでの治療は、がん以外の正常組織も傷つけてしまうリスクがあったり、高額な薬が必要になったりするなど、身体的・経済的な負担が課題になっていた。光免疫療法はこれらをクリアする、安全で安価な治療法とされる。

 特殊な薬剤を注射し、体外からがんに向けて近赤外線を当てることで薬剤のスイッチが「オン」になり、がん細胞を破壊する。

 冒頭、小林医師が「シンプルな治療」であることにこだわったのには理由がある。それは、臨床医としてがん患者と向き合っていた34年前にさかのぼる。

 1987年、26歳の小林医師は、京都大学医学部付属病院で放射線の専門医として勤めていた。放射線によるがん治療が、まだ主流ではなかった時代だ。

「食道がんの患者さんを治療したら、がんはよくなったけれど、食べ物が食道を通らなくなってしまったんです。そのことが鮮烈な印象として残っています」

 がん以外を傷つけず、がんだけを傷つける治療はできないか。そんな小林医師が当時取り組んでいたのが、体内のがん細胞だけを光らせる「イメージング」の研究だった。94年に小林医師が発表し、光免疫療法の原点ともなった博士論文を紹介しよう。

 元素には、つねに放射線を出し続ける放射性同位体という物質がある。これを特殊な抗体と結び付けて体内に投与し、がん細胞と結合させる。するとがん細胞が放射線を発するため、PET検査などでがんの画像を撮影し、診断することができる。

 ただ、放射性同位体つき抗体は血液の中を流れているだけで、放射線で正常細胞も傷つけてしまう。小林医師は、がん細胞と結合しなかった放射性同位体つき抗体を、尿を通じて早期に排出させることに成功した。

 さらに放射性同位体は、強い放射線を出すものに変えることで、がん細胞を攻撃する性質に変えることができる。将来、新しい治療につながる研究として論文が評価され、95年にNIH(米国立保健研究所)へ留学した。

「でも同僚からは、研究にあまり関心をもたれませんでした」

 放射性同位体は、抗体を注入して腫瘍に届くまで丸1日体内に留まる。排出されるとしても、体への負担はまだ大きかった。

 04年、静岡の学会で東京大・浦野泰照教授と出会う。化学変化を与えると発光する「蛍光物質」を制御し、光のスイッチをオン/オフさせる技術の研究者だ。

「以前から論文でこの研究の存在は知っていました。『この後に聞きたい講演がある』と言う浦野教授を連れ出し、がん細胞だけをきれいに光らせる仕組みをつくれないか、といくつかのアイデアを話しました」

 小林医師は放射性同位体に代わり、蛍光物質に着目したのだ。ここから共同研究が始まった。

■理想の物質を発見「世界を変える可能性がある」 

 07年、がん細胞にのみ込まれると蛍光物質が「オン」になり発光する技術を発表。08年には、細胞が死んだり、細胞から放出されたりするとオフにすることにも成功。そして09年、近赤外線を当てるとオンになり、がんの種類に応じた色で発光させることに成功した。

「自由に研究ができて、一緒にやっていて本当に面白かった」

 しかし小林医師の目的は、がん細胞を攻撃させることにあった。光を発するということは、エネルギーが出ているということ。スイッチがオンになると、性質が変わりがん細胞を攻撃する蛍光物質もあるのではないか。仮説を立て、実験を繰り返した。

 同年5月、それは見つかった。小林医師は発見時の様子を、「細胞がバタバタ死んでいった」と表現する。蛍光物資が光に反応し急激に変化する。すると細胞の膜に傷がついて水が入り込み、風船のように破裂していった。

「かなり異常なことでした。すごく殺傷効果が高い」

 光免疫療法に使われる物質「IR700」の発見だった。

 11年にこの成果を発表し、治験をおこなうための提携先を探し始めた。「これが世界を変える可能性があるなら、意思決定の早い企業のほうがいい」というNIHの知財担当者のアドバイスをもとに、医療ベンチャーのアスピリアン・セラピューティクス社と提携した。

■治験をしたいがお金がない 楽天・三木谷氏との出会い

 だが同社には大手企業ほどの資金がなかった。そこで小林医師自ら、出資者探しに奔走した。

「ゲイツ財団や医療機関にも行き、学会の講演直後、携帯電話で投資家に説明したりもしました。それでも、なかなか資金提供が受けられませんでした」

 転機は13年。楽天・三木谷浩史氏との出会いだ。当時、同氏の父親は膵がんを患っていた。

「研究に興味を示され、学会で訪日した際、会食に招かれました。がんについてとても勉強してこられたのだと感じました」

 数日後、シンガポールにいた小林医師に「また日本に来るなら話せないか」とメールが来る。すぐに日本に戻り、羽田空港至近の楽天本社(当時)で、三木谷氏の父親の医師団同席のもと、研究の説明をした。

 日本滞在の最終日。宿泊していた銀座のホテルを再度訪れた三木谷氏に告げられた。

「治験をしましょう」

 出会ってから1週間で、研究への出資が決まった。

「驚きました。三木谷さんはいろいろな治療法を見てきたからこそ、目新しく感じたのでは」

 15年5月、実際にがん患者への治験が始まった。そして20年の薬事承認・保険収載。注射をして光を当てるだけという、治療のシンプルさが話題となった。

「私はお金があまり潤沢ではないラボにいました。そこで開発した治療なのだから、安くあるべき。そのためにシンプルで費用のかからない仕組みを考えてきました。貧乏人が開発したからこそのプライドなんです(笑)」

 患者を苦しめない安全な治療を、誰もが受けられるようにしたい。小林医師の思いが、34年の歳月を経て、ついに届く。

■小林久隆(こばやし・ひさたか)医師
NIH/NCI(米国立保健研究所・国立がん研究所)分子イメージングプログラム主任研究員。京都大学大学院卒。NIH/NCIに勤め、光免疫療法を開発した。

(文/白石圭)

※『手術数でわかる いい病院2021』より

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  • 中性子を当てる奴はもうあるんだっけ???司馬「NRD入れられるか?」星野「がんばってみますw」 司馬「NRDを入れられたら、医療器具すべてオットーにしてもいい」。
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