「その後も緊張状態は続いている」新型コロナ第1波到来直前の社会心理、大阪大院生が分析

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2021年05月06日 19:10  まいどなニュース

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写真2020年12月の東京・渋谷、スクランブル交差点(HIROSHI H/stock.adobe.com)
2020年12月の東京・渋谷、スクランブル交差点(HIROSHI H/stock.adobe.com)

新型コロナウイルスと隣り合う期間が1年以上になりました。1年2カ月前、第1波の到来直前の2020年3月、社会はどんな心理状態にあったのでしょうか。大阪大学大学院人間科学研究科の大学院生の山縣芽生さんらの研究からは、(1)「感染を避けたい」という気持ちの強さは、外国人を受け入れたくないという気持ちの強さと関連する(2)男性よりも女性が感染を忌避する気持ちが強く、感染禍を恐ろしいと考え予防も多く行い、「口コミ」で情報収集している―という特徴が見いだされました。「コロナ禍で差別を完全になくすことは難しいが、立ち止まって考えることはできる」。第4波の渦中にある現在にも通じるメッセージがうかがえます。

【写真】新型コロナの関心の推移を示すグラフ。大きく下がることなく推移

山縣さん、寺口司・招へい研究員、三浦麻子教授(社会心理学)の研究グループによる「COVID-19禍の日本社会と心理──2020年3月下旬実施調査に基づく検討」。日本心理学会の学術誌「心理学研究」への採択が決まりました。また研究データは公開されており、心理学だけでなく、感染禍特有の社会病理の解決や公衆衛生などへの活用が想定されています。

調査はWEBで2020年3月24〜26日に実施し、有効回答者は612人(男性214人、女性398人、平均38.27歳)。WHOによるパンデミック宣言(3月11日)と日本国内の一部区域への緊急事態宣言(4月7日)に挟まれ、緊張が高まりつつあった時期でした。3月29日にはコメディアンの志村けんさんの死去のニュースが社会に衝撃を与えました。

調査では、新型コロナ感染禍への関心度やリスク認知など▽実践面(手洗いなどの衛生行動や感染源と思われる対象回避の有無)▽回答者の生活実態(情報収集手段、科学的知識など)▽日常生活で外国人と関わる機会の多さや友人・知人の数▽外国人を受け入れたくないという気持ち▽回答者の特徴(性別、年代、居住地)などを尋ねました。

見えてきたのは、「感染を避けたい」という考えが強い人は外国人に対する排斥的な感情も強いという傾向でした。心配が強いほど、日常生活でなじみのない外国人を「自分たちの生活空間にウイルスを持ち込み、感染リスクを高めるかもしれない存在」とみなして排斥的になる傾向は、人間がもともと備えている心理的システムの誤作動として従来の研究でも示されており、コロナ禍でも同じことがうかがえました。一方、日常生活で外国人と関わる機会の多さは、外国人を受け入れたいという気持ちの強さと関連していました。相手と接触し正しい情報に触れることが、排他的な感情を低減させる可能性があるといいます。

山縣さんは「社会心理学を志す人間として、何を措いてもこの研究だけは、という思いで研究してきました。新型コロナ感染禍の時代を生きる私たちの経験は、将来的に様々な学問や政策、人々の役に立つことを信じています」と話しています。

研究グループでは、2020年1月末からWEBによるパネル調査を実施。一定の期間を置き同じ人に同じ質問をする手法で、感染禍の人心の変化を探っています。調査は1248人で始まり、11回目の2021年1月中旬調査でも半数近い600人が応じていることからも、関心の高さがかがえます。

新型コロナの流行への関心の程度を(1)全くない〜(7)非常にある、の7段階で答える設問について、この調査開始1年間の推移からは、関心の高さが持続していることが分かります。また新型コロナの恐ろしさ(「死に至る可能性がある」「いつ起きるかわからない」)と未知性(「気づかないうちに影響を受けているかもしれない」「どんな影響があるかよくわからない」)の問いに、(1)全く感じない〜(7)非常に感じる、の7段階で回答してもらったところ、恐ろしさ、未知性のいずれも2020年4月中旬調査時をピークに大きく減ることなく推移。また同じ問いをした原発の放射能漏れ事故やインフルエンザよりも高くなっています。

また、感染予防として、手洗い、うがい、手のアルコール消毒、マスク着用、商業施設など人が多くいる場所への外出を控えるーなどの11の対策や行動の実施数を尋ねた設問には、2020年4月以降は実施数は6を超えており、生活の中に定着したことがうかがえます。

「感染禍の気配が漂い始めた当初から人心は高い緊張状態に陥っており、ピークは第1回の緊急事態宣言時にあった。一方、第2波・第3波の状況悪化にはむしろ鈍感な反応しか示していない」と指摘する三浦教授に聞きました。

―第2波、第3波で人心に変化がないことは、2020年春以降、同じような対策が呼びかけられていることに慣れてしまったからでしょうか。

「ずっと同じことが呼びかけられ続けている一方、ワクチン接種は進まないし、オリンピックはやると言ってるし、慣れるというか、飽きるというか、呆れるというか…。いくら実践しても効力感が高まる時がない、という感じでしょうか。いまに学習性無力感(抵抗も回避もできないストレスに長期間さらされると、そうした不快な状況から逃れようという行動すら行わなくなる状態)に陥るのではないかと危惧します」

―一方で感染予防の行動は定着しています。

「感染予防行動は、感染制御の専門家の手指消毒に関する研究データを見せていただいたことがあるのですが、これまでの彼らの地道な努力を凌駕する勢いで定着していますね。もちろん今後感染禍が収束に向かえばある程度は下がるでしょうが、それでもこれまでとは段違いだと思います。評価すべきことです」

―未知性や恐ろしさがあまり変化がないのはなぜでしょうか。

「特に非常事態において、ロジックが感情に勝つのは非常に難しいです。例えば、国内でワクチン接種が十分行き渡り、それによって感染者数がぐっと下がる、といった事態が広く共有されれば、未知性や恐ろしさは減ると思います」

―高い緊張状態が続く中、気持ちの持たせ方を。

「ほんとにつらいですよね。でも、何かを我慢しなければ悪いことが起きる、と自分を抑え続けたり、あれこれできなくなったことを嘆いてばかりいるのは不健康です。こんな状況の中でも変わりなくできることや、こんな状況でかえってはかどることなど、良いことにも目を向けてみませんか」

(まいどなニュース・竹内 章)

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