『鬼滅の刃』14歳の「霞柱」時透無一郎 早熟の天才が人生で成し遂げたかったこと

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2021年05月09日 11:30  AERA dot.

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写真「霞柱」・時透無一郎(画像はコミックス12巻のカバーより)
「霞柱」・時透無一郎(画像はコミックス12巻のカバーより)
『鬼滅の刃』に登場する、鬼殺隊トップクラスの戦闘力を誇る「柱」たち。9人の「柱」のうち、時透無一郎は弱冠14歳にして「霞柱」として名を連ねる。クールで無表情な無一郎は、淡々と剣技を磨き、時には仲間にすら冷淡さをみせる。鬼との戦闘に臨む無一郎の精神力は並みはずれており、どんな痛みにも一切の弱音を吐かない。だが、繰り返し描かれる彼の負傷は、あまりにもむごたらしく目を覆うばかりだ。ポーカーフェイスで痛みに耐えて戦う14歳の少年の内には、抑えきれない熱き思いがあった。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

*  *  *
■最年少剣士・時透無一郎の「天才」エピソード

『鬼滅の刃』の鬼討伐組織「鬼殺隊」隊士たちは、比較的年齢が若い。鬼殺隊の実力者「柱」でも、最年長の岩柱・悲鳴嶼行冥(ひめじま・ぎょうめい)が27歳、音柱・宇髄天元(うずい・てんげん)で23歳、そのあとは21歳の風柱・蛇柱・水柱がつづく。しかし、霞柱の時透無一郎(ときとう・むいちろう)は、なんと14歳という若さだ。隊士としては珍しい年齢ではないかもしれないが、歴代「柱」から考えると、この才能の早熟さは抜きんでている。

 宇髄天元が「遊郭の鬼」から「お前は選ばれた才能の持ち主だ」と言われた時、無一郎のことを引き合いに出して、自分より才能のある者がいると答える場面がある。無一郎はたった2カ月の訓練で「柱」になっており、宇髄ですら、無一郎の才能に感嘆している。

 さらに、無一郎は自らが志願したのではなく、鬼殺隊の長・産屋敷耀哉(うぶやしき・かがや)の命によって、鬼殺隊に「スカウト」されていた。異例の入隊エピソードである。これは、無一郎が鬼殺隊の歴史に名を残す剣士・継国縁壱(つぎくに・よりいち)の子孫だったからだ。

 このように、無一郎の才能の底には、「血の継承」がほのめかされている。しかし、それだけでは説明がつかないほど、無一郎が強くなったスピードは早い。

■無一郎の「記憶」と性格

 時透無一郎には、有一郎(ゆういちろう)という名の双子の兄がいた。時透兄弟は、10歳のころに両親を亡くしており、その1年後に兄・有一郎が鬼に喰われた。それ以来、無一郎は記憶が欠けてしまい、最近の出来事もうまく思い出せない。この「記憶」の欠損は、無一郎の性格にも影響を及ぼしている。

 表面的に激しい感情はみせないが、無一郎は他人に辛辣で、何かを「邪魔されること」を極端に嫌うようになる。普段はマイペースを崩さない無一郎だが、何かを中断させられた時、誰かに邪魔をされた時に気性の激しさをのぞかせる。

 コミックス6巻の「柱合裁判」では、裁判の内容そのものには無関心だが、炭治郎が産屋敷耀哉の話を中断させた際、「お館様のお話を遮ったら駄目だよ」と、石を炭治郎の顔面に命中させている。

 コミックス12巻では、訓練に協力しなかった刀鍛冶の少年に対して、手刀を入れている。非戦闘員の、自分よりもさらに幼い少年にも、一切ちゅうちょしない。これほどに、無一郎が「邪魔」を嫌う理由は何か。

■無一郎には「時間がない」

 コミックス14巻の回想シーンでは、無一郎が鍛錬を始めたころの場面が描かれている。これは、鬼の襲撃で兄を亡くした直後、自らも大けがをおった時のことである。頭部・手、そして胴体にも袈裟がけに包帯を巻いており、この様子から、彼はけがが完治しないままに、激しい訓練を始めたことがわかる。

 そもそも、無一郎はいったい何歳で「柱」になったのか。彼のセリフに「1人になったのは11歳の時だ」とあること、無一郎が8月生まれであること、鬼の襲撃が夏であったこと、訓練を始めて2カ月と書かれていることから、11〜12歳で「柱」になっているはずだ。現在は14歳。明らかに、彼が剣士としての「肉体のピーク」を迎えるのに、あと数年はかかる。

 戦闘には、年齢を含む身体的条件が厳然と影響する。「幼い」無一郎が、肉体的マイナス要素を埋めるためには、短期間で戦闘を重ね「経験値」を積んでいくしかなかった。そう、だからこそ無一郎はわずかな鍛錬の時間も惜しく、何よりも「邪魔」を嫌ったのだ。

 とにかく「早く」「強く」と、わが身をかえりみず、あらゆる苦痛に耐え、生き急ぐ無一郎の様子は、痛々しくすらある。

■「無表情な顔」と激しい心

 異例の短期間で無一郎は「柱」まで上りつめた。それは、「血」によって継承された才能の恩恵だけではなく、驚異的な訓練によって獲得した成果だった。

 刀鍛冶の里では、「上弦の伍」の鬼・玉壺の攻撃で、無数の毒針が無一郎の全身を貫いた。しかし、激痛は精神力で抑え込み、幼さの残る美しい顔は、無表情のままだ。無一郎にまつわる数々のエピソードが示すのは、とにかく彼が我慢強く、弱音を決して口にしないということだ。

 数々の死闘をくぐり抜けた無一郎の最終決戦の相手は、「上弦の壱」と呼ばれる鬼・黒死牟(こくしぼう)だった。この黒死牟の正体は、鬼殺隊史上、継国縁壱に次ぐ実力者と言われた、彼の兄・巌勝(みちかつ)である。無一郎は「縁壱の子孫」として入隊しているが、縁壱には子はおらず、実は無一郎はこの巌勝の直系子孫だったのだ。

 祖先との対決。ここでも、無一郎は、「肉体的成熟」と「戦闘経験値」の壁にぶつかる。巌勝=黒死牟の使う「月の呼吸」は、なんと初太刀で無一郎の片腕を斬り落としてしまう。黒死牟戦では、ポーカーフェイスだった無一郎の顔に苦悶の表情が浮かぶ場面が増えていく。

■壮絶な無一郎の戦闘

 剣士にとって戦闘の要といえる腕を失っても、無一郎は戦いをやめない。

<素晴らしい…腕を失ってすぐに止血 そこからさらに攻撃をしようという気概>(黒死牟/19巻・第165話「愕然と戦慄く」)

 戦闘意欲を失わない無一郎を止めるため、黒死牟は無一郎の肩に刀を貫通させ、建物の柱に突き刺すが、無一郎は激痛に耐え、肩から刀を抜き、戦線へと戻る。死に至るほどの大量失血にあっても、黒死牟の攻撃スピードについていく無一郎。どんな傷をおっても無一郎は戦いをやめない。心は折れない。それは、兄を亡くした際に感じた猛烈な怒りのためだった。

<記憶を失っても体が覚えている 死ぬまで消えない怒りだ だから僕は血反吐を吐く程 自分を鍛えて叩き上げたんだ>(時透無一郎/14巻・第121話「異常事態」)  

 無一郎の怒りは、罪もないものが理不尽に命を奪われることへの怒り。他者から「つまらない命」とそしられ、踏みにじられることを、無一郎は決して許さない。

■無一郎が成し遂げたこと

 無一郎の覚悟は、風柱・不死川実弥(しなずがわ・さねみ)の命を救い、その弟・玄弥に攻撃のタイミングを与え、悲鳴嶼行冥に決定打をうたせるためのチャンスを生み出した。無一郎の無は“無限”の“無”。本来なら人間には勝ち目がない「鬼」との戦いに、活路を開き、仲間たちに「無限の未来」を示した。

<僕が何の為に生まれたかなんて そんなの自分でちゃんとわかってるよ 僕は幸せになる為に生まれてきたんだ>(時透無一郎/21巻・第179話「兄を想い 弟を想い」)  

 無一郎にとって「幸せ」とは、踏みにじられる命を守ることだった。無一郎は他人に無関心などではなかった。命を奪われる悲しみを誰よりも知っていた。時透無一郎は務めを果たした。兄に誇れる生き方をした。

 だが、無一郎の壮絶な戦いを見つめるわれわれの目には涙が浮かぶ。他人を救うために駆け抜けた、彼の短い生が、もっと幸多いものであってほしかったと、やはり思わずにはいられない。しかし、たくさんの人たちの思いを超えて、この死闘を、14歳の幼い剣士・時透無一郎は戦いきったのだった。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。

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このニュースに関するつぶやき

  • 原作の「こちらも抜かねば不作法」というのは刀のことであり、14歳の若さゆえにではないのだからそこはいじらないであげてください二次創作の皆さん。
    • イイネ!1
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  • 鬼殺隊の柱の中でも『人の生命を守る』という思いが深いのは、煉獄さんと無一郎くんだと思います⚔ そして煉獄さんに続いて『鬼滅の刃・劇場第2弾』の看板を背負うのも…��������
    • イイネ!5
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