「シン・エヴァ」さようなら、シンジくん―― 大人になったシンジくんに“エヴァロス”オタクが思うこと

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2021年05月12日 07:51  アニメ!アニメ!

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著者撮影
[文=渡辺由美子]

■難民がいっぱい! エヴァロス現象
私の周囲では、「エヴァロス」という現象が起きています。2012年『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』公開から9年。待ちに待った『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』をやっと観られた! シンジくんも現実に還ってきたことだし、ようやくハッピーエンドを迎えられましたね、ばんざーい!というはずなのですが、私のように未だエヴァロスになっている人もいたりします。


「エヴァを舞台挨拶も含めて2回観たわけですがなんかラストでモヤモヤする。
我は卒業したいんじゃなくて、
ピリピリする温泉につかっていたいんじゃないか………?」
こんなひとりごとみたいなツイートに135いいねがつくとは……。
皆さんも何かしらエヴァロスになっていたのですね!(仲間をみつけると喜ぶオタク)

そこで改めて周囲やネットを見てみたのですが、何かしらの「エヴァロス」の人、帰るところがなくて「難民」のようになっている人が多く観測できました。
推しが別のキャラとくっついちゃったカップリング難民、トレーディング缶バッジやコースターをカヲルくんに交換してもらえないグッズ難民(エヴァ界隈にはグッズ交換の習慣があまりない)……といったキャラにまつわるエヴァロス。

また作品についても、皆それぞれに「自分が考えるエヴァ像」があるので、自分の思いに共感してくれる人が意外と見つからなかったり、「庵野監督は昔は自分と同じオタクステージにいたのに、監督だけ幸せになってしまった」と語る年季の入ったエヴァロス(庵野監督ロスですね)の方までいらっしゃったようです。

私が一番大きく感じたエヴァロスは、「あのシンジくんが大人になってしまった」ことです。
シンジくんは物語の中で、いつも自分の居場所を求めてさまよっていたはずなのに、ついに現実に居場所を見つけてしまいました。物語的にはハッピーエンドなのですが、寂しいというか、心がしんどいです。ひとりだけ現実に帰らないでほしい……! 
私にとって、エヴァ=シンジくんだったことがわかりました。



■ 旧劇場版から引きずってるエヴァロス
私が新劇場版シリーズのラスト、『シンエヴァ』で感じたのは、「庵野監督自身が大人になろうとしている」ということです。

そもそも97年の劇場版『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』は、物語の骨子は『シンエヴァ』は変わらないものの、終わり方はシンジがアスカの首をしめて「キモチワルイ」と言われて終わるという、ハッピーエンドとは言いがたいものでした。

そして劇中では「劇場でエヴァを観ている観客」という実写映像が映し出され、それは私たちアニメファンに“現実に帰れ”というメッセージを送っているように見えました。
当時、エヴァが「社会現象」と言われ、アニメでもカッコいいグッズが出るようになって、ようやくオタクが市民権を得たと思ったら、スクリーンから「現実に帰れ」というメッセージが。
監督が何を言ってるのかわからないよ……!

■シンジくんには幸せになってほしいけど、悩んでいて欲しい
そんな放り出され方をしたのですが、その後に新劇場版シリーズが始まりました。
シンジくんを取り巻くミサトたち大人が、シンジと同じような自分の悩みで潰れてしまう存在ではなくて、子どもを導く大人になっている。そして、シンジくんが意志を持った少年になっていることにも旧作との違いを感じて感動しました。
旧作の頃に比べるとマイルドになったな、と感じていたら、『Q』で、もう一回シンジがミサトさんたちに、“ニアサードインパクトが起きたのはお前のせいだ”と言われて突き放されてしまいました。シンジに感情移入している私はすごくショックを受けつつも、一方で「いいぞ! それでこそエヴァだ!」という気持ちになったのでした。

“シンジくんには幸せになって欲しい!”
“シンジくんが他人とコミュニケーションが取れなくて、落ち込んだところも観たい!”
矛盾しているようで、矛盾はないのです。
幸せになって欲しいと感じているのは「物語を鑑賞する」自分。
落ち込んだところが観たいのは「同じ悩みを抱えた人物に共感する」自分。
「良い物語が観たい」のと「人物への感情移入」は別個のことで、そこに矛盾はないんです。

私にとってシンジくんは、人とのコミュニケーションだけにとどまらず、時々落ち込んだり悩みを抱えている自分に、“僕も同じだよ”(幻聴)みたいに、寄り添ってくれる存在なのだと思いました。

そのシンジくんがスーツを着て大人になって神木(隆之介)ボイスでホームから駆け出すところで、「いや、待って欲しい」という気持ちになったのは、仕方がないことだと思います。


■ゲンドウへの共感と萌えポイント


私にとってのシンジは、悩みを抱えていることで共感度が深いキャラクターなのですが、今回の『シンエヴァ』では、シンジ以外にもとても共感した人物がいました。
そう、ゲンドウです。
ゲンドウが人類補完計画を実行したのは、エヴァの実験で死んでしまった妻・ユイに会いたかったからでした。ゲンドウは、シンジと初めて対話して、孤独だった自分の少年時代とユイの存在について語ります。

この電車の中で語られた少年時代のゲンドウの孤独感と、それを表わす演出が最高でした。
少年時代に彼が好きだったものは「知識」と「音楽」。いずれも他人とのわずらわしいコミュニケーションを遮断する役割を果たしています。
シンジが持っているカセットプレーヤーは元々ゲンドウのもので、ゲンドウ少年は、あのイヤホンをシンジ同様に「他人とのノイズを遮断してくれる道具」としても使っていたのでした。

ゲンドウ少年にとって、「外界と遮断する道具」として機能していたのは、カセットプレーヤーだけではありません。ゲンドウがかけている「メガネ」も、外界を遮断する小道具として実に良く機能していました。
メガネの反射は心のバリア! 私は「メガネ男子萌え学会」という“なんちゃって学会”を主宰しているのですが、ゲンドウのメガネ描写は、私のメガネ男子萌え心に火をつけてくれました。私の「メガネ男子萌え」の根っこには、「男性が持つ弱さや脆さが見たい!」という願望があるのです。
ゲンドウの目が、あのようにえぐられた状態になってしまっているのは、「他人を完全にシャットアウトし、他者を見る手段を絶った」という意味もあるのではないかと感じています。



ゲンドウとシンジの、エヴァを通した初めての親子ゲンカも実に良くて、爽快感あふれるシーンでした。
あの気弱でコミュ障な父子は、エヴァという巨大ロボットの肉体を借りることでようやく“殴り合い”ができたのです。ロボット越しというところが、ATフィールド持ちのあの父子らしい!

ゲンドウは、息子と殴り合うことで、自分の少年時代と対話をしていたのかもしれません。
シンジが自分の殻に閉じこもるたびに乗っていたあの電車にゲンドウも乗り、殴り合い込みの対話をして、幼いシンジに「自分の弱さを認めないからだと思うよ」と言ってもらうことで、ようやくゲンドウも心の殻を脱することができた。父子の確執から始まった物語としては最高の決着のつけ方だったと思います。
本当に良かった!

エヴァは、庵野監督の心をシンジという少年に託して描いた私小説という側面があります。
NHK番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』庵野秀明監督回では、庵野監督ご自身の言葉で子ども時代や、お父さんとの関係が語られていましたが、父とうまくいかないシンジと重なるところがありました。

そして『シンエヴァ』で心情を吐露をするのが人物として、シンジ以上にウエイトが置かれているのがゲンドウです。シンジ役の声優・緒方恵美さんの自伝『再生(仮)』でも書かれていますが、“庵野監督がエヴァを作っているときの心理が、シンジからゲンドウのほうに近くなっている”というところがあると思います。

庵野監督が自身の心を仮託する人物がシンジからゲンドウに移行し、作中でゲンドウがシンジと(エヴァに乗って)親子ゲンカをするところで、子どもが父を乗り越える成長物語になった。また、庵野監督の私小説という視点からは、父について割り切れない気持ちを抱えていた子ども時代に決着をつける、というお話にも見えます。
「物語を鑑賞する自分」は、本当に良かった、めでたしめでたしという気持ちになりました。


■エヴァロスからの、「僕はここにいていいんだ」
そして「良かねーよ!」と反抗する、「共感が欲しい私」が取り残されてしまったのです。
ゲンドウは心の納得を経て電車から降り、ラストシーンには晴れやかな顔でホームの階段を駆け出す大人シンジがいました。

シンジくんには、いつまでも悩んでいる私たちと、いつまでも一緒に寄り添ってほしかったのに……!
シンエヴァを何回も観るたびに、「えっ、シンジもゲンドウもみんな卒業しちゃったの? 現実に帰れってこと!?と取り残されたような気持ちになりました。

私のエヴァロスの理由はふたつあります。

★「エヴァ」でシンジがモラトリアムを卒業するという結末を迎えたこと
★「エヴァ」という自分の人生に長く寄り添ってくれた作品が終わってしまうこと

白いスクリーンの右下に「終劇」と出て、客電がついて、「現実に帰りなさいよ」(二度目)と促されて、モラトリアム劇場を出されたはいいものの、行き場がなくなったエヴァロス民が、私(たち)なのです。

私たちの人生の悩みは、これからも生きている限りなくならない。他人と上手くいかないとか、認めてもらえないとか、生きている限り起こることです。だから人生の悩みとともに生きていくために、寄り添ってくれるシンジくんが必要でした。

そんなエヴァロスになっていた私に、朗報がありました。
『シンエヴァ』キャスト舞台挨拶の全国中継回で、緒方恵美さんがこんなお話をしてくれたのです。
“今回のシンジはみんな(他の登場人物)を送り出す役で、ひとりでこの世界に残っているという気持ちです。『シンエヴァ』には音楽記号のリピートマークがついているので、皆さんもまた会いたくなったら、いつでもエヴァの世界に帰って来て下さい”。

やっぱりシンジくんは、このエヴァのモラトリアム劇場の中にいてくれたんだ!
映画もまだまだ公開中だし、ずっとぐるぐるしていればいいと気を持ち直しました。
エヴァロスになったあなたも、私と一緒に劇場でぐるぐるしてくださいね!

このニュースに関するつぶやき

  • エヴァの世界がループしてるなら、ナディアの世界もループしてるのかなーと思ってしまったりね。
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